補助犬と暮らすということ。「犬を働かせているのではなく、互いに支え合う家族」


身体障害者補助犬法(2002年)では、「国や地方公共団体、公共交通機関、不特定多数の人が利用する施設などを身体障害者が利用する際、補助犬の同伴を拒んではならない」としており、つまり補助犬の受け入れが義務化されています*。ところが、いまだに受け入れ拒否はなくなりません。その裏には補助犬に対する認知不足の問題が。実は、2年後の東京オリンピック・パラリンピックを迎えるにあたり、その環境改善が重要な課題ともなっているのです。
*従業員50人未満の民間企業や民間住宅などでは努力義務

《お話をお聞きした方》

安杖直人さん
(公益財団法人日本補助犬協会 広報担当、社会福祉士)

元陸上自衛官。2001年、交通事故のため車椅子が必要となって以後、1代目の介助犬フレザー(ラブラドール・レトリーバー、オス)を経て、現在は2代目介助犬のダンテ(ラブラドール・レトリーバー、オス、6歳)と生活を共にする。実体験から得た想いを胸に、補助犬認知のため、同協会スタッフとして、日々精力的にPR活動を行っている。
 

補助犬は、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種

一般的に、補助犬とは?と聞かれて、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種が即答できる人は、意外に少ないのではないでしょうか。

日本におけるそれぞれの補助犬の実働数は、盲導犬950頭、介助犬75頭、聴導犬74頭/身体障害者補助犬実働頭数(都道府県別)、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部(2018.4.1現在)より

「実際、盲導犬であるならばOKだけれど、介助犬や聴導犬であると入店や乗車を拒否されてしまうことがあります」と安杖さん。
盲導犬と同じ扱いを受けるべき介助犬と聴導犬が、それだけまだまだ知られていないということの表れでしょう。安杖さんは続けてこうおっしゃいます。

「視覚障害者の白杖と同じように、障害のある人にとって補助犬は生活に欠かせないものであり、それを拒否されると、まるで自分自身を拒否されたように感じてしまいます。拒否する側は犬を拒否しているつもりなのでしょうが、その辺を理解していただきたいと思います」

こうした認知不足の要因として、補助犬の総数自体がまだ少なく、一般の人が目にする機会があまりないということもひとつにはあるかもしれません。1頭の育成費用は300万円以上。その多くを募金や寄付に頼っているため、財政基盤が安定せず、なかなか思ったように補助犬の数およびスタッフの数を増やせないという点は、今後の課題のひとつであると安杖さんは指摘します。

補助犬に向く犬とは?

では、そのような現状にあって、補助犬はどのように育てられるのでしょうか? その前に、補助犬に向く犬についてお聞きしてみました。

(公財)日本補助犬協会は国内で唯一、盲導犬・介助犬・聴導犬の3種を扱い、育成および認定ができる団体である。同協会では、これまで盲導犬29頭、聴導犬41頭、介助犬20頭を育成。

補助犬となるには、3種に共通する大切な性格の他、それぞれに必要な性格要素もあります。

<共通する性格>
盲導犬 介助犬 聴導犬
① 人に対する愛着があり、人と一緒に何かを楽しむことが好きで、人との生活に積極的に関わろうとする性格。
② 順応性があり、環境の変化に左右されず、いつも自分らしくいられる。
③ 集中力や、率先力がある。<それぞれに向く性格>
盲導犬:主な仕事場は外であるため、毎回状況が違い、誘惑物も多い中で、気をとられ過ぎずに淡々と仕事ができる性格。
介助犬:生活の中でいつも飼い主を意識し、呼ばれたらすぐにスイッチの入るタイプ。物を拾うにしても様々な材質や状況があるので、何度もトライして諦めない性格。
聴導犬:盲導犬や介助犬と違い、指示がなくても自分から仕事を開始する、飼い主が必要な音に対する率先力が必要。

<サイズ>
盲導犬 介助犬:仕事の内容上、一定以上の体の大きさが必要。
聴導犬:サイズに規定なし。

仕事内容によって微妙な違いがあることがおわかりいただけるでしょう。

補助犬1頭の一生には多くの人が関わる

次に、補助犬の一生についても主要な点を教えていただきました。

<候補犬になるまで>
盲導犬 介助犬
繁殖により産まれた子犬は生後2ヶ月~1歳までパピー・ファミリー宅に預けられ、この間、人への信頼感を育むと共に、基本的なマナーやしつけを身につける。1歳になると訓練センターに戻り、約3週間かけて適性評価を行う。
盲導犬の場合、候補犬になれるのは約4割程度。非候補犬は一般家庭で家庭犬として暮らすことになるが、盲導犬には不向きでも、介助犬には向く犬もいる。

聴導犬
・聴導犬に向く犬を自家繁殖し、1歳まではパピー・ファミリー宅で大切に育てられる。
・動物愛護センターから引き取った犬を適性評価して選抜する。
・聴覚障害者がすでに飼育している犬を適性評価する。<訓練>
盲導犬:「スワレ」「フセ」「マテ」などの基本訓練や、交差点や段差で止まる、障害物を避けるなどの誘導訓練を約10ヶ月間行う。
介助犬:基本訓練の他、物を咥える・持ってくる・渡すなどの介助動作訓練を行う。また、そのユーザーのニーズに合った作業内容を訓練する。
聴導犬:基本訓練の他、商業施設や乗り物などの社会化訓練、およびユーザーが必要とする音を知らせる聴導動作訓練を約10ヶ月間行う。

<犬とユーザーとの合同訓練>
盲導犬:飼育方法や基本訓練、歩行の基本などを約1ヶ月間訓練する。
介助犬:飼育方法や基本訓練、介助動作訓練を約40日間訓練する。
聴導犬:飼育方法や基本訓練、聴導動作訓練を約10日間訓練する。

<認定試験>
盲導犬:認定団体は国家公安委員会の指定法人
介助犬 聴導犬:認定団体は厚生労働省の指定法人

<卒業実働>
盲導犬 介助犬 聴導犬
ユーザーとの生活が始まり、最初の1年間は、いろいろな経験をしながら互いの信頼関係を築いていくもっとも大切な期間。おおむね、補助犬としては2歳~10歳まで8年間活動する。

<引退>
盲導犬 介助犬 聴導犬
10歳を過ぎた補助犬は引退となり、①ボランティア宅、②一般家庭、③元パピー・ファミリー宅、④引き続きユーザー宅、のいずれかで暮らすことになる。

補助犬の一生にはこのように多くの人が関わるわけですが、ユーザーとの生活が始まってからはもちろん、引退するまでの間、協会および訓練士のみなさんのフォローアップは継続します。

「特に、最初の1年は密に行います。犬の行動の意味がわからない、犬の体調がよくなさそうだ、またユーザー自身の体調が悪くなった時など、どうしたらいいのか?という連絡を受けると、訓練士は適時適切なアドバイスをし、時にはユーザー宅へ駆けつけたり、犬を一時的に預かったりもします」という話です。

補助犬の仕事は、実に繊細

こうして大切に育てられた補助犬たちが、実際にはどのような仕事をするのか、少し見てみましょう。

盲導犬

盲導犬は町中でユーザーの歩行をサポートするイメージが強いですが、実際はこのように電車などで空いている席を知らせる仕事もあります。

介助犬

介助犬の場合、下半身に障害がある、右半身に障害がある、四肢に障害がある、言語障害もあるなど、ユーザーの障害の種類・程度は多様であり、そのニーズに応えるため、仕事の内容は多岐にわたります。指示を与える時には、動詞は英語を、名詞は日本語を使用しており、その数、動詞で約60語、名詞は約30語。
たとえば、「Go to=~のところへ行く」「冷蔵庫」「take=咥える」「ハンカチ」「pull=引っ張る」「take」「水」「bring=持ってくる」「give=わたす」と言えば、「冷蔵庫に行き、取っ手についているハンカチを咥えて引っ張り、ドアを開けて水を持ってきて」ということになります。
その他、「front=前につく」「around=回り込んで」「back up=後ろ向きに歩く」「leave it=それを無視しなさい」「turn=車椅子での右回りの小回り」などの言葉も。なお、指示語は育成団体によって異なります。

聴導犬

前述したように、聴導犬の場合はユーザーの指示を待たずして、自分から「音を知らせる」行動に出ます。玄関のチャイムやノック、キッチンタイマー、メールの着信、目覚まし時計、病院のような受付での呼び鈴、警報器などの音を知らせることができます。

補助犬は、障害をもちながら暮らす人にとってかけがえのないパートナー

このようにユーザーにとってかけがえのない働きをしてくれる補助犬たちですが、時に、人のために働くことに対して、「可哀相」というような意見を耳にすることがあります。それについて率直に安杖さんにお聞きしてみました。

育成団体やユーザーは犬にストレスや負担をかけないよう、十分配慮し、愛情をかけて育成・飼育しています。そういった実情をよく見て、知っていただきたいです。一般的には、補助犬がユーザーを助けているイメージが先行していますが、障害をもちながらも一日の犬の世話をするのはユーザー自身です。共に暮らす中で、犬もそれを敏感に感じとっているように思います。お互いに支え合いながら絆が生まれ、まさに家族のような存在です」

補助犬がやがて引退し、他の人の手に委ねなければならない時、ユーザーは断腸の思いだといいます。安杖さん自身も車椅子生活となり、「この先どうしよう…」と悩んだ日々を経て、「社会参加ができ、充実した日々を送れるのは介助犬あってこそ」とおっしゃいます。すでに天寿を全うした1代目介助犬に対しては、「フレザーのすべてにありがとう」と。

一般の人が愛犬を愛しく思うのと同様に、補助犬ユーザーにとっても補助犬は愛しき愛犬であるということに違いはないのでしょう。

そうした補助犬を取り巻く環境の改善を目指し、今、様々な取り組みが行われています。目指すは、東京オリンピック・パラリンピック。
次記事へつづく

写真・動画提供:公益財団法人 日本補助犬協会
関連サイト:公益財団法人 日本補助犬協会

大塚良重

犬もの書き、愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー 雑誌、書籍、Web、一般誌などで執筆を続けて20年以上。特に興味があるテーマは、シニア犬介護やペットロスをはじめとした「人と動物との関係性」。昨今は自身が取材をお受けすることも増えており、読売新聞、毎日新聞、サンデー毎日、クロワッサン、リクルートナビなどの他、ラジオ出演、テレビ番組制作協力なども。自著に、難病の少女とその愛犬の物語『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派。 ▶主な著書: 『りーた…

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