犬のノミ・ダニ予防はなぜ重要?対策法は?皮膚科獣医師が解説

日差しが心地よく感じるこの季節、ワンちゃんと一緒にお散歩に行ったり、ドッグランに遊びに行ったり、ドッグカフェでお茶したりと、お出掛けが多くなると思います。しかし、皮膚病のワンちゃん達にとっては、これからの季節は最も悪くなりやすい時期になるのです。せっかくお外で楽しく遊んでも、その後に痒くなっては可哀想ですよね!?そうならないためにも、まずは予防できることはしっかり予防するところから始めましょう。

ノミはどんな生物?

ノミは最古の寄生虫と言われ、卵、幼虫、さなぎ、成虫という成長過程を繰り返し動物に寄生しています。厄介な事に、それぞれの成長段階で駆虫薬の感受性が違うので、すべてを一遍に駆除することが非常に困難なのです。

ノミが愛犬・愛猫に寄生すると吸血を開始し、その後24~48時間で1日当たり20~50個の卵を産卵します。それが、リンビングのカーペットや畳、ワンちゃんの寝床に落ち、幼虫、さなぎに成長し、成虫になったノミは再びワンちゃんに寄生することになります。ノミは最長で120日間も生存するので、あっという間に家がノミの巣窟になってしまいます。

飼い主さんが発見できるのはノミの成虫です。5匹のノミの成虫がいれば、10匹のさなぎ、35匹の幼虫、50個の卵があると言われています。ノミは気温が13°C以上になると活動を開始するため、一度家に連れて帰ってしまうと、暖かい家では常にノミが繁殖してしまうのです。

重要なのは、ノミを家に持ち帰らないということです。万が一持ち帰ってしまったとしても、愛犬・愛猫が予防をしていれば、ノミは吸血できずに死んでしまうのです。

ノミの成虫

 

ノミに刺されるとどうなる?

ノミに刺されると、蚊に刺されるのと同じように痒くなり、何度も吸血を繰り返されるとアレルギー性皮膚炎に発展することもあります。ノミアレルギー性皮膚炎になってしまうと1匹でも寄生されれば、重篤な痒みに繋がるケースもあるので要注意です。最近ではアトピー性皮膚炎のワンちゃんがノミに寄生されると、症状が悪化するとの報告もあります。また、大量のノミに寄生されれば、貧血を起こすこともあったり、瓜実条虫症にかかってしまったりと様々な合併症が引き起こされます。
また、ワンちゃんだけでなくヒトへの被害もありますので、十分に気をつけましょう。

ノミアレルギーの症例

 

ダニはどんな生物?

ノミと並んで獣医師が予防を呼びかけるのがダニ。中でも特に厄介なのはマダニです。マダニは800以上の種類がいると言われています。森や林だけではなく、公園や川原の草の先端で、ワンちゃんたちを待ち構えています。血をたくさん吸ったメスのダニは3000~4000個の卵を産みます。それが幼ダニ、若ダニ、成ダニと成長していきます。どの成長段階でも、ワンちゃんには寄生できます。

マダニの恐ろしいところは口の構造にあります。口の先端にある「鋏角」で皮膚を切開し、ギザギザの歯がついた「口下片」を傷口に差し込みます。さらにセメント様の物質を注入して、ガッツリと接着するのです。こうなったマダニは簡単には離れません。無理に取ろうとすると、傷口にマダニの口が残ってしまい、皮膚炎の原因になってしまいます。

皮膚に寄生したマダニ右:吸血して膨らんだマダニ(左)と吸血前のマダニ(右)

 

マダニに刺されるとどうなる?

多数寄生による貧血や刺し口の皮膚炎が一般的ですが、何より怖いのがマダニは病気を媒介するということです。ワンちゃんでは、マダニによってバベシア原虫が媒介される報告が日本でもあります。バベシア原虫は赤血球に寄生するため、重度な貧血が起こり、死に至るケースもあります。

さらに最近問題になっているのが、ヒトへの被害報告です。2013年にSFTS(重症熱性血小板減少症候群)ウイルスによって、日本で初めて死亡例が報告されたのも記憶に新しいと思います。2018年3月末までに319名の方がSFTSウイルスに罹患し、内60名が死亡しています。マダニに感染した猫に噛まれた方が、SFTSウイルスで死亡した報告もあることから、動物からの感染も否定できないのが現状です。こういったことから、ペット達の予防を見直すことも重要な時代になっています。

皮膚に寄生したマダニ

 

ノミダニ対策は通年!

ノミはワンちゃんの腰やお腹のあたりによく住み着いています。腰のあたりの毛をかき分けてみて、黒いブツブツした砂のようなものがないかチェックしてみてください。ノミが寄生している場合は、必ずノミ糞がついています。成虫は動き回っているので、なかなか見つからない場合も多いですが、ノミ糞はすぐに見つける事ができます。ノミ糞は動物の血液が固まったモノなので、黒いブツブツを濡れたティッシュの上に置いておくと血が滲んだようになります。

マダニは草がよく接触する場所である頭や耳、お腹や足先によく寄生しています。散歩後にチェックしてみましょう。

ノミの糞

とにかく予防が一番大事です。ノミ・マダニの予防は暖かい時期だけで良いと思っている方が多いと思います。しかし、ノミは一度家に居ついてしまえば、簡単に繁殖をはじめます。暖かい家の中と寄生できるペット達がいればノミにとっては好条件になり、一年を通して生活できてしまいます。
マダニもワンちゃんがお散歩中に持ち帰ってしまうと、それが家の中に落ちてヒトを刺すこともあります。

大切なワンちゃんだけでなく自分の身も守る意味でも、ノミ・マダニ予防は非常に重要です。現在は、滴下タイプやおやつタイプの予防薬がありますので、これからのレジャーシーズンはもちろん、しっかり一年を通して予防することを心掛けましょう。

予防は遊びに行く上では、マナーです。他のワンちゃんやヒトへ病気を感染させてしまっては怖いですよね!?楽しく、気持ち良く遊ばせるためにも、ペットの予防はしっかりすることを心掛けてください。

当院(hiff café tamagawa × pet skin clinic)は国内初の、カフェスタイルの皮膚科クリニックです。飼い主様が相談しやすく、ワンちゃんも緊張しない環境が大事と考え、犬も人もくつろげる空間で診療します。皮膚に関することでお困りの方は、些細なことでも、カフェへ遊びに行く感覚でお気軽にご相談ください。

小林真也

獣医師、皮膚・耳の専門病院「hiff cafe tamagawa」主宰、日本獣医皮膚科学会・日本獣医がん学会所属 2005年に北里大学獣医畜産学部獣医学科を卒業後、埼玉県内の動物病院で勤務。北里大学附属動物病院で2年間研修医として勤務し、現在はウッディ動物病院(寒川町)と川畑動物病院(横須賀市)で 皮膚科を中心に診療する傍ら、2016年10月に、東京農工大学皮膚科研修医で学んだ知識を生かし、東京都大田区田園調布に皮膚・耳の専門病院として「hiff cafe tamagawa」を設立。 ▶hiff…

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