「獣医師の往診による介護とケア」通院が困難なペットの医療

動物の医療の発達に伴い、高齢化が進んでいます。その一方で、ペットの種類や大きさ、症状によっては、動物病院への通院が難しくなることも。また外出が苦手な猫は、通院がストレスになりかねません。「自宅で診察してもらえたら」と希望する飼い主さんは、年々増えています。

今回は往診診療を行う獣医師の丸田香緒里先生に、始めたきっかけや通院との違いについてうかがいました。

kaori_150獣医師:丸田香緒里先生

アニマルライフパートナー 代表
獣医師、ペット栄養管理士、ホリスティックケアカウンセラー、メンタルカウンセラー。神奈川県藤沢市を中心に、茅ヶ崎市や平塚市などで往診を行っている。対象動物は、犬、猫、鳥、小動物。診察に加えて、主にシニアのケア、リハビリの指導、カウンセリングにも対応。
アニマルライフパートナー

ペットの往診診療を始めたきっかけは?

往診診療を行っている動物病院が極めて少ない状況で、丸田先生が始めたきっかけについて詳しくうかがいましょう。

「Animal Life Partnerの活動を始めてすぐは、飼い主さん向けのカウンセリングやセミナーを行っていたんです。暮らしや病気のご相談に乗ったり、予防医療の情報発信をしたり。そういう場で飼い主さんから、『丸田先生に診てもらえたらいいのに』と言われることが多く、それなら思い切って往診を始めようと決めたんです」

十数年前のペットブームのときに迎えられた動物がシニアになり、往診を求める飼い主さんは今後も増えそうです。

往診_丸田先生
往診の前には基本的にカウンセリングを行う。初対面でいきなり診察されることに抵抗がある飼い主に配慮する意味も。顔を合わせて安心してもらい、往診に移る。

アニマルライフパートナーで対応できる動物や症状

丸田先生は犬猫をはじめ、小動物や鳥の往診に対応しています。特に往診の依頼が多い動物は、シニアの大型犬。次いで、キャリーに入れられない猫だそうです。往診_猫

治療の選択肢がなくなった、通院で無理をさせたくない、というケースが多いです。往診の前にカウンセリングを行い、飼い主さんの希望やペットの状態を聞くことにしています。

症状を聞いてお断りすることは基本的にありませんが、レントゲンや超音波検査、手術といった対応できないことは、かかりつけ医や別の動物病院へお願いしています」

往診バッグ
往診に持参するキャリーバッグ。訪問するペットの状態に応じて中身を調整する。

持参できる医療器具が限られているので、検査や投薬で経過を見る慢性疾患に対応することが多いそうです。加えて、足腰が弱った場合のリハビリ、歩行や食事の介護、免疫アップが期待できるリンパマッサージ、はり治療、お灸といったことも行っています。

「リハビリやマッサージは、飼い主さんができるように教えています。毎日行うことで効果も上がるはずですから」往診_マッサージ診察はペットの状態に応じて週1〜2回が基本。1日3〜4件ほどうかがうことが多いそうです。

【往診で可能な検査・治療】
・一般身体検査(触診、聴診、体温など)
・血液検査(結果は数日後になる)
・皮下注射(栄養剤など)
・リンパマッサージ
・介護
・リハビリ
・食事指導
・経口薬処方 など

 

動物病院での診察と往診の違い

通院と往診の違いは、検査や治療だけではありません。丸田先生によれば、飼い主さんとの関わり方も大きく変わったそうです。

「往診は1件につき1時間ほどかけています。飼い主さんと話す時間がとても長いので、要望をくみ取りやすいのがいいですね。心を許してくださるせいか、動物の状態を丁寧に説明してくださるんです」

往診車_572
藤沢市湘南台を中心に半径15キロの範囲で往診を実施。往診に対応しているのは、月、火、金、日曜日の9時〜19時。往診料金は診察料と処置料に加え、アニマルライフパートナー(湘南)からの距離に応じて、半径5km2000円、半径10km3500円、半径15km5000円がかかる。

ご自宅にうかがうにあたって注意していることもあると言います。

「獣医師以前に、人としてのマナーが大切だと実感しています。ご自宅にうかがうわけですから、当たり前のことですよね」

最期まで笑顔で過ごせるようにサポート

悩みを抱えた飼い主さんに寄り添えるように、丸田先生はメンタルケアカウンセラーの資格を持っています。

往診を希望する飼い主さんは、『ペットのためにできることは何か』と悩みを抱えています。最近は循環器科や脳神経外科などの専門の科が増えて、高度医療もできるようになりましたよね。選択肢が増えた分、悩む飼い主さんも増えているんです。お金をかければ治療できるのか、ペットに負担をかけるのでは、といった声をよく聞きます」往診_犬に触れる

家庭の状況や犬の状態に応じて、無理のない治療を提案しているそうです。

「介護は楽しまないと!最後は絶対にお別れですから。悲しみしか残らないよりも、楽しい思い出を作ってほしいと思います」

往診_オムツ飼い主の工夫
逆に飼い主から介護の工夫を教えられることも。それを丸田先生が多くの飼い主に広めているそう。

飼い主さんには何事も前向きに伝えているとか。例えば「ごはんをあまり食べない」という悩みには、「こんなに食べられた!」と思考の転換ができるように常にお話をしていきます。
とはいえ、診察しているうちに最期が近づいていることがわかる場合もあるそうです。

「覚悟している方もいれば、まだまだ元気と思っている方もいます。心の準備をしていただくために、今後のことを少しずつご説明するようにしています」

往診_子犬

往診はシニアが大半ですが、ときには子犬を診ることも。愛犬を看取った飼い主さんから、「新たに犬を迎えた」と連絡があるそうです。

往診を始めてよかったこと

飼い主さんとの距離が近くて、まるで家族のように接していただけることです。一緒に過ごす時間が長いので、介護やケアまで丁寧にお伝えできます。動物病院の診察では得られなかったやりがいですね」往診_丸田先生丸田先生の愛犬のアイちゃんは現在15歳。ご自身でも世話や介護を経験しているため、「シニアの飼い主さんに、ご飯のあげ方や向き合い方などを教えられたら」とかねてから思っていたそうです。

「アニマルライフパートナー」という動物病院らしくない名前には、飼い主さんとペットの暮らしに寄り添う気持ちが表れています。

(文・構成:金子志織)

金子志織

編集&ライター、愛玩動物飼養管理士1級、防災士、ヒトと動物の関係学会会員、いけばな草月流師範 前職はレコード会社でミュージシャンのファンクラブ運営を担当。そのときに思い立って甲斐犬を迎える。初めての子犬の世話に奮闘するうちに動物への興味が湧き、ペット雑誌や書籍を発行する出版社に転職。その後、フリーランスのライター・編集者として独立。飼い主さんと動物たちの暮らしに役立つしつけや防災の記事から、犬のウンチングスタイルなど雑学の記事まで作成。現在も犬と猫を中心に、ペット関連のさまざまな雑誌、書籍、We…

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