犬猫の皮膚・耳の専門病院「hiff cafe tamagawa×pet skin clinic」の小林真也です。今回は「犬の脱毛症」について詳しく解説します。
犬の毛の役割ってなに?
ワンちゃんたちにとって「毛」はとても重要な役割があることをご存知でしょうか?
毛の役割の一つに「体温調節」があります。愛犬の抜け毛の多さに驚いた飼い主さんも多いかもしれませんが、犬もヒトの衣替えと一緒で、寒さ暑さを自分で調整するために、夏になると毛が抜けて冬になると毛が生えてきます。一般的に、トリミングが必要なトイプードル、シュナウザー、マルチーズなどの毛が伸びる犬種は毛が抜けにくいですが、フレンチ・ブルドック、ミニチュアピンシャー、柴犬のような毛の長さが一定の犬種は毛が抜けやすいと言われています。この 生え変わりの時期を換毛期と呼んでいます。
もう一つの重要な役割は、 紫外線や病原体などの「外部刺激から身体を保護する」ことです。犬の皮膚はヒトと同様に「表皮」「真皮」「皮下組織」の3層で構成されていますが、犬の表皮の厚さは人間の5分の1程度、0.1ミリ以下しかありません。表皮が薄いということは、それだけ刺激に弱くてデリケート。 外部の刺激から身体を守るために、犬の毛は非常に重要なのです。
生理的な脱毛?病的な脱毛?
換毛期であればいつもより抜け毛が多くなりますが、 通常でも犬の毛は抜けています。
生理的に抜けているのか?それとも病的に抜けているのか?どちらなのか判断することがとても大事です。 病的な脱毛の場合は以下の問題が考えられます。
●病的な脱毛の場合
<毛の問題>
遺伝的な原因などによって毛がもろくなってしまい、脱毛症を起こす場合もあります。
<毛包(毛穴)の問題>
感染症や自己免疫性疾患によって毛包が破壊されて、毛が抜けやすくなり脱毛症を起こします。
<毛周期の問題>
犬の毛周期は「成長期」→「退行期」→「休止期」の3期が繰り返されて、毛が伸びたり抜けたりしています。毛周期の期間は、犬種差や個体差、日照時間、気温、栄養状態、ホルモン状態によって左右されます。何かしらの要因で毛周期異常が起こると、脱毛症を起こします。
あなたのワンちゃんが脱毛症かどうか考えてみましょう。 生理的に抜けているのか、それとも病的に抜けているのか、以下のポイントをチェックして、脱毛症かなぁ!?、と思った場合は動物病院を受診しましょう。
●病的な脱毛かを見極めるポイント
<毛艶>
ゴワゴワした毛になっていないか、触ってみてください。
<抜け毛の程度>
皮膚がみえるくらいの脱毛かどうか、チェックしてください。
<抜け毛の分布>
どの部分の毛が薄くなっているのか、チェックしてください。
(耳の後ろやお腹はもともと毛が少ない子もいます)
脱毛症の原因
ここからは少し難しいですが、脱毛症の症状と原因を詳細に見ていきます。
●遺伝的(先天的)な要因
遺伝的な要因で生まれつき毛が生えていなかったり貧毛症のワンちゃんがいます。代表的な犬種は、チャイニーズ・クレステッド・ドッグ、メキシカン・ヘアレス・ドッグ、ペルービアン・ヘアレス・ドッグなどです。
●自傷性による脱毛
【症状】
犬が自分の身体を掻いたり、舐めたりすることで、自ら脱毛を引き起こします。
【原因】
痒くなる皮膚疾患が原因となるため、アトピー性皮膚炎、食事アレルギー、ノミアレルギーなどの「アレルギー性皮膚炎」、疥癬や毛包虫などの「寄生虫疾患」が考えられます。また、「心因的ストレス」が原因で舐めたり、噛んだりすることもあります。
●部分的な脱毛(限局性・多中心性の脱毛)
【症状】
イメージとしては円形脱毛のような感じです。円形や楕円形の脱毛斑が、1箇所、もしくは、全身に何箇所もできてしまうこともあります。原因は大きく分けて2つあります。
【原因①】 感染症
ワンちゃんの皮膚に常在しているブドウ球菌や毛包虫が過剰増殖すると「毛包炎」と言って毛穴の炎症が引き起こされます。毛包炎により毛穴が破壊されると毛は抜けやすく脱毛が生じます。
また、「皮膚糸状菌(いわゆるカビ)」の胞子は毛に付着します。それにより毛が侵されて脆弱化してきます。脆弱化した毛はボロボロと抜け落ちて脱毛が起こります。
【原因②】 免疫介在性
毛は毛包(毛穴)から生えており、毛穴には皮脂腺やアポクリン腺といった分泌腺や毛に栄養を送る毛細血管などが存在します。「免疫介在性」の脱毛症はこれらの構造物をターゲットに、自己免疫が破壊行動を起こすことによって引き起こされる皮膚疾患です。脂腺がターゲットになれば脂腺炎、血管がターゲットになれば血管炎という病名になります。ヒトがストレスで発症する円形脱毛症は、イヌでは免疫介在性の脱毛症に分類されています。
●全身性の脱毛(左右対称性・汎発性の脱毛)
【症状】
一般的にイメージされる脱毛症だと思います。全体的に毛が薄くなってきます。原因は大きく分けて2つあります。
【原因①】 内分泌性脱毛
内分泌疾患とはホルモン異常を引き起こす病気で、犬では甲状腺機能低下症、副腎皮質異能亢進症(クッシング症候群)、性ホルモン失調が脱毛の原因になると考えられています。ホルモン異常によって毛周期異常が起こり、毛の成長が妨げられます。中高齢で去勢や避妊手術を受けていないワンちゃんは要注意です。診断には血液検査、ホルモン検査、超音波検査など各種検査が必要になってきます。
【原因②】 毛包異形成
a)淡色被毛脱毛症(被毛色に関連する脱毛症)
「淡色被毛脱毛症」はブルー、シルバー、グレー、フォーンなどの希釈色の毛を有する犬種に多く、ヨークシャーテリア、イタリアン・グレーハウンド、ドーベルマン、ダックスフンド、チワワなどでみられます。通常4ヶ月齢〜3歳で現れ、淡色毛の部分だけが脱毛していきます。黒色被毛形成異常症の場合は黒色の毛の部分だけが脱毛していきます。どちらの病気も遺伝的な関与があり、奏功する治療法が無いのが現状です。
b)アロペシアX(被毛色に関連しない脱毛症)
被毛色に関連しない代表的な脱毛症に「アロペシアX」があります。Xは原因不明という意味で、何が原因になっているのかが特定できない脱毛症ですが、近年はヒトの男性型脱毛症に類似していると考えられています。ポメラニアンやトイプードルによく見られる脱毛症で、頭部と四肢の毛が残るのが特長です。様々な治療法がありますが、100%治癒するものではありません。
季節性膁部(けんぶ)脱毛症(胴体の側面を中心に左右対称に脱毛)はボクサー、イングリッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、ミニチュア・シュナウザー、エアデール・テリアなどが好発犬種で光周期と気候の変動が発症に影響していると考えられています。
●その他の脱毛症
発熱や全身性疾患、妊娠や過度なストレスで成長期毛が急激に休止期毛に移行してしまう「休止期脱毛症」や、抗がん剤や過度なストレスの影響で成長期毛の段階で毛が抜け落ちてしまう「成長期脱毛症」、脱毛部位の分布が特徴的で原因不明で特発性に発生する「パターン脱毛」など、様々な脱毛症が存在しています。
以上のように脱毛症は多様で、毛が少なくなるという美容上の問題だけの場合もありますし、原因によっては治らない脱毛症も存在します。原因を特定することが、毛を復活させる第一歩といえますので、気になる部分があれば動物病院を受診しましょう。
我々の病院hiff café tamagawaは東京都大田区田園調布にある皮膚科・耳科を専門で診る動物病院です。当院にはドックカフェとトリミングサロンも併設しており、一般的な動物病院とは異なりゆったりとした空間で診察いたします。皮膚や耳の疾患でお困りの方はぜひご来院ください。
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