2013年1月、マダニが媒介する人のウイルス性感染症、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」が国内で初めて確認され、西日本を中心に感染が拡大。犬への感染や犬から人への感染は報告されていませんが、死者も出ているとあって、マダニが大きな注目を集めました。
犬の散歩コースなどにいるマダニ
ウイルスの運び屋となっているマダニは、動物(人も犬も!)につく寄生虫。皮膚にがっちりと食らいついて、小さな体が豆粒くらいになるまで吸血し、イボだと勘違いされることも。日本全国に生息し、犬の散歩コースによくある草木の茂みや河川敷などを住みかとしています。タヌキなどの野生動物の通り道になっている場所は、とくに要注意です。
箱根の関所を越えた、バベシア症
マダニは、犬のバベシア症や、犬も人も感染するライム病や日本紅斑熱などの病原体を媒介します。重度の貧血を起こし、死に至ることもあるバベシア症は、西日本に多く、かつては「箱根の関所は越えない」といわれていましたが、近年、関東でも発症例が報告されています。
温暖化の影響や、犬連れ旅行やキャンプで移動範囲が広がったことが、バベシア北上の原因ではないかと考えられています。
気温15℃がマダニ予防の目安
マダニ由来の感染症から身を守るには、マダニに咬まれないことが一番の対策。犬にはマダニの予防薬があるので、キャンプなどに行くときは予防しておくと安心です。
ただし、予防薬といっても、体に寄生したマダニを速やかに落とす駆除薬で、寄せつけなくする薬ではありません。
マダニは気温が15℃を超えると活発になると言われるので、この気温が一つの目安。予防時期や期間は、地域のかかりつけの獣医師に相談してみるとよいでしょう。
タヌキから感染!? 疥癬症もご用心
もう一つ、見過ごせないダニがいます。
それは、激しいかゆみを伴う疥癬(かいせん)症を引き起こすセンコウヒゼンダニ。マダニよりもさらに小さなダニです。最近では、タヌキやハクビシンなどの野生動物の疥癬症が問題になっていて、疥癬の濃厚感染によって死亡するタヌキも。
うちの病院のある東京・杉並界隈にもタヌキが出没しています。庭先に現れた疥癬症のタヌキから犬が感染するケースもあるので、こちらも注意が必要です。
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散歩などで外出する犬は、ほかにもノミなどさまざまな寄生虫に遭遇する機会があります。予防薬を利用する、野生動物や野良猫がいそうな草むらにはむやみに近づけない、散歩から帰ったらブラッシングやボディチェックをするなどで、体に寄生虫がつかないようにしましょう。
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獣医師 小林豊和
グラース動物病院 院長
日本大学大学院獣医学研究科修了。1993年、東京都杉並区にグラース動物病院開業。生涯のホームドクターを目指し、ホスピタリティを重視した診療を実践。スタッフの得意分野を生かしたチーム医療で、きめ細かなケアをめざす。食事についての造詣も深く、オリジナル無添加ドッグフードの監修も。共著に「獣医師さんが教える手づくり愛犬ごはん(主婦の友社)」「年をとった愛犬と幸せに暮らす方法(WAVE出版)」など、著書・監修は多数。