動物の視覚について語る場合、その動物がどんな環境に適応し生活しているか知ることが不可欠です。犬の祖先であるオオカミは、他の動物が寝静まっているときに狩りを始める夜行性の生き物です。では、犬はどうでしょう?
薄暗いところで、最も効果的に機能
犬は人と共生するようになり、飼い主の起きている昼間に活動して夜に眠るため、昼行性の行動スタイルになっていますが、目の機能自体に変化はありません。
つまり、犬の目は元々の活動のピークである明け方や夕暮れなどの、明るさのレベルが低いところで効果的に機能するようになっているのです。
構造を見てみると、桿体細胞という暗所で機能する細胞がよく発達しています。そのため明暗に対してとても敏感です。
また、網膜の下にタペタムという反射板があって、一度網膜を通過した光を反射し、光を再吸収することによって悪条件下でもよく見えるようになっています。カメラのフラッシュや車のヘッドライトで犬の目が光るのは、このタペタムが光を反射しているからです。
ですから、多少暗い場所でも視覚と嗅覚を使って物を探すこと(例えばイタズラなども)が可能です。ちなみに、人間にはタペタムはありません。
感度はイマイチながら、色の識別も可能
色彩に関しては、昔は「犬の視界は白黒で、色は識別できない」なんて言われましたが、そんなことはなく、カラーも分かります。でも、感度はイマイチで、色彩を識別する錐体細胞は人よりも少なくなっています。
犬は2色型色覚で(人は3色型)、中波から長波に至る波長、黄色と赤を識別する感度を欠いています。
ですから、黄色と青以外の微妙な色の違いを見分ける事ことは、眼の機能から見れば不可能です。
上:人の色の見え方 下:犬の色の見え方 Optics & Photonics News January 2001より改変
例えば青々とした芝生の上の赤いボールを探すことは難しいですし、緑と黄色のおもちゃを見分けなさいというのも酷な話です。もちろん物を識別するための情報は色だけではなく、形やにおい、感触など他の情報を頼りに探し当てることは不可能ではありません。
そう考えると、盲導犬は信号を見分けるのに光の位置を頼りにしているかもしれません。
動体視力はバツグン
狩りにより獲物を捕らえて生活していた生き物なので、動体視力はとても良く、物体の動きに対して非常に敏感です。
ボール投げやディスクなどのおもちゃ遊びが上手で好きなのも納得できますね。このあたりは、その犬種が作られた理由や担ってきた役割によっても多少違いがあると考えられます。
視力に関しては近視で、ピントを合わせることが苦手だと言われていますが、飼い主の笑顔とそうでない表情を見分ける事ことができるといった研究(Dogs can discriminate human smiling faces from blank Expressions. Anim Cogn (2011) 14:525–533)もあるので、それなりに見えていそうです。