鏡に写った自分の姿が自分であると認識できることを、専門的には鏡像認知といいます。鏡像認知は一部の霊長類やゾウ、イルカなどができるという報告がされており、人間は2歳前後にこの能力が備わるといわれています。では、犬は鏡像認知ができるのでしょうか?
残念ながら現在のところ犬ができるという報告はありません。ですから、ショッピングセンターの大きなガラスやご自宅の姿見などにむかって喜んだり吠えている犬に対し、「大喜びでしっぽを振るなんてうちの犬は馬鹿だ」とか、「鏡に映っているのはあなたなんだから吠えるのはやめなさい!」というはナンセンスだといえます。
経験を積めば慣れることができる
「理解できないなら治らない、一生我慢していくしかないか」とあきらめるのは時期尚早です。鏡を理解できないからといって吠えるといった反応は治せないわけではありません。犬はどうやら鏡に映っている犬(自分)が普通の犬とは違うという違和感は感じているようです。
違和感とは例えば、他の犬のにおいがしないとか、鏡の中の犬が動いたり吠えたりするのに自分以外が発する音がしないなどで、慣らしたり経験させたりすれば遊びに誘う、吠えるといった行動はしなくなるので、鏡に映っているのは自分であると理解できないものの、お散歩中に会う犬とも違うことは理解していると考えられます。
犬は困ると人に助けを求める
犬の中には鏡やガラスに映っている自分に向かって吠えるときに飼い主さんのほうをチラチラ確認しながら吠えたり、助けを求めるように見てくるような仕草をする個体がいます。このような状況以外にも、オオカミと犬の比較研究では難解な課題に直面したときオオカミは自分の力で解決しようとして人に頼ることをしないのに対し、犬は人間同士が行うような視線による合図を使い、人に助けを求めることが分かっています。つまり、犬が人に視線を送り頼るというのは、自分の力では解決が困難な状況や理解しがたい状況に置かれたと言い換えてもいいでしょう。
余談ですが、犬は進化の過程でこの人同士のコミュニケーション方法に似た、視線を「社会的な合図」として使用する能力を獲得したことにより、人と絆を結ぶ事が可能になったと考えられています。つまり、視線を介したコミュニケーションが人類の歴史上最も早くから家畜化され「最良の友」となり得たゆえんといえるでしょう。