犬猫の心肺蘇生(心臓マッサージ+人工呼吸)の仕方、その他救急時の対処について、24時間救急対応をしている日本動物医療センターの上野院長、そして救急の専門家である仙波先生に教えていただきました。
実際にあった救急のケースと対処法については『犬猫救急医療の実例から学ぶ緊急時のための心得』をご覧ください。
日本動物医療センター
上野弘道 院長
1998年、日本大学獣医学科卒業。日本動物医療センターは1969年に開業以来、24時間救急対応しており、「入院している動物を決して一人ぼっちにせず、きちんと見守る体制でなければいけない」という想いのもと、2004年からは、動物医療ではいまだに珍しい24時間治療・看護を開始。深夜の緊急手術にも対応している。愛犬は保護したパピヨン2頭。
(公社)東京都獣医師会 業務執行理事、(公社)日本動物病院協会理事、(一社)VOA japan理事でもある。
仙波恵張 獣医師
2015年、酪農学園大学獣医学部卒業、専攻は麻酔学研究室。現在、特に力を入れている分野は、救急・麻酔学・輸血学・循環器学など。日本獣医輸血研究会事務局、日本循環器学会、動物循環器学会、動物臨床医学会に所属。実家にいる愛犬はチョコタンのミニチュア・ダックスフンドで、16歳の男のコ。
心肺蘇生法(CPR)の基本
犬猫の心臓や呼吸が止まっている場合、一般の人にはなかなか判断も難しいですが、確かに救命率にも関わるので、心肺蘇生を試みてみるのもよいそうです。
その前に、心臓の場所はというと、犬の場合、小型犬・中型犬・大型犬では場所が少しずつ違い、一口で正確に説明するのは難しいため、事前にかかりつけの動物病院で、「うちのコの心臓はどこですか?」と教えておいてもらうのが最適であるとのこと。
次に、心臓と呼吸が停止していることをどう確認するのか?体に耳をあてて心音を確かめるのは意外に難しいため、普段から愛犬愛猫を抱っこしたりする時に心臓の拍動を手に感じる習慣を付けておくことが一番の早道ということです。呼吸に関しては犬猫の毛を少し抜いて鼻先にあて、毛が動かないようなら呼吸していないと判断が可能。
「人の救命(AED)では、意識と呼吸が確認されなければ脈の有無を確認するよりも心臓マッサージを行うことを優先する指導に変わってきていますが、それは、一般の人が脈をとるのは難しいので、とにかく血液を循環させることのほうが優先されるということです。その人が嫌がったらそこでやめる。
つまり、救急時には完璧なものではなく、命を救える確率が高い行動が求められるわけです。動物においてもぐったりして動かず、意識と呼吸が確認されなかった場合には、とにかく心臓マッサージをし、動いたならやめる、ということですね」(上野院長)
加えて、人の場合、周囲にいる人に「誰か救急車を!」「誰かAEDを!」ではなく、「あなたが救急車を呼んで!」「あなたがAEDを!」と指名したほうがよいとのことですが、それは犬猫でも同じで、「あなたが病院に電話して!」「あなたが心臓マッサージを!」「あなたが車を出して!」と指名するのがよいそうです。
●心肺蘇生法(CPR)
では、実際の心肺蘇生のやり方を動画で見てみましょう。以下はその基本になります(主に大型犬を想定)。
まずは口の中に嘔吐物や異物などがないか確認した後、心臓マッサージ(=胸骨圧迫)へ。それと同時に動物病院へ連絡を。明らかに口の中に何か詰まっている時は、心肺蘇生よりも、すぐ病院へ行くべきとのことです。
※音が流れます
「心臓マッサージをする人の肩・肘・手がほぼ一直線になるようにし、一点に集中して真下に押すようなイメージで、犬の体の2分の1~3分の1が凹むくらいの圧をかけてください。状況によっては肋骨にひびが入る場合もあるのですが、命をとるか、骨折をとるかという選択肢の中では、割り切りも必要になることがあります」(仙波先生)
なお、一般の飼い主さんが人工呼吸をするには、空気が漏れないよう手の平で口を覆って鼻先に息を吹き込むほうがやりやすいとのことです。
●心臓マッサージの基本
練習はぬいぐるいみや人形で行い、くれぐれも愛犬や愛猫でしませんように。
※音が流れます
●心臓マッサージの注意点
「実は、心臓を押すだけではなくて、戻すことも重要です。なぜかというと、心臓を押せば心臓からの血流が体に回りますが、心臓に帰ってくる血液の量も確保しなければならないからです。あまりにパンパンパンと押すだけであると、心臓に帰ってくる血流量がない中での圧になってしまうので、しっかりと押した後に戻す、押した後に戻すというのが重要です」(仙波先生)
※音が流れます
以上の基本の他、体のつくりやサイズによっては別の方法もあるそうです。
●心臓マッサージ:ブルドッグなど樽胴型の場合
※音声が流れます
●心臓マッサージ:小型犬・猫の場合
「愛犬愛猫を抱っこした時、普段の心臓の鼓動を意識しておく、また、消防署で行っている救命講習を体験してみるなど、いざ心肺蘇生が必要になった時に応用できるかもしれませんね。なお、実際にそういう状況になった時には、誰かに車の運転してもらう、タクシーに乗るなどして、蘇生を施しながら病院に向かうようにし、他に誰もおらず、それが難しい時にはそのまますぐに動物病院へ向かってください」(仙波先生)
出血、火傷、関電などの緊急対処法は?
●出血は、とにかく止める!
目安として、だらだらと出る静脈血(小さな出血)の場合は患部の圧迫を。心臓の拍動に合わせてピュッピュッと出る動脈血の場合は、傷口より心臓に近い部分をきつく縛って止血をし、すぐに病院へ。
体重によって血液量が違ってくるので、人に比べ犬猫の場合は、意外に出血が多いなと思った段階で少々危険な状況になってしまうことが。出血は人以上にリスクが高いのだそう。
●火傷は大丈夫そうでも皮膚が脱落することも
水や氷などですぐに患部を冷やすこと。しっかり冷やしたかどうかで、皮膚が生きるか死ぬかが変わるそうです。
中には、誤ってお味噌汁を犬の上にこぼしてしまい、数日後に患部の皮膚がごそっと脱落してしまったケースもあるとか。被毛がある分、人より熱さが持続するので、早めの処置を。
●感電も火傷と同じ、すぐに病院へ!
すぐにコンセントを抜き、火傷と同じく数日後に皮膚が脱落して欠損することもあるので、大丈夫そうに思えても早めに病院へ。
●愛犬愛猫の普段の“スタンダード”を知る
最後に、上野院長のお言葉を。
「たとえば血液検査の正常値から多少外れていても、それがそのコにとっての正常値である場合もあります。だからこそ1回の検査だけでなく、そのコのトレンドを把握することが必要なのです。万一の事態を予防し、異常に早く気づくためにも、呼吸や体温、お腹の調子、歩き方、気持ちよさそうな表情をしているかなど、飼い主さんがそのコの“スタンダード”を知っておくことがとても重要ですね。私たちは動物医療のプロですが、飼い主さんはそれに気づける一番のプロなのですから」(上野院長)
さて、みなさんはどのくらい愛犬愛猫のことを把握できていますか?
取材協力:日本動物医療センター