ペットの高齢化に伴い、往診診療を希望する飼い主さんは増えています。獣医師が自宅を訪問して行う医療とは?
今回は神奈川県藤沢市を中心に往診診療を行っている丸田香緒里先生に同行しました。訪問先は、飼い主さんの前澤さんと、愛犬のラブラドール・レトリーバーの沙羅ちゃん。寝たきりになってからすぐ、丸田先生に往診を申し込んだそうです。
獣医師、ペット栄養管理士、ホリスティックケアカウンセラー、メンタルカウンセラー。神奈川県藤沢市を中心に、茅ヶ崎市や平塚市などで往診を行っている。対象動物は、犬、猫、鳥、小動物。診察に加えて、主にシニアのケア、リハビリの指導、カウンセリングにも対応。
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往診診療を依頼することにしたきっかけ
前澤さんに通院から往診に切り替えたきっかけや経緯を詳しくうかがいました。
「沙羅は昨年末から少しずつ後ろ足が弱ってきていたので、往診してもらえる先生を探していましたがなかなか見つかりませんでした。今年になって急に倒れて立てなくなり、2月1日には寝たきりになってしまいました。しかも触ってわかるくらい熱が出ていて。困り果てて夜中にネットでまた調べたら、偶然そこで丸田先生のホームページを見つけたんです」と前澤さん。
深夜にメールを送ったところ翌朝に返事があり、すぐに往診をお願いすることに。今では「沙羅が結んでくれたご縁」と、前澤さんと丸田先生は笑顔で介護の話をしています。
自宅で行う治療、検査、ケアの流れ
往診は手術、レントゲンや超音波の検査はできないため、今後必要になった場合、急患対応の一環として、動物病院への送迎を考えているそうです。同行した日は沙羅ちゃんの5回目の診察でした。往診の流れを紹介しましょう。
●問診
●触診などの基本的な検査
●飼い主さんへの説明
●血液検査
後日、血液検査結果説明
●リハビリ
●温熱治療
●皮下補液
●ケア
●処方、次回までの説明
飼い主による介護のアイデア
前澤さんは沙羅ちゃんが寝たきりになる前から、介護の備えをしていたそうです。
「何が起きても慌てずに対処できるよう、情報収集して心の準備をしておきました。前もって介護のグッズも買っておいたんです。人の介護用グッズが意外と使えるんですよ!」
二人三脚で治療と介護を続け、先日は沙羅ちゃんが自分で寝返りを打てるように!「自宅でできるケアはたくさんあります」と、丸田先生も工夫を推奨しています。
●オムツ
●ウンチの処理
●ベッド
●靴
●吸い飲み
●スプーン
往診だからこそできること
往診を受け付ける曜日や時間は決まっていますが、シニアは体調が急変するため、ときには往診時間外に急患対応を行うことも。前澤さんも依頼したことがあるそうです。
「急に熱が出たりけいれん発作のような状態になったりして、深夜に往診していただいたことがあるんです。いつ何があるかわからなくて不安でしたが、丸田先生がすぐ対応してくれるので安心して過ごせるようになりました」
往診は生活環境や家族構成がわかるので、動物病院での診療に比べ、飼い主さんができるケアを的確にアドバイスできるようになったそうです。
「ご家庭の状況によって、できることやできないことは違いますよね。良かれと思って伝えたことができなかった場合、飼い主さんには後悔が残ってしまいます。無理なくできることを見極めて、お伝えするように心がけています」
カウンセリングでは、介護の先にある別れやペットロスのつらさをやわらげるための相談も受け付けています。獣医師と飼い主という立場を超えて長くお付き合いができるのも、往診診療ならではのメリットではないでしょうか。
前澤さん(鎌倉市在住)
愛犬はラブラドール・レトリーバーの沙羅ちゃん(メス15歳2ヶ月)とMIXの花ちゃん(メス・1歳)。寝たきりになった沙羅ちゃんが快適にすごせるよう、食事やベッドにさまざまな工夫をしている。そのアイデアは丸田先生が他の飼い主さんに広めている。※沙羅ちゃんはこの取材の後、3月5日に虹の橋を渡りました。ご家族に見守られ、前澤さんの腕の中で、穏やかに旅立ったそうです。
(文・構成:金子志織)
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