蚊が飛び始めたら、今年も「フィラリア症」予防のシーズンが始まります。フィラリア症は蚊が媒介するフィラリア(犬糸状虫)という寄生虫が、犬の心臓や肺動脈に寄生して起こる病気で、放置すれば、命に関わるたいへん危険な病気です。
フィラリアの薬は予防薬ではなく、駆虫薬
フィラリア症予防の薬にはいろんなタイプがありますが、多くは月1回投与するものです。意外と誤解している飼い主さんが多いのですが、フィラリアの薬は、感染を防ぐ予防薬ではなく、1カ月に1回、感染したかもしれないフィラリアをまとめて駆除する「駆虫薬」なんです。 薬の効果は持続しないので、投与後は、また感染するかもしれません。
ですから、蚊が出始めた1カ月後から、蚊がいなくなった1カ月後まで、毎月、繰り返し駆除が必要なわけですね。
フィラリア症はどの犬も感染する危険性がある
「室内飼育だから、予防はいらないんじゃない?」
そう考える飼い主さんもおられるかもしれませんが、人が家の中で蚊に刺されることがあるように、犬も同じです。蚊はマンションの10階でも飛んでくるといいますから、蚊を生活空間から完全にシャットアウトするのは不可能でしょう。しかも、もし感染してしまったら、心臓が小さく血管も細い小型犬は、症状がより重篤になってしまいます。
フィラリア予防率の低い地域も…
都心部では、フィラリアの予防意識が浸透していて、うちの病院(杉並区・荻窪)に来られる飼い主さんのほとんどは予防薬を飲ませています。一方、東日本大震災で保護された被災地の犬たちは6~8割がフィラリアに感染していたそうです。うちの病院にも、福島の被災犬を引き取った飼い主さんがおられますが、やはり感染していました。
このようにフィラリアの予防率には地域差がありますので、自分の住む地域で発生していないからと油断して予防を怠っていると、旅行先などで感染してしまう危険性もあるわけです。
みんなで予防して、犬を飼いやすい環境に
20年前頃までは、フィラリア症はどこでも発生している病気で、多くの犬がそれで命を落としていました。近年、犬の平均寿命が延びたのには、フィラリアの予防普及が大きく寄与しています。月1回の投薬で簡単に防げるのですから、地域の飼い主さんみんなで予防しましょう。そうすることで、犬を飼いやすい安全な環境をつくっていくことができます。
<関連リンク>
▶ Petwell 犬の病気事典 「犬のフィラリア症(犬糸状虫症)」
獣医師 小林豊和
グラース動物病院 院長
日本大学大学院獣医学研究科修了。1993年、東京都杉並区にグラース動物病院開業。生涯のホームドクターを目指し、ホスピタリティを重視した診療を実践。スタッフの得意分野を生かしたチーム医療で、きめ細かなケアをめざす。食事についての造詣も深く、オリジナル無添加ドッグフードの監修も。共著に「獣医師さんが教える手づくり愛犬ごはん(主婦の友社)」「年をとった愛犬と幸せに暮らす方法(WAVE出版)」など、著書・監修は多数。