老犬介護体験談|「無理をさせない」「楽しく笑顔で」をモットーに。

人はそれぞれであるように、犬もそれぞれ。老犬介護においても、その犬その犬に合わせたケアが必要になります。複数の愛犬の介護を経験してもなお、時に悩み、時に工夫を重ねながら老犬介護生活を送っていらっしゃる飼い主さんにお話をうかがいました。

<お話をお聞きした方>
くうちゃんさん
これまで生活を共にした犬は11頭。うち5頭は17~19歳と長寿であり、その数の分だけ老犬介護を経験。1頭のケアがすべての犬に通じるわけでもなく、その犬ごとに合った方法を試行錯誤しながら、日々「無理をさせない、楽しく笑顔で」をモットーに生活している。現在の愛犬は、花音(かのん/ボーダー・コリー、メス、17歳5ヶ月)と、沙良沙(さらさ/ポメラニアン、メス、11歳)の2頭。
今日も のほほ~ん 犬日和♪

 

余命宣告もなんのその、見事に乗り切った生命力の強さ

9頭の愛犬を見送った後、現在、老犬介護中なのは花音です。6歳の時に膵外分泌不全症※1との診断を受け、それ以降、療法食が必要な生活となりましたが、しばらくして後ろ脚がうまく運べないという状態に。今思えば、それは新たな病気の前兆だったのかもしれず、10歳の時にはインスリノーマ※2の疑いがあり、余命半年~1年と宣告を受けたのでした。

※1 膵外分泌不全症:膵臓から分泌される消化酵素が何らかの原因で低下してしまい、消化吸収能力に問題が生じる。特に、脂肪分の分解が難しくなる。
※2 インスリノーマ:膵臓の内分泌系の細胞にできる腫瘍で、インスリンの過剰分泌が起こり、低血糖や歩行のふらつき(特に後ろ脚)、震えなどが見られる。

 

伏せをしているボーダーコリー
複数の病気をもっている花音(10歳当時の写真)。性格はボーダー・コリーらしく繊細ながら、プライドが高く、しっかりとした自我をもっている。

「先代犬には最期に大好きなミルクも飲ませてやれなかったことが後悔でもあったので、花音には脂肪分は控えたほうがいいんですけど、こうなったら好きなものを…とミルクも飲ませました。ところが、それからもう7回目のお正月を迎えることができているんですよ」と“くうちゃん”さんは嬉しそうに話します。

しかし、それだけでは終わらず、14歳になると予後が悪いとされた甲状腺腫瘍が発見され、その翌年には腎不全となり、せっかく安定していたインスリンの分泌量が増加したことから低血糖状態に。この段階で花音は立つこともできず、意識も混濁し、“くうちゃん”さんは、「このまま目が覚めることはないのかも…」と思ったそうです。

黄色いクッションに顎を乗せるボーダーコリー
腎不全とわかる少し前から、口臭がきつくなったそう。この病気は進行に伴い、症状の一つに口臭があるという。

それにもかかわらず、花音はまたしても復活し、「これは生きる力をもらったのかもしれない、ならば頑張ろうと思いました」と“くうちゃん”さん。同時に低血糖が脳にダメージを与えたのか、認知症の症状も進んでいました。

寝ているシニアのボーダーコリーの横に聴診器
先代犬には心房細動があるコもいたため、聴診器も常備している。

 

愛犬の状態にあわせて歩行補助ハーネスや車椅子を手作り

こうして幾度となく生命の危機に脅かされた花音ですが、「持ち前のプライドの高さと気の強さが生命力の源なのかもしれない」と“くうちゃん”さんはおっしゃいます。当初は車椅子にもトライしたものの、花音は頑として動かずに拒否。移動には“くうちゃん”さん手作りの歩行補助ハーネスが頼りでした。

花音ちゃん用に手作りした歩行補助ハーネス
花音用に手作りした歩行補助ハーネス。膀胱を刺激すると失禁するので丈は短く、後ろ脚までカバーすると歩かなくなるため上半身のみのスタイル。

先代犬たちにも歩行補助ハーネスは必要でしたが、市販のものは合わないと、“くうちゃん”さんは苦手だった裁縫を始めるようになり、今ではその時々の状況に合わせていろいろ手作りされています。お勧めは着脱が楽な背開きタイプだそう。

歩行補助ハーネスを付けて歩くミニチュアダックスフンド
歩行が困難だった先代犬リョウ(M・ダックスフンド)のために作った歩行補助ハーネス。小型犬ゆえに、人も楽なよう、ハンドル部分は長くしてある。

手作りはそれだけに限りません。下の写真は、先代犬ラッキー(ミックス)のためにご主人が手作りした4輪車椅子です。以前より花音の歩行が難しくなってからは、「立ちたい」「歩きたい」と鳴き続ける時、この車椅子に乗せることもあったといいます。

手作り車いすに乗るボーダーコリー
先代犬ラッキーの車椅子を花音に合わせて手直ししたもの。

 

徘徊の時には一緒に“ダンス”を

現在、花音は昼夜が逆転しており、徘徊時にも手作りした歩行補助ハーネスが活躍しますが、「くるくる歩く時には一緒にワルツやタンゴを踊るんですよ」と“くうちゃん”さんから意外な言葉が聞かれました。

「昼夜逆転は老犬なのだから仕方ないです。自分も寝たいのに…と悲観的になったら、お互いが辛くなる。だから、少しでも楽しくいられるように、“花音さん、今夜も踊りましょう”とステップを踏むんです」と朗らかに話す“くうちゃん”さんです。

丸まって寝るボーダーコリー

とは言っても、出かけなければならない日もあり、また、花音の興奮が治まらず、なかなか眠らない時もあります。そのため、抗不安剤は2種常備しているそうですが、うち1種は興奮を抑える作用がありながら、一方では副作用として興奮する場合もあるとのこと。それゆえに、なるべく使いたくはないものの、必要な場合は、薬の効力の持続時間も含めて慎重に使うタイミングを計ります。

加えて、ここ最近で花音の状況はさらに変化し、疲れ切ってもなお歩きたがるようになりました。以前は嫌がっていた車椅子でも動こうとするものの、不具合が見られたため、新たに4輪車椅子を購入。しかし、車椅子であると後ろ脚を動かさないので、やはりリハビリも兼ねたハーネスによる"ダンス“は必要です。

手作りの車椅子に乗るボーダーコリー
最近、新たに購入した車椅子。円形に穴の開いたパネルを敷き、その中に片方の後輪を入れることで、くるくる回れるように工夫。

※音が流れます

「おかげで、生活のリズムにメリハリができました」("くうちゃん“さん)

 

食事はあえてカリカリフードを。1日の水分量も計算

花音の1日のサイクルは食事を中心に回っており、低血糖になるのを防ぐためにも1回目は朝9:00までに与え、その後4時間おきに5回。花音が“ぐずる”ようであれば明け方に6回目を与えることもあるとか。

花音の場合、悩みの1つは食事です。フードをふやかした場合、消化が早くなる分、空腹の時間が長くなり、低血糖に陥る恐れがあるため、フードは硬いまま与えるほうが良策となります。

しかし、花音は徐々に食べ物が喉に詰まるようにもなっていたため、一時とろみを混ぜて与えたところ、それが原因と思われる誤嚥を起こしてしまいました。そこで今はとろみを使用せず、一粒を半分にカットしたフードを少しずつ手で食べさせているそうです。

そして、水分量の調整も必要でその時々に獣医師と相談の上、与える量を決めています(現在は1日450~550cc)。

手からフードを食べるボーダーコリー
現在は腎臓用フードのみで数値は安定。下痢をしない程度に試行錯誤して辿り着いた量を与える。

 

自力排尿できるのか、圧迫排尿が必要か、その判断は難しい

そして、介護には排泄の問題が欠かせません。排泄は自力でできるのがベストではありますが、花音の場合は腎不全による尿毒症も心配です。加えて、寝る前に尿をちゃんと出し切るとぐっすり眠ってくれるので、これまでは花音を寝かせる前に圧迫排尿をする他、あまり尿が出ていない時には膀胱のあたりを軽くトントンと叩いて刺激するようにしてきました。

しかし、圧迫排尿に慣らし過ぎると、犬がそれを待つようになり、自力で排泄しなくなる場合もあるという獣医師の話もあり、“くうちゃん”さんとしては圧迫排尿が必要な時を見極めることにも神経を使ってきたようです。

ところが、ここ最近はほとんど尿が出ず、毎日のように“ぐずる”のは自力排尿ができなくなったのか?と思い、圧迫排尿に切り替える決断をしたばかりだそうです。

オムツも試行錯誤中で、辿り着いたのは下の写真のスタイルなのですが、“ぐずる”原因がはっきりとはわからないだけに、現在は、このオムツも中断しているとのこと。

オムツをつけたボーダーコリー
人間の介護用尿取りパッドをしっぽの下で左右に渡し、両端をテープで止める。先代犬の中にはオムツがストレスとなって、歩かなくなったり、血尿まで出したりしたコもいたそう。

 

床ずれ対策にはジェルパッド、保温には小豆カイロ

その他、介護に使用する「よりよいグッズ」を求めて、“くうちゃん”さんの苦心の跡が見られます。

●床ずれ対策
穴を開けたクッション材を床ずれになりかけの部分に敷いていましたが、傷口周囲をかえって圧迫してしまう可能性があるのと、高さ調整が意外に難しいのが難点。今後はジェルパッドに変更するそうです。

●保温
お勧めは小豆カイロ。縫い合わせたタオルや布の中に小豆250g程度を入れ、電子レンジで1分半~2分ほど温めます。腰や脚、関節などを温めるのに良いとのことです(火傷には注意)。

 

今日も“おはよう”と言える幸せ

“くうちゃん”さんのブログは、毎回、「花音、今日も“おはよう”が言えました。花音、“おはよう”が言える幸せをありがとう」という言葉で始まります。一方では、「花音、どうしてあげたらいいのかな…?」という言葉も度々見られ、日々変化していく花音が何を訴えているのかを探りつつも、一日一日を大事に過ごしていらっしゃる様子が伝わってきます。

体を丸めてこちらを見るボーダーコリー
「花音は目も見えてないので、その分、たくさん話しかけます。これまで何頭も看てきましたが、老犬はとっても可愛いです」(“くうちゃん”さん)

「花音の変化に合わせてこちらもいろいろ考えなくてはならず、自分たちが認知症になる暇なんてないよねと、主人と冗談を言い合っています」と笑いながらも、「ここまで長生きしてくれて、介護をさせてくれるのはありがたいことです。花音が生きたいだけ生きればいい、けれど無理させたくはない。一方で、ずっとそばにいて欲しいとも思います。気持ちは半々ですね。今、花音には、“どんな花音でもすべてを受け入れているから。だから大丈夫、お父さんとお母さんは、いつもそばにいるからね”と言いたいです」と“くうちゃん”さんは話してくださいました。

月形のクッションに顎を乗せて寝るシニアのボーダーコリー
「介護をしていると孤独になりがちですが、自分だけだと思わず、老犬介護友達をつくるといいと思います。みんなの様子を見ていると、明日も頑張ろうと思えるかもしれません」(“くうちゃん”さん)

共に生きてきた“幸せ”が凝縮する老犬介護の時間。花音の時間がゆっくり、穏やかに流れますようにと願います。明日の朝も、その次の朝も、“くうちゃん”さんの“おはよう”が花音の耳に届きますように。

写真・動画提供/“くうちゃん”さん

<関連記事>

老犬介護体験談|20年前と今。できる範囲で楽しく、充実した時間を。

大塚良重

犬もの書き、愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー 雑誌、書籍、Web、一般誌などで執筆を続けて20年以上。特に興味があるテーマは、シニア犬介護やペットロスをはじめとした「人と動物との関係性」。昨今は自身が取材をお受けすることも増えており、読売新聞、毎日新聞、サンデー毎日、クロワッサン、リクルートナビなどの他、ラジオ出演、テレビ番組制作協力なども。自著に、難病の少女とその愛犬の物語『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派。 ▶主な著書: 『りーた…

tags この記事のタグ