映画『駅までの道をおしえて』 愛犬との別れと喪失感、そして「ありがとう」

2019年10月18日(金)より映画『駅までの道をおしえて』が全国で公開されます。ひと足早く試写会に行ってきました。泣けます。でも悲しい涙ではありません。あたたかい涙がこぼれる作品です。さらに出演犬のトレーニングを担当したドッグ・トレーナーの西岡裕記さんから、撮影秘話や現在の2頭のハッピーな生活ぶりについてもお聞きできました。
また最後に公益社団法人アニマル・ドネーションと本映画とのコラボレーション企画についてもご紹介します。

愛犬がいなくなったことを受け入れられない少女と失意の老人

本作は、直木賞作家・伊集院静氏の同名短編小説を映画化したもの。ストーリーは、8歳のサヤカと、ペットショップの売れ残りの柴犬との出会いから始まります。でも両親は、簡単に犬を飼うことを承諾しませんでした。

「犬はね、どんなに長生きしても10年とか15年とかそれくらいしか生きられないんだ」と、お父さん役の滝藤賢一さんがサヤカに言い聞かせます。家族会議をして犬を迎えるかどうか、サヤカも膝を抱えて考え込みます。

こういう場面をきちんと見せるのも、この映画が犬という存在をリスペクトしている現れだと感じました。

映画「駅までの道をおしえて」リビングで話す女の子と家族

サヤカは悩んだ末に、晴れてルーを迎えることになり、ふたりは親友になりました。しかし、思っていた以上に早くルーが死んでしまいます。ルーとの死別をどうしても受け入れられないサヤカ。そんなとき、放浪していた茶色いルースに出会います。

そのルースが気になっていたところ、数日後に近所の喫茶店の前につながれているルースを発見。そこでちょっと偏屈そうな老人、喫茶店のマスターのフセさん(演者は笈田ヨシさん)と会います。彼もまた若くして先立たれた息子のことを思い、ずっと失意の中にいました。大事な家族を失い、大きな喪失感を抱えていた老人と少女は、しだいに友情で結ばれていきます。

映画「駅までの道をおしえて」女の子と老人

1年以上前から一緒に暮らして信頼関係を育んだ、役を超えた絆

白い柴犬のルー(本名は今もルーのまま)は、監督の意向で、撮影が始まる前から約1年半、子役の新津ちせさん(少女サヤカ役)のおうちに暮らして、本当の家族同様に絆を育んできました。まさに愛犬そのままです。

ちせさんは、ルース役のミノルカとも現場ですっかり仲良しになり、待ち時間も散歩に行ったり仲良く遊んでいたそうです。それだけに、幼いながらも目で語る小さな名女優ちせさんの演技も本当に素晴らしいのだけれど、犬とのシーンは、演技を超えた自然体の犬への愛情を感じ、よけいに涙を誘います。犬好きにとっては、ハンカチ必須です。

また、ストーリーからははずれるのですが、とても心を動かされたのは、なんて子どもって、楽しそうに犬と散歩をするのでしょう!ということ。犬もサヤカもすごい笑顔で、一生懸命リードを握って、同じスピードで全速力で一緒に走ったり、掘ったり、腰かけたりする姿がなんとも微笑ましいのです。子どもも犬も、本当に純粋で楽しそう。演技を超えた、心同士がつながっている姿に心を打たれました。

映画「駅までの道をおしえて」土手に座る女の子と白い柴犬

ほぼ時系列に撮影されたので、実際のちせさんの成長というか、サヤカの心身の成長ぶりも見てとれ、ドキュメンタリーを見ているような気持ちにもなりました。桜並木、青々と生い茂る原っぱの夏草、青い海、雪景色(さすがに東京では撮影は無理かと東北地方で撮影するのを検討していたところ、奇跡的に大雪が降り、秘密の原っぱでの撮影が実現したそうです)など、サヤカが成長する間の四季の移ろいも美しいです。
 

ルース役は、元野犬の保護犬を抜擢

撮影の現場で、ルー(ルー役)と、ミノルカ(ルース役)に、演技指導や犬への負担を減らすよう尽力したドッグ・トレーナーの西岡裕記さんにお話しを伺うことができました。

ルーは、西岡さんが関わる前からすでにちせさんの家で暮らしていましたが、その後ルース役を探す際、監督からのリクエストは「電車に乗るシーンがあるので、キャリーバッグに入るサイズ」くらい。犬種の指定はなし。むしろ保護犬の雑種がいいかもということで、監督、制作スタッフ、西岡さんたちは、いくつかの譲渡会や預かりさんのところへ出向き、いろいろな犬に面会に行きました。

プロの西岡さんが最も重視したのは、性格。撮影をなるべくストレスに感じない順応性、また怖さのあまり脱走したりしない心の強さなどです。犬への負担が極力少ないことがいちばん大事。アニマルウェルフェアの考え方からしても重要な視点です。

映画「駅までの道をおしえて」草原で伏せる雑種犬を抱きしめる女の子

そんなとき西岡さんは、以前、自分がボランティアで半年ばかり預かっていたもともと野犬で保護犬だった雑種のミノルカのことを思い出します。半年ともに過ごしていたから性格も動きもよくわかっているし、そのときはすでに新しい飼い主さんのもとでとても穏やかないいコになっていたので、ミノルカならなんとかなるだろうと思い、監督に紹介したところ、抜擢されました。

「犬に無理はさせない」。カチンコの音も小さくやさしく

それでもミノルカはやはり元野犬のコ。現場ではたくさんの機材、マイク、ライトなどに囲まれ、スタッフも大勢。また夏場の撮影では、多くの演者さんが待ちの間、日傘を差すのですが、ミノルカも最初は傘にビビっていたそうです。さらに「はい、カット!」のいわゆるカチンコの「カチン!」という大きな音にもビビりまくり。けれど、監督はとにかく「犬には無理をさせない」という方針。スタッフはじめみんながミノルカに配慮してくれて、カチンコの音もやさしくカチンとするようになったそうです。

映画「駅までの道をおしえて」女の子と雑種犬のお散歩

おかげで最初はガチガチだったミノルカも順応していきました。撮影の合間に、ちせさんが、ミノルカと散歩に行ったり、遊んだりしてくれたのも、ミノルカの心をほぐしてくれたのかもしれません。

「最後のシーンなど、ボクの指示ではなく、ちせさんの合図でミノルカが堤防にぴょんと上ったんですよ。いちおうボクも何かあったときのためにすぐそばにいましたが、もうちせさんとミノルカの関係がしっかりできあがっていました」と西岡さん。そして今回の撮影でいちばん感じたことは「犬ってすごい成長するんだなってこと。元野犬で行動が読みにくいうえに、身体能力も高くてやんちゃなミノルカは、最初の里親さんちから2回も脱走して、保護団体に出戻りしたんです。それでボクが預かることになったんですが、あんなにビビりだったあのコが、撮影を楽しむ余裕すらあるほどに成長しました。驚いたし、嬉しかったです。ラストシーンなど凜とすごくいい顔していて涙がでました」
 

撮影中、仲良しになった2頭はいま一緒に暮らしている

ちなみにクランクアップ後、ルーとミノルカはどうしているのでしょう。こういうの気になりますよね。

ルーとミノルカは、映画の中では一緒にでるシーンはなかったのですが、現場に2頭いる日は多かったそうです。撮影の合間にすっかり仲良しになり、待ち時間にじゃれ合っていた2頭を見ていた監督が、撮影後に、ミノルカの飼い主さんに相談してみると「うちでよかったら、ぜひ」と快諾され、ミノルカとルーは同じおうちに暮らすことになりました。

もともとルーは監督かスタッフが引き取るつもりだったそうですが、ルーにとっては、年齢も同じ仲良しのミノルカと暮らせるのは最高のことでしょう。そしてミノルカにとっても、映画にでたことにより、ルーという親友ができました。最高のハッピーエンドです。

「ミノルカのおうちは本当にいいご家族なんです。旅行に行ったり、2頭で遊んだりしているリア充っぷりをインスタで見て、ボクもいつもニヤニヤしちゃうんです」と西岡さんも嬉しそうです。

映画「駅までの道をおしえて」出演犬ミノルカとルーの家族写真
ルーとミノルカの実際のご家族

この映画は、少女の成長の物語ですが、ルーとミノルカにとっても成長物語となりました。小学生くらいのお子さんのいる家庭で、犬を迎えるかどうか検討している家族、年齢に関係なくすでに一緒に暮らしていて、いつか必ず訪れる死別、ペットロスが不安な人、あるいは大事な愛犬(または人)との別れを経験した人など……とても心に響く映画だと思います。
ぜひルーとミノルカと、そして可愛くて必死なサヤカに会いにいってみてください。10/18公開です!

▶映画「駅までの道をおしえて」公式サイト

<映画とアニマル・ドネーションのコラボ企画>
寄付という一歩で小さな奇跡を
動物関連団体へのオンライン寄付サイト運営の公益社団法人アニマル・ドネーション(以下アニドネ)では、映画「駅までの道をおしえて」の公開を記念したコラボレーション寄付企画を行います。

飼い主不明の犬が保護されて、次の飼い主さんに出会うまでには、個体差はあるものの平均して1頭につき約 5 万円かかるそうです。保護活動の多くは、民間の団体のみなさんが手弁当か、あるいは集まった寄付でまかなっています。

映画の主人公サヤカのように実際に犬を迎えることはできなくても、「寄付」と いうアクションで犬や猫たちを救うことができるということを、多くの人に知ってもらいたいと、このコラボ企画が決まりました。

期間は 10 月4日から 12 月 31 日までで、目標寄付金額は 100 万円。寄付という一歩で、小さな奇跡をたくさんの犬猫たちに起こしましょう。

▶詳細はコチラ

 

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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