愛犬のボディランゲージを学ぼう|行動学の専門獣医師が解説

愛犬のつらい気持ち、気づいてあげて!

こんな経験はありませんか?

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愛犬といっしょにカフェに行ったら、向こうからワンちゃん連れの飼い主さんが。「こんにちは。ホラ、☆☆ちゃん、お友だちよ」とワンちゃんにごあいさつさせようとしますが、そのコはウーウー唸ってぜんぜん友好的じゃない様子。これは危ないなと、「うちのコはごあいさつができないんで」とやり過ごそうとしたのですが、相手は「大丈夫。このコ、すぐに他のコにも慣れますから」と、なおも唸りつづけるワンちゃんを愛犬に近づけようとします。うわぁ、待って待って!

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唸る犬は社会性が乏しく、外に出たら周りはすべて敵で恐いんです。そんな気持ちを飼い主さんが全然理解せず、「さあ、ごあいさつしなさい」とけしかける。犬は飼い主さんが安全を確保してくれないから、自分を守るためにがんばって「来るな!来るな!」と唸っているわけです。

これは、唸られる方の犬も嫌な思いをしますが、唸っている方にもたいへん悪い経験になります。唸る経験をくり返すとどんどんエスカレートして、違うシチュエーションでも自分を守るために唸るようになってしまうからです。

日本人的な社交辞令なのか、一般に飼い主さんは、犬連れで寄ってこられると、自分の犬があまり社交的でないのを知っていても、「ごあいさつさせなきゃ」と思うようです。でも、犬どうしのあいさつや遊びは、お互いが気持ちよくないとまったく意味がありません。愛犬の様子を見て、嫌がっているようなら無理強いは厳禁。誤った判断をしないために、飼い主さんは愛犬の「ボディランゲージ」を理解できるようになることが大切です。

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知っておきたい「ボディランゲージ」の基本

私が、パピークラスに参加した飼い主さんに最初に言うのは、「まず自分の犬を理解してください」ということ。1週間かけて、愛犬がリラックスしているとき、しっぽや耳がどうなっているか、体や顔はどうか。興奮したり緊張したときに、それがどう変わるのか。その変化を読んできてもらい、気づいたことを発表してもらっています。

「しつけの本」を読んで、そのとおりにしようとする飼い主さんがいますが、書かれた内容はすべての犬に当てはまるものではありません。本のとおりにやろうとすると、犬がつらい思いをします。まずは実践あるのみ。飼い主さん自身がパピークラスやしつけ教室に通って、自分の犬に対する気づきをもつこと。その後に本を読むと、自分の犬に合う、合わないの判断ができるようになります。

それでは、犬のボディランゲージの基本的なものをいくつか挙げてみましょう。

●ボディポジション
普通に立った状態をニュートラルとして、自分に自信があったり、興奮したりすると、重心が前に行きます。逆に恐い場合は重心は後ろに行きます。

●耳のポジション
耳が相手にぐっと向けられているときは、相手に興味もあり、また自分に自信がある場合。耳が横を向いたりペタッと倒れているときは、恐い、自信がないという気持ちの表れです。

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●しっぽの高さ・振る幅・振る速度
長いしっぽをもつ犬で、しっぽがクッと上がって振りもせず、向かってくるときは要注意。こんなときは目も見据えていて、ぜったいにそらしません。自分の強さをアピールしているのです。逆にしっぽが少し下がった状態になってきたら、ある程度リラックスしています。本当に下までペタッと下がっているときは恐がっています。

しっぽを振る速度、振る幅、振り方も犬によって違いはありますが、基本は、速く大きく振るときはうれしいとき。少し下げてゆっくり振るときは、判断がつかずに迷っているときです。

●プレイバウ
犬が遊びたいときにする、上半身はフセの状態でお尻を上げるポーズを「プレイバウ」といいます。プレイバウは、必ずしも遊びを誘うときだけでなく、ごきげんななめの相手をなだめたり、逆に緊張している相手をリラックスさせてあげたいときにも行います。

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ボディランゲージについては細かく見ていけば、顔の表情や歯のむき方、口の使い方などいろいろありますが、初歩としてはこれぐらいで十分でしょう。

ボディランゲージを学ぶ一番いいレッスンは、お散歩で、愛犬が大好きな友だち犬と会ったときと知らない犬とすれ違ったときの、しっぽの高さや振り方がどう違うかを観察していれば、わかるようになっていきます。

犬たちが出しているサイン、読めますか?

では、犬たちのボディランゲージを動画で確認してみましょう。この犬たちの気持ちが理解できますか?

One Great Snark(slow motion dog to dog meeting)


2頭の犬の出会いの場面です。一方は自信満々の威圧的な態度。しっぽは上がって微動だにせず、耳はピンと立ち目もそむけません。もう一方は、耳を倒し、体を低くし、目を合わさず、口のまわりをしきりに舐めるなど、カーミングシグナル(相手をなだめたり、自分を落ち着かせようとするしぐさ)を出しまくって、降参の意を表しています。後半に仲のよい犬どうしのあいさつの動画がありますので、その違いは一目瞭然です。

 

嫌なことの積み重ねは、「問題行動」へとつながっていきかねません。「これだけ嫌だと言っているのに、なぜわかってくれないの」と、犬の拒絶の表現はどんどんエスカレートして攻撃的になっていきます。そこで飼い主さんがひるむと、犬は「これは使える」と、いろんな場面で攻撃性を見せるようになります。

そうなって初めて、飼い主さんは助けを求めて来られますが、犬はもっと前からストレスサインをいっぱい出していたはず。飼い主さんがそれに気づいていなかったのです。

次回は、飼い主さんの誤解から生じる問題行動と、その対策について[同居犬に攻撃的な犬]を例に考えてみましょう。

 

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 牧口香絵先生のお薦めライブラリー 

犬の行動学者の第一人者ヴィベケ先生の著書。専門書ですが、飼い主さんにもわかりやすく、写真で解説したボディランゲージ事典です。耳の動き、目の動き、吻の角度などを、写真で細かく解説。犬同士の出会いの行動、攻撃的な犬の行動パターン、人と犬の出会いの行動などを知ることで、事前に危険を回避したり、より短時間で犬との心を通わす方法を学べます。

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石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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