前回、ストレス状態で生じる葛藤行動について書きましたが、欲求不満のストレス状態にさせないためには犬が本来持っている欲求、つまり「本能行動」を満たしてあげることが大切です。本能行動にはものを食べる「摂食行動」や、繁殖のための「性行動」など様々ありますが、今回は上手に活用することで人間が比較的満たしやすい犬の「遊戯行動」についてお伝えしていきます。
犬は遊び好き
「遊ぶことが本能なの?」と思う方もいるかもしれませんが、動物の行動レパートリーの中には「遊戯行動」というものがあり、程度の違いはあれど「遊びたいという気持ち」は本能的に持っている欲求の一つです。
また、「“子供っぽさ”が人と暮らすカギ~ネオテニーについて~」の回でもご説明した通り、人間に飼いならされる過程で幼さを残してきた犬は、大人になってもよく遊ぶ動物の一つです。特に活発な子はお散歩だけでは運動量が満たせない場合もありますので、遊びはとても効果的です。
ではどうやって遊べば犬が楽しんでくれるのでしょうか?
噛み付く、引っ張るだけが遊びではない
引っ張りっこについて考えてみましょう。犬にとって楽しいことは「噛む」ことでしょうか?それとも「引っ張る」ことでしょうか?
答えは両方です。
厳密に「引っ張りっこ」の一連の流れを分割してみると、犬はまずおもちゃを見つけ、続いて凝視します。そして、おもちゃに忍び寄り、追いかけ、噛みつきます。噛みついたら引っ張ったり、振り回したりして、おもちゃを得る、というように細かいパーツに分割することができます。
この一連の流れがすべて遊びなのです。ですから、ただ単に落ちているおもちゃを拾わせて引っ張りっこするよりも、おもちゃを動かし追わせてから噛みつかせ、引っ張りっこをして最後におもちゃを与える方が犬にとっては楽しいことなのです(獲物を取るための本能的な行動である探索行動や摂食行動の項目を、遊びの中で数多く満たすため)。
このように、追いかけたことのご褒美が噛みつくこと、噛みついたことのご褒美が振り回すことや引っ張ることといったように、行動が行動のご褒美になることを「プレマックの原理」といいます。あまり遊ばないという子は投げたドッグフードを追わせるなどの狩りごっこをしてみてもいいでしょう。
▼狩りを模した引っ張りっこ遊びの例
その時、脳では何が起きている!?
遊びによって犬の脳内では、満足感や達成感を引き起こすドーパミンという物質が放出されます。例えば、おもちゃを追いかけ回させ、噛みつこうとする寸前で避けて噛ませないようにすると、犬は次こそ噛みつけるはずだとどんどん夢中になります。そして、困難(噛みつけなかった経験)を乗り越えやっと噛みつけたという結果は、より強くドーパミンの分泌を促します。結果的に遊びが楽しいものであればあるほど、再びドーパミンを分泌させよう(満足感を得よう)と犬は遊びに執着するようになっていくのです。
また、遊びは別名、脳内麻薬ともいわれるエンドルフィンという物質の分泌も促します。エンドルフィンは多幸感をもたらすとともに、絆を作ることと関係しているといわれています。ですから遊びで生じる楽しい気持ちは、結果として飼い主との絆を深めることに繋がります。
いかがでしたか?「遊ぶ」といった単純なことも本能や脳の働きを考えるととても奥が深いのです!