犬はよく穴掘りをします。しかも土だけでなく、床やソファの上でも一心不乱にホリホリホリホリ。このエア穴掘り、いったいどんな意味があるのでしょうか。ほうっておいてもいいのか、やめさせるべきなのか、悩んでいる飼い主さんもおられるかもしれませんね。今回は、犬のフシギな穴掘り行動について。
犬はなぜホリホリするの?
●巣穴づくり
もともとイヌ科の動物には巣穴を掘って住む習性があります。例えば犬を迎えたら、サークルやケージで囲って中にトイレとベッドを置きますよね。そのときは、かわいいベッドではなくてクレートがおすすめです。クレートだと巣穴に似て、少し暗くてプライベートな感じがあって安心できるので、クレートトレーニングが最初からスムーズにできます。犬が本能的に好む空間なんです。
皆さんがよく目にする、犬が寝る前にホリホリしてクルクルっと回る動作は、巣穴をつくって居心地よく寝床を整えているイメージ。実際には、クッションが飛んでいったりブランケットがぐちゃぐちゃになったり、どう見ても汚しているだけなんですが(笑)、これはもう犬の本能からくる儀式みたいなものですね。犬は飼いならされて1万5000年ぐらい経っていますが、本能はまだ犬の中にいっぱい残っているんです。
●ハンティングモード
テリアやダックスなど、もともと小動物を追う狩猟犬として作られている犬種は、ハンティングモードで掘ることもよくあります。土の中から獲物や生き物、食べ物のにおいがすると、本能的にスイッチが入って穴掘りをする。掘っているうちに楽しくなって、それが習慣になってしまうこともあります。また、穴掘りの習慣のない子が、同居犬がすごく掘る子だったため、まねをして掘るようになることも。
●ストレス
寝る前の儀式レベルではなく、ソファが破れるほどにホリホリするとなると、何か別の理由が疑われます。例えば、犬にとって生活環境が満たされていない場合。おもちゃもない、運動も足りない、くわえたり引っ張ったりの犬らしい動きもできない、そんなストレスも穴掘りの原因になります。
●満足からくるルーティン行動
一方、ご飯を食べ終わって満足したときに、くつろぎの場所を求めてホリホリすることも。同じ一つの行動が、状況が違えば、ストレスを表していたり、真逆で満足を表すルーティン行動であったり。あくびなんかもそうですね。寝る前の安心したあくびもあれば、緊張のストレスからくるあくびもある。穴掘りも似ているなと思います。
●常同障害
穴掘りは「常同障害」(意味のない行動をくり返す不安障害の一種)の一つでもあります。私がカウンセリングしたボーダーコリーは常同障害のパターンを複数持つ子で、空中の空がみ、光と影を見つめてフリーズする、そして穴掘りが見られました。つねに一点をじーっと見つめてリズミカルに掘る、見ていて明らかにおかしいとわかるものでした。
穴掘りに限らず、何でもやりすぎはおかしいと思ったほうがいい。例えば前足を舐めるのも、少しぐらいなら自分を落ち着かせるためだったり、寝る前の儀式みたいなものですが、皮膚がびちゃびちゃになって破れるまで舐めるのは異常です。穴掘りも10分も20分もやり続けたり、声をかけてもやめられないとしたら、やはりおかしい。異常かどうかの判断は、まず頻度と強度をチェックしてください。
●犬自身にもわからない
ホワイトシェパードを飼っているドッグトレーナーの知人がいます。彼女が愛犬におもちゃをあげると、それをくわえて庭に逃げて行き、誰が見てもわかる場所に半埋めにするそうです。本来なら、穴を掘って埋めるのは、食べ物でもおもちゃでも誰かに見つからないように隠して、あとで楽しむため。
ところが、イヌはすでにオオカミとはかけ離れてしまっていて、メンタル的に隠さねばという気持ちでやっているのだろうけど、いかにも中途半端。そう言ってました。犬自身も、本能をかき立てられてやっているけれど、なぜこれをやっているのかわからないんじゃないでしょうか(笑)。もう土の上に住んでいないし、穴なんか掘る必要がないのに掘っているわけですから。
犬の穴掘りは放置?それとも対策が必要?
●犬が自由に穴掘りできる遊び場を提供する
犬の穴掘りは習性なので、基本、私は叱りませんが、なかには穴掘りが困るという飼い主さんもおられます。よくあるのがガーデニングをしていて、愛犬が球根を全部ほじくり出してしまうというケース。そういう場合は、犬が自由に穴掘りできる専用の遊び場を作ってあげます。
ただ作っただけでは、犬はそこが遊び場だとわからないので、飼い主さんが、わざとそこに穴を掘ってオモチャを埋めてみせ、犬がそこを掘ったら、ほめてあげる。それをくり返して、そこで遊ぶことが習慣になるように仕向けていきます。
●叱らず、犬の関心を別のものに向けさせる
犬が本能でやっていること、例えば、私は「ひとり運動会」と呼んでいますが、犬が興奮して家の中をひとりで走り回ることがありますよね。犬もテンションが上がっているので、途中で止めるのもかわいそうだし、危害を及ぼさないなら終わるまでやらせればいいと思います。
ただ自分の体を痛めるようだったら、やめさせるべきです。穴掘りも爪を痛めるほどなら、対策を考えたほうがいい。その場合、叱ると、ストレスでさらに悪化しかねないので、犬の関心を何か別のものにフォーカスさせたほうがいいでしょう。
●犬らしく生きられているか、生活環境を見直す
穴掘りが、普通のストレスからくるものであっても、常同障害という異常行動であっても、この2つの問題のベースにあるのは「犬らしく生きられていない」という精神的なストレスです。犬を迎えたときは、犬種の面から見て、空間面積、遊ぶ質と量、運動、コミュニケーションの質と量が、きちんと見合ったものかどうか考えてあげてください。そうすれば犬のストレスは少なくなります。穴掘りに限らず、何か問題行動が出たときは、最初に見直すところだと思います。
「運動と遊びは同じじゃないの?」と思われるかもしれませんが、私は運動も遊びも犬にとって犬らしく体を動かす時間、そして犬とのコミュニケーションをする時間であると考えています。「遊び」は犬にとって飼主と楽しく遊べかつ本能的な動きができて楽しい時間、飼主からの視点ではボールひとつをとっても、それを犬に持ってこさせるのか、くわえて脚側歩行をさせるのか。コマンドを交えながら犬をどう動かすかのか、どうコミュニケーションをとるのかを考えながら遊ばせる教育の時間となります。お互い楽しく学べれば一石二鳥です。
最後にひとこと。明らかにやりすぎや異常な穴掘りには対策が必要ですが、基本、犬の穴掘りは非常に自然な行動で、猫の爪研ぎを叱ってやめさせられないのと同じだということを知っておいてください。