愛犬に元気で長生きしてほしいというのは、すべての飼い主さん共通の願いですが、単に寿命だけでなく、「健康寿命」を延ばすためにはどのような工夫をすればいいのでしょうか。家庭犬しつけインストラクターの長谷川あや甫先生の愛犬2頭は、犬の平均寿命(14歳)をはるかに超えて長寿を全うし、しかも看取りが近づくまで寝たきりになることもなかったとか。
そこで、長谷川先生にシニア犬の環境づくりについてうかがいました。
家庭犬しつけインストラクター:長谷川あや甫先生
いぬのしつけ方教室・ようちえん「PARA」主宰。テリー・ライアン氏と佐良直美氏に師事し、アニマルファンスィアーズクラブで学ぶ。現在は全国でしつけ方教室やインストラクターの育成、また日本介助犬協会にて介助犬及び介助犬トレーナーの育成を行っている。先代犬のMIX犬のパラは16歳2カ月、ボーダー・コリーのクランツは17歳10カ月で長寿を全う。現在の愛犬は唄子(MIX犬)とりん(ラブラドール・レトリーバー)。
▶いぬのしつけ方教室・ようちえん PARA(パラ)
対策は動けなくなる前から!8歳を目安に始める
犬はおおよそ8歳からシニアといわれます。それから平均寿命まで長生きできたとすると、シニア犬の期間がすいぶん長いように感じますね。老いに向けた対策はいつ頃から始めるべきでしょうか。
「飼い主さんは愛犬が若い頃から安全で快適な環境づくりを進めていると思います。その一方で『愛犬はまだ若い』と思いたいので、シニア犬の対策は遅れがち。寂しいかもしれませんが、まずは愛犬の衰えを受け入れることが大切です。思うように動けなくなる前に環境を整えれば健康寿命も延ばせます!人が年齢を目安に保険を見直すように、犬も8歳を超えたらシニア犬対策を始めましょう」
「高齢になると痛みやストレスでガクンと衰えるので、早めに楽に暮らせる工夫を」と長谷川先生。8歳からいきなり老犬になるわけではないが、心づもりはしておきたい。
犬の性質や衰えに合わせた工夫を考える
シニア犬の対策は、愛犬の犬種、性質、衰えなどに合わせ考えましょう。
「大型犬は小型犬に比べて寿命が短いと言われているので、さらに早い段階から対策が必要になります。性質にも違いがあり、慎重なタイプは年をとっても無茶をしない犬が多いのでけがをしにくいのですが、活発なタイプは衝動的に無茶なことをする心配があります。衰え方はほとんどの犬が後ろ足から。寝ていた状態から立ち上がるのに時間がかかったり、立ち上がれなかったりするようになっていきます。日頃から愛犬をよく観察して、飼い主さんが注意するべきポイントを見極めてくださいね」
住宅事情などによっても必要な対策は異なるので、長谷川先生がおすすめする工夫をもとにアレンジしてみては?
●床
クッション性があって踏ん張れる床材がおすすめ。長谷川先生は愛犬の行動範囲に安価なヨガマットを敷いたそう。その他、キッチンマット、やや硬めだがマンション共用廊下用床材なども便利。
●ベッド
体を丸められなくなるので、ベッドは大きいほうが快適。ドサッと倒れ込んだときにぶつからないように硬い縁がついていないベッドを選ぶとよい。
●食器
陶器、ガラス、ステンレスが衛生的。食べるときに頭を下げる動作が負担になるので、背中のラインより少しだけ頭を下げた姿勢で食べられる位置に台座で調整する。
●水皿
犬は水を舌の裏ですくい上げて飲むため、深さのある水皿がよい。ノズルタイプの給水器は十分に水を飲めないものの、ひっくり返す心配がない。水皿にぶつかる心配があるなら両方設置するとよい。
●トイレ
排泄場所を決めるときに回りやすく、踏ん張ったときにはみ出ないようにトイレを大きくする。老化や病気でトイレの回数と尿量が増えるので、犬が気持ちよく使えるように掃除をこまめに。自主的にトイレに行かない場合でも、我慢させないように連れて行って排泄させる。
●生活スペース
玄関のたたき、階段の手すりの間、ベランダの柵の間などから落ちないようにフェンスでふさぐ。家具の角はクッション材でガードすると安心。
●ソファ・ベッド
ソファやベッドに乗ろうとして落ちたり、乗ってから下りられなくなったりしないようにあらかじめガードする。スロープを設置する場合は、最初に誘導で上り下りを教えること。
シニア犬が安全に留守番できる環境
シニア犬は留守番させるときも心配になりますよね。家族が不在でも安全に過ごせるように環境を整えてあげましょう。
「高齢になると関節の柔軟性がなくなり、体が硬くなって小回りもしづらくなります。長時間同じ姿勢でいるとギクシャクして動き出しにくくなってしまうので 、クレートやケージで留守番させる場合は若い頃より大きめのサイズを用意してくださいね。自由に過ごさせる場合も、椅子の間などに挟まってしまう心配があります。椅子をテーブルに上げたり家具を端に寄せたりして、スペースを広くしておけば安心だと思います」
若い頃には考えられなかったようなことが起きるので、対策は念入りに考えておくに越したことはありません。留守番の時間を短くしたり、ペットシッターに様子を見にきてもらったりするのも一つの方法です」。
体温調節の機能が衰えていくので、夏と冬は要注意。犬は寒さに強いといわれるが、シニア犬は寒さにも弱くなる。洋服を着せるなどの対策を。
老化が進んで認知症を発症したらどうする?
老化のステージの進み具合と共に、安全や快適の段階を上げる必要があります。例えば認知症を発症した犬は徘徊が始まることも。どのようなことを注意すればよいのでしょうか。
「安心してうろうろ歩けるように環境を整えることが大切です。思いがけない事故を防ぐために、小型犬は布製の円形サークル、中・大型犬はステンレス製の8面や12面のサークルで囲ってあげるとよいと思います。粗相をしたときのためにトイレシートを敷き、念のためその下に防水シートも用意しておきましょう」
歩き疲れてドサッと倒れ込む場合もあるので、サークルは補強しておいたほうが安心です。
小型犬の飼い主さんの中には、犬の周囲に猫砂の袋を土嚢代わりに置いていたケースも。犬が倒れても猫砂がクッションの役割をするのでちょうどよかったそう。
寝たきりになったときでもQOLを維持
老化が進んで寝たきりになった場合、清潔さを保つことが快適な環境づくりの重要なポイントになります。
「オムツやマナーベルトを利用される方は多いのですが、付けっぱなしは不衛生。最悪の場合は蒸れたり排泄物が付着するなどして皮膚炎を起こしたりするので要注意です。ぐっすり寝ていて動く心配がなければ、トイレシートを敷き詰めて、オムツやマナーベルトをはずし、ときには通気性を確保してあげましょう。シャンタオルやスプレータイプの洗い流さないシャンプーで洗うのもおすすめです」
人の介護用品の中には犬に使えるものがたくさんあります。ホームセンターやドラッグストアで愛犬に合ったアイテムを探してみましょう。QOLの維持に役立ちます。
オスには尿取りパットをマナーベルトに装着して使用。メスには乳児用オムツがおすすめ。「安価なのでこまめに取り替えられ、犬が気持ちよく過ごせます」と長谷川先生。
我が家・愛犬オリジナルの対策を見つけよう
「今回お話ししたことがシニア犬向けの工夫のすべてではありません。介助や介護に『完璧』はないんです」
犬も高齢化社会なので、対策やアイテムは日進月歩。また、いろいろな犬を知っている獣医師、トリマー、飼い主さん、それに人の医療従事者の方からヒントをいただけることもあるそうです。
「実は犬を迎えたときからやってきたことが、介護や看護に行き着きます。環境づくりに加え、日常的なケアはもちろん、なでたり抱っこしたりといったことも大切。高齢になった犬が気持ちよくケアを受け入れてくれることにつながります」
QOLを維持するための習慣も早めに教えてあげたいもの。愛犬仕様、我が家仕様のオリジナルの対策をぜひ見つけてくださいね。