facebook twitter rss

検索

犬のトイレトレーニングにご褒美が必要ない理由

子犬を家に迎え入れて一番初めに悩むことの一つが「トイレトレーニング」ではないでしょうか?犬のトイレトレーニングとは様々な場所で好き勝手に排泄せず、所定の場所や合図で排泄するトレーニングのことを言います。

一昔前は「失敗した場所に鼻をこすりつけろ!」などと言われていましたが、現在ではもってのほか。その場所に行くことが嫌になるか、怒られるので人前でトイレをしなくなるのが関の山で、正しいトイレの場所を覚えるわけではありませんし、福祉的にも絶対に許されるべきではありません。

代わりに、ほめてしつける方法いわゆる「陽性強化法」が普及するにつれ、書籍やwebコラムでは「トイレができたら褒めましょう!」と紹介されるようになりました。その甲斐あって、トイレが成功したら褒美を取り出し、「いいこ~!」とたくさん褒めている飼い主さんに出会うことも増えてきましたが、僕は今までトイレトレーニングで犬を褒めたことはありません。

そして、それがもとでトイレを覚えなかった犬もいません。なぜなら実はトイレを覚えることに褒めることは必要ないからです。つまりトイレができた時に慌ててオヤツをあげることも、褒められなかったことを後悔する必要もないのです。では、なぜオヤツをあげたり、褒めなくてもトイレを覚えるのか、学習の仕組みを交えて解説していきます。

 

トイレトレーニングは「パブロフの犬」の仕組みを利用する

前回のコラム『吠えた時にご褒美をあげると吠えは減る?トレーニング上級者が陥りやすいこと』でもお伝えしたように、動物の学習にはいくつか種類がありますが、トイレのしつけでは「パブロフの犬」の方法を活用します。パブロフの犬は動物が生まれつき持っている「不随意反応」(動物の意思とは関係なくおこる反応や運動)や「感情」が、それまで関係のなかった刺激によって誘発されるようになる「古典的条件付け」という学習です。生まれつき持っている「反応」の前に「それまで関係のなかった刺激」の呈示が繰り返しおこることで身につきます。

最もわかりやすい例は、人が梅干しを見ると唾液が出るというものではないでしょうか。唾液は梅干しを口に含むことでクエン酸など酸味を感知し、それを薄めようとして反射的に分泌されます。つまり本来、唾液の分泌に梅干しを「見る」という刺激は必要ないのです。ただし、梅干しを食べるときは必ず梅干し自体を「見る」という視覚刺激(それまで関係のなかった刺激)を伴いますので、見るだけで唾液が出るという反応は、梅干しを食べることを繰り返すだけで身についていくのです。したがって、梅干しを食べたことがない(学習の機会や経験がない)外国人の方などは、梅干しを見ても唾液の分泌が起こりません。

ヨダレ_572×429

話をトイレトレーニングに戻すと、犬のトイレトレーニングは場所で感じる刺激、例えば足の裏の感触といった触覚刺激、その場の匂いなどの嗅覚刺激、「ワンツー」など人の言葉による合図である聴覚刺激といった、様々な「それまで関係のなかった刺激」と尿意や便意、それに伴う排泄といった「反応」を結びつけることをします。犬は柔らかくふかふかした素材で排泄を好む習性(ですから、布団やバスマットなどで失敗してしまう事があるのです)があるため、尿意や便意を感じやすいタイミング(ご飯、水を飲んだ後、寝起き、運動(興奮)した後)にトイレシーツ(柔らかくふかふかした素材)のうえに連れていけば、自然と排泄します。
●参照:『子犬の飼い方・しつけ方 ~室内でのトイレのしつけ方~

よって、排泄の最中に感じているトイレシーツの感触や場所の匂いは、トイレをする経験を繰り返せば排泄を促す刺激となり、習性とあいまってトイレシーツの上に乗ることでより排泄を促すようになります。また、排泄している最中に言葉の合図をかければ、言葉(関係のなかった刺激)が排泄(反応)を促すようになっていくのです。つまり、トイレトレーニングのポイントはどれだけトイレシーツの上で排泄をする(必要であれば言葉の合図をかけながら)ことを繰り返したかであり、その経験によって自然とトイレシーツや言葉が排泄を促すものになるのです。排泄をしたい時(尿意や便意のある時)に、結びつけたい刺激を与えればいいのです。多くの書籍でもトイレトレーニングはこの「古典的条件付け」を基に書かれています。

 

古典的条件付けに報酬は必要ない

さて、ここでご自身の経験を思い出していただきたいのですが、梅干しを見て唾液が出た時に褒められた方や、褒められてから初めて梅干しを見て唾液を出すことを覚えた方はいらっしゃいますか?まずそういった方はいないでしょう。梅干しを食べることがご褒美だろうと思うかもしれませんが、梅干しが嫌いな方でも唾液はでます。つまり何が言いたいかというと、古典的条件付けの「反応」に「報酬(オヤツや褒めること)」は必要ないのです。

ですから、トイレが成功した時に慌ててオヤツをあげなくてもいいですし、声をかけたりなでたりして褒める必要もありません。しかし、犬のトイレトレーニングになると何故かオヤツや褒めることがでてくるのです。おそらく、プロのドッグトレーナーや飼育経験豊富な飼い主さんでも、「良いことをした時」に犬にとってうれしいことを与えれば、良いことを覚えるという「オペラント条件付け」と「古典的条件付け」であるトイレトレーニングを混同されている方が多いのではないでしょうか?

 

トイレとオヤツの関係

では、オヤツや褒めることは犬にとってどんな意味を持つのでしょうか?人間に置き換えて見ると、梅干しを見て唾液が出た時に褒められたら、人は唾液を出すためにまず梅干しを探したり、酸っぱいものを連想するでしょう。仮に梅干しを探した場合、視界に梅干しが入るだけで唾液が出ます。やはりここでも、唾液の分泌という「反応」「報酬」は全く必要ないのです。唾液の分泌は心臓の拍動と同じく意識的に起こせない不随意反応であるため、食べ物を口に入れたり、酸っぱいものや美味しい食べ物を連想したり、それに伴う匂いを嗅ぐなどしないで分泌することはできません。

トイレトレーニング_オヤツ572×429

ですから、いくら唾液の分泌を褒められたとしても、意図して起こせないものがコントロールできるようにはなりません。では、何を褒めたかというと唾液を出すために「梅干しを探したこと」や「酸っぱいものなどを連想したこと」など、自ら意識して起こしたことです。犬のトイレトレーニングで言えばトイレの場所に行ったことで、そこで排泄をするかは別問題なのです。

強いてオヤツや褒めることで効果をあげるとすれば、トイレでご褒美をあげる事によりその場所が好きになるため、トイレに行きやすくなる(その場所を選択しやすくなる)といえますが、尿意や便意を感じた結果、トイレで排泄すれば「排泄するという行動自体」がご褒美になります。つまり排泄欲という生理的欲求が満たせた場所というだけで、十分その効果が望めます(むしろ、ご褒美よりも排泄したい時にそれができる方が報酬としては大きな効果を生みます)ので必ずしも必要ありません。

どちらかと言えば褒めることは、飼い主さんが頭を悩ませるデメリットのほうが大きいように感じます。どういうことかというと、自由に排泄させている場合、何度も何度もトイレに行き少量排泄するたびに、場合によっては、排泄しなくてもいきむだけ、トイレに行くだけなど、褒めるべきか悩んだり、そもそも何を褒めればいいのか混乱してしまったり、常に様子をうかがい疲れてしまったなんていうこともあるではないでしょうか。

 

トイレの成功を褒められなくてもまったく問題ない

ただし、褒めていたとしても「褒めないでください」とあえて飼い主さんにお伝えしたこともありません。なぜなら、オヤツをあげたり褒めたりすることで、犬がトイレを覚えなくなることはないからです。ですから、少し冷たい言い方ですが、褒めることは飼い主の「自己満足」といったところで、褒めたければ褒めていいと思います。

ドッグトレーナーとしてはたとえ意味がなかったとしても、日常生活の中で愛犬の細かな様子に気を配れる素晴らしい飼い主さんが増えることは、とても喜ばしいことだと思っています。少し理屈っぽく、偉そうな物言いになってしましましたが、既存の手法論の批判がしたかったわけではなく、犬を飼い始めてトイレトレーニングで悩んでいる方に「慌てて褒める必要はまったくないですよ~!」ということが言いたかっただけですのでご容赦ください。
 

三井翔平

ドッグトレーナー(スタディ・ドッグ・スクール所属)、学術博士、国際資格CPDT-KA

>詳細プロフィール&記事一覧

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

犬の健康とくらし
犬の病気事典

FOLLOW US

フォローして最新情報をチェック

facebook twitter rss