犬のしつけにアイコンタクトは本当に必要?|ドッグトレーナー連載

しつけ教室や本、最近ではYouTubeなど様々なコンテンツで犬のしつけやトレーニングについて語られていますが、多くの場合、しつけに「絶対必要な練習」として初歩段階でアイコンタクトトレーニングを導入する場合が多いように思います。
今回はしつけの様々な場面で必要とされるアイコンタクトについて、なぜ重要視されているのか、本当に必要なのかについて考察していきます。

犬のしつけにおけるアイコンタクトの意味

犬は視線を介して人間とコミュニケーションを取る動物で、「犬と飼い主が見つめ合うことで愛情ホルモンが増加する」ことが明らかとなるなど、視線を上手に使う生き物です。上記研究には一部僕も関わっており、犬の視線の重要性はそれなりに理解しているつもりです。しかしながら、現在ドッグトレーナーとしてしつけの現場や問題行動の改善などに携わっていますが、正直に言うとアイコンタクトの練習を全く行いません。

公園で飼い主を見上げるヨークシャーテリア

犬のトレーニングにおいてアイコンタクトは古く(体罰などを主流としたしつけの時代)から実施されています。その理由の一つに「ご主人様から勝手に注目を外してはいけない」などとし、上下関係を教えるためにアイコンタクトが必要であるとされているケースがあります(主人に対してすぐにリアクションが取れるように待機しておけ!それができないのは舐めているからだ!というトンデモ理論です…)。しかしながら、すでに犬は人に対して上下関係を求めないことが科学的に明らかとなっていますので、この理屈は的外れといえます。
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頭を撫でられて嬉しそうな柴犬

現代のしつけの手法は世界的に、犬が正しいことをしたときに褒めて、ご褒美などの楽しいことを与える方法(陽性強化といいます)へと変化してきていますが、アイコンタクト自体は今でも、「練習するべき理由」を変えて残り続けています。その理由は、人間同士のコミュニケーションと同様に「注目をさせるため」と記述されている事が多いかと思います。

しかし、「ご褒美から目をそらさせて人と目を合わせることを強要する」ことには変わらず、「注目をさせるため」というもっともらしい理由を後付けしているだけのように感じることもあります。

そもそもアイコンタクトとは?

人のアイコンタクトは非言語コミュニケーションの一つで、対人関係における基本的なルールであり、重要なコミュニケーションスキルの一つとされています。この傾向は欧米人で強くみられ、文化差があることが知られています。

目を見ることは自分の意志や、思いを伝える手段として用い、また、注意の尺度としても認識され、会話の最中に視線を他方に向けることは「注目を欠いた」、「集中していない」などとみなされ、配慮にかける行為として無礼であるとみなされることもあります。また、例えば威圧的に見ることにより、相手よりも優位に立とうとするなどの社会的関係を確立することにも関与しています。

見つめるダックスフンド
人間の親子では、子供が親を見ることは愛着における重要な要素で、親の関心を引くための愛着行動です。愛着行動とは子供が親との繋がりを維持し、世話(養育)を引き出すために必要で、両親はそれを自身への合図と解釈し、子供へ接近しようと試みます。つまり、アイコンタクトは泣いたり微笑んだりすることと同様に、生きていくために必要なのです。

また、アイコンタクトは赤ん坊が教えられなくても行う本能的な行動の一つです。しかしながら、人間の研究において、目と目をしっかりと合わせるアイコンタクトの重要性はあまり明らかになっておらず、アイトラッキング(どこを見ているのか計測する)技術を用いた研究では、「顔を大まかに見ているだけでアイコンタクトをしていると認識した」といった結果が出ました。つまり、受け取り側がどう捉えるかであり、手法としてバッチリ目が合う必要はなかったという訳です。

アイコンタクトでなくてもOK、犬の注目を得ることが大事

話を犬に戻すと、どんなに優れた犬でも自分に言われていることに気づけなければ、指示はきけません。裏を返すと、しつけにおいて大切なことは、犬に注目してもらい人間のやってほしいこと(指示)を伝えることです。

では、アイコンタクトをして視線が合うということは絶対に必要なのでしょうか?答えはNOです。あくまで意識が向いていれば人の意思を伝えることは出来ます。大切なことは注意をひくことであり、アイコンタクトでなければならない理由はないのです。

ハイタッチするボストンテリア
ましてや、人の研究からも明らかなように、普段生活している場合、人はなんとなく顔を見られていればアイコンタクトされていると認識するもの。それでも犬の目線を過度に気にして、目と目がバッチリあうアイコンタクトを強要することは、知らず知らずのうちに、本来上下関係を必要としない犬との付き合い方に、威圧的な社会的優位性を持ち込んだり、そもそも人の倫理観とは無縁な生き物に対し、擬人化して無礼だと憤ったりデメリットのほうが大きいような気がします。

もちろん注目を促すという意味ではアイコンタクトの練習が無駄だというわけではありませんが、僕は人間の勝手な満足感や、目が合えば、おそらく自分に注目しているであろうという尺度に過ぎないのではないかと思っています。

犬に注目してもらうためには?

犬に注目してもらうことはとっても簡単です。人間の親子のように、我々が彼らから発せられる視線の合図に敏感に反応してあげること。また、「人」と「楽しいこと」を結びつける体験をさせてあげることです。そうすれば、強要することなく自然と目があったり、指示が発せられる口に注目したりするなど、勝手に覚えていきます。視線が合うことを強要するよりもよっぽど素敵な関係が築けるでしょう。

やり方はとっても簡単。下の動画をご覧ください。言葉をかけてご褒美をあげるだけです(動画では「いい子!」という褒め言葉を用いています)。この時、視線が合わなくても構いません(そもそも犬は「言葉」の意味など知るはずもないので、やったことがなければ向くはずがありません)。単純ですが、これを繰り返せば、言葉をかけられれば自然と嬉しくなりますし、嬉しい言葉をかけてくれる飼い主さんへの注目度もアップします。

 

三井翔平

ドッグトレーナー(スタディ・ドッグ・スクール所属)、学術博士、国際資格 CPDT-KA(Certified Professional Dog Trainer - Knowledge Assessed) 麻布大学大学院獣医学研究科博士後期課程にて犬と人のコミュニケーションに関する研究を行い博士号を取得。その後 ドッグリゾートWoof 専属チーフドッグトレーナーを務め、日本テレビ系「ザ!鉄腕!DASH!!」のダメ犬・デブ犬克服大作戦をはじめとしたTV番組にも出演。現在はスタディ・ドッグ・スクールを拠…

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