2019年2月で愛犬ラブラドール・レトリーバーのクッパが無事に16歳を迎えました。足腰は衰えてきたものの、年齢なりに元気に誕生日を迎えられ嬉しい限りです。今回は長生きの秘訣について、飼い主としてできることをしつけや生理学的、行動学的側面から考えてみたいと思います。
日本の犬の寿命はどんどん延びている!
日本における犬の寿命は、東京大学が行った調査研究によると、平均13.7歳で、30年前(8.6歳)と比べ1.67倍に延びているとのことです。これは、獣医療を受ける機会が増えたこと、手軽にバランスよく栄養が摂れるドッグフードが普及したことなどが、主な理由として考えられると研究者たちは述べています。
また、肥満と寿命の関連を調べた研究では、調査した12犬種全て(日本でも人気のチワワやポメラニアンなどを含む)で、肥満犬は理想的な体重の犬と比べ寿命が短くなることが明らかとなりました。かわいい我が子にはついつい甘くなってしまいますが、カロリー過多とならないよう飼い主がきちんと管理することが必要というわけです。
なるべく長生きしてほしいと考えることは飼い主として当然の心理ですから、よく長生きの秘訣について尋ねられます。肥満にさせないことはもちろん大切ですが、僕は「ストレス耐性」が大きなカギだと思っています。
ストレスとは?
まず、ストレスとは何かについてお伝えします。ストレスとは「何らかの刺激が生体・体に加えられた結果、体が示したゆがみや変調」のことを言います。「仕事がストレスだ」とか「人間関係がストレスだ」といった使い方は厳密に言うと間違っています。動物をストレス状態にするもの、つまり生体に何らかのゆがみを生じさせる刺激を「ストレッサー」といい、上記の例で言えば「仕事」や「人間関係」はストレス状態を引き起こすストレッサーというわけです。
ストレス状態に陥ると動物の体は自律神経などを調節してストレッサーに抵抗する準備をします。緊張した時に心拍が早くなったり、瞳孔が拡大するのはこのためです。そして、長期間ストレス状態が続く「慢性的ストレス状態」では、体は徐々に抵抗力を失い、免疫力が低下するなどバランスを崩してしまいます。
つまり、犬にとって日々の生活の中で必要なこと(例えばブラッシング)が苦手であったり、騒がしい場所で生活している、安心して休息できる場所がないなどの理由から落ち着かない状態が続けば、常にストレス状態となり、病気などにかかりやすくなってしまうわけです。
また、単調な環境で飼育することで、刺激に過剰な反応を示すことがあります。これは異常反応と呼ばれ、犬の場合、例えば幼少期に適切な刺激がない環境で過ごす、全く散歩に出ないなどの暮らしを送ることで、他の犬や人・物音などに過度に恐怖を示す”極度のストレス状態”になってしまうのです。つまり、何も刺激がない状態もよろしくないのです。
適度なストレスは悪いものではない
ストレッサーの程度によっては、動物にとってプラスに働くといった実例もあります。マウスの研究では、ストレスを与えた場合、そうでないマウスに比べ、記憶力が向上するという結果になりました。
また、野生マウスと飼育下マウスの臓器の重量を計測した研究では、ストレス反応で重要な副腎の重量は野生マウスのほうが重いという結果や、 有毒物質への抵抗性が増すという結果になりました。つまり、適度なストレスが動物に良い影響を与えるのです。
これは、野生下のマウスは常に様々なストレッサー、例えば気温や栄養不足、外敵に狙われるといった事にさらされていたのに対し、飼育下では命の危険がない環境で、労せずエサはもらえるため、ストレッサーに適応する能力を維持する必要がなくなり、臓器が退化したからと考えられます。
犬でもまったく同じことが言えるのではないでしょうか?出くわすストレッサーに対し、何でもかんでも飼い主が手を差し伸べ慣れる機会を奪ってしまっては、適応する能力を失い、ちょっとしたことでストレス状態に陥ってしまうという訳です。
飼い主が無理だと思ったらそこまで
しつけの現場で多いのが、警戒して吠えたり、怖がって逃げようとする時に犬を抱き上げてストレッサーを回避したり、逃げたりしたままにすることです。ストレス状態の程度にもよりますので、一概に回避することが悪いとは思いませんが、慣らす機会を奪うことはその先ずっと「同じ状況でストレス状態になる」と同義です。
しかし、同じストレッサーであっても過去に経験したことや似たようなことであれば慣れが生じ、それほどストレス状態にならなかったり、そもそもストレッサーとして認識しないで済みます。長生きのためには毎日のお散歩で出くわす苦手なシチュエーション、ブラッシングや爪切り、トリミングなどのお手入れや、動物病院での保定や採血など生活する上で回避が難しいストレスは早期に慣らし、ストレスと感じさせない事が必要になります。
勘違いしないでいただきたいのは、抱きあげたり回避することが悪いことではなく、慣らす機会を持たないことで、「この子は怖がりだから」とか、「こんな難しいことは無理」などと人が勝手に理由をつけて「犬の限界」を決めないことです。
我が家のクッパは、僕の大学時代、研究に協力してくれ、採血や心電計などの測定器具の装着(もちろん研究結果に影響を及ぼさないよう充分な馴致期間を設けます)、小学校や老人ホームへの訪問、しつけ方教室でのデモンストレーションなどで大勢の人や犬の前に出るなど、仕事柄様々な経験を経てきました。そんな経験によって強靭な精神の持ち主になってくれたことも、長生きと無関係ではないと思っています。
ストレス耐性を上げるためには、飼い主はボディーランゲージなどから犬の様子を正しく解釈し、ストレス状態の程度を判断する能力が求められます。あまりにもストレス反応が強い場合は回避、そうでなければ距離を取る、時間を短くする、美味しいおやつをあげるなどの対策をしたうえでストレッサーに対処し、乗り越える力も身に着けさせることが、養育者としての飼い主の役割となるわけです。 かわいいワンちゃんのために、犬という動物をよく知って、長く愛犬との生活を楽しんでいただければと思います。