犬猫の皮膚・耳の専門病院「hiff cafe tamagawa×pet skin clinic」の小林真也です。今回は、「犬アトピー性皮膚炎」についてお話しします。
アトピー性皮膚炎はなぜ痒い?
お薬を飲むと痒みを抑えられるけど、お薬をやめると痒みが再発するなんて経験はないですか?私達が皮膚科診療していると頻繁に受ける相談です。
なぜか?それは痒み止めのお薬は“痒み”という症状を抑えるのが目的であって、犬アトピー性皮膚炎を治すための治療ではないからです。ハウスダストや花粉などのアレルゲンが存在する以上、痒みは永続的に続いていくのです。
ちなみに私はスギ花粉症ですが、2月頃からくしゃみと鼻水が止まりません。お薬を飲むと症状は緩和されますが、薬が切れてくると再び症状が出てきます。スギの時期が終わるまではこの繰り返しになるわけです。花粉であれば季節性がありますが、アトピー性皮膚炎のようにハウスダストやホコリなどに反応してしまう場合は1年中症状と付き合っていくことになってしまうのです。
犬アトピー性皮膚炎は遺伝的な病気なので根本的に治すことは困難です。そのために治療も複雑で多方面からのアプローチが必要になってきます。
それでは実際にどんな治療方法があるか解説していきます。
アトピー性皮膚炎、まずは痒みを止めよう!
犬アトピー性皮膚炎の症状は痒みです。ワンちゃんが掻いている姿を見るのは飼い主さんにとっても辛いですよね。ひどくなると眠ることもできないくらいに痒がることもあります。まずは痒みを抑えることです。しかし、痒みの治療はあくまで症状緩和のためで、治す治療ではないことは覚えておいてください。
ではどのような治療法があるかというと、 飲み薬と塗り薬があります。飲み薬には抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、免疫抑制剤(シクロスポリン)、抗掻痒剤(オクラシチニブ)があります。 それぞれ効果、効能は違いますし、当然薬の副作用も気をつけないといけません。痒いからといってお薬を毎日飲み続けていると、体調を崩してしまうこともあります。獣医さんとよく相談しながらお薬の投薬はしましょう。
また、外用剤に多く使用されるのがステロイド含有外用剤です。飼い主さんは痒みをとってあげたい一心で、必死にお薬を塗り続けます。しかし結果的に、ステロイド皮膚症といって皮膚が薄くなったり赤くなったりと悪化させてしまうケースに遭遇することもあります。飼い主さんの気持ちが逆の効果をもたらしてしまうこともあるのです。
そのためお薬のことを理解することも痒みに対する治療を行う上で重要なことです。
もしかしたら根治治療が可能に?
今、アトピー性皮膚炎の根治治療として人の治療でも注目されているのが 減感作療法というものです。これは実際にアレルゲンを少しずつ投与し、徐々にアレルゲンに慣れさせる(免疫寛容)治療方法です。治療には長期間を要する事も多く、痒み自体をすぐに抑えることはできないですが、ワンちゃん達も将来の痒みを治療できる唯一の治療法です。根治できるかは個体差がありますが、お薬を減らしていく上では重要な治療法だと考えられています。現在ではワンちゃん専用の減感作療法薬もあり、身近にできる治療法になってきています。
シャンプーなどのスキンケアをしよう
アトピー性皮膚炎の患者さんは皮膚の保湿因子であるセラミドが不足していると言われています。これはワンちゃんも同じです。セラミドが不足した皮膚ではバリア機能の低下やドライスキンを引き起こし、痒みの悪化を招きます。
ワンちゃんの肌は2〜3層(ヒトは10〜15層)と薄く非常に繊細ですので、保湿を含めたスキンケアが重要視されています。
実際の方法は保湿系シャンプーで洗浄することや保湿剤(スプレーやフォームなど)を塗布することです。
バランスのとれた食事も大事
皮膚は身体を守る最大の器官で、常に外部にさらされています。そのために栄養の要求量も非常に多いと言われています。不摂生などで栄養バランスが崩れると肌荒れを起こしたなどの経験はありませんか?まずはしっかりバランスのとれた食事をとることが大事です。おやつやヒトの食べ物などを与え過ぎてしまって、ドックフードを食べずに栄養バランスが崩れて皮膚炎の悪化を招くこともあります。食事は毎日のことですので、食生活を見直すことが治療を始める第一歩と言っても過言ではありません。
また、アトピー性皮膚炎の場合は抗炎症効果や免疫調整作用のある必須脂肪酸(オメガ3、6脂肪酸)や抗酸化作用のあるビタミンC,Eなどの成分が皮膚の健康を維持するのに役立つと言われています。
ドックフードの袋に書いてある原材料や成分値をチェックしてみてください。
痒みは犬にとってもストレス。対策は?
痒みを感じることはワンちゃんにとってストレスになります。さらに眠ることのできない程の痒みであれば、そのストレスは計り知れないと思います。ヒトでも心理ストレスがアトピー性皮膚炎の悪化因子になると言われています。
また、ワンちゃんが掻いているのを発見すると飼い主さんは「こらっ!」「ダメ!」って叱ってしまいますよね!?ワンちゃんは痒いストレス、注意されるフラストレーションを感じ、固執して手足を噛んだり、舐めたりなどの葛藤行動を引き起こします。場合によっては常同障害に発展することもあります。
まずはストレスを作ってしまう環境の改善を考えていきましょう。十分な運動や遊びをさせてあげたり、褒めてあげたりなど日常のワンちゃんとの接し方を考えてみましょう。必要に応じては薬物療法が必要になることもありますが、環境改善なしではお薬の効果は期待できません。
室内や外出時の環境対策は?
アトピー性皮膚炎は空気中にあるハウスダストやホコリ、花粉などに過剰反応し皮膚炎を起こします。空気に触れずに生きていくことは不可能ですので、完全にアレルゲンから回避はできません。しかし、触れるアレルゲンを減らすことは可能です。空気清浄機を置くのも、まめに掃除をするのも対策です。また散歩後に痒みが悪化するワンちゃんであれば、散歩中は洋服を着せたり、散歩後に体を拭いたりしてあげたりすることもアレルゲンを減らす対策になります。
犬アトピー性皮膚炎の主な治療は痒みを抑えることですが、薬漬けにならないために、治療は多方向からのアプローチが重要になります。また治療のゴールは100%痒みを抑えることではなく、ワンちゃんが快適に生活できる程度の痒みレベルに抑えることに設定するのも重要です。
最後にアトピー性皮膚炎の治療には正解がありません。重症度だけでなく、ワンちゃんの生活環境や性格、さらには飼い主さんのライフスタイルによって治療法は異なってきます。あなたの大切なワンちゃんに適したオーダーメイドな治療法を一緒に考えていきましょう。
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