「何かを教えるときは必ずオヤツをあげてください」犬のしつけの本やしつけ方教室で当たり前のように語られていることですが、実はオヤツをあげることが犬のやる気を削いでしまう場合があることをご存知でしょうか?今回はどういった時にオヤツが逆効果になってしまうのか、動物が行動を起こす原理から考えてみたいと思います。
動物が行動を起こす原動力「動機づけ」
動物が行動を起こすには「動機づけ」が必要になります。動機づけとは動物が何か行動をするための原動力で、どういった行動をどの程度取るのかといった方向性や程度に影響します。「モチベーション」や「やる気」といったほうがピンとくるかもしれません。例えば、オスワリを知っている犬であれば、指示を出されたら、地面にお尻をつけて飼い主から誉めてもらいたい、オヤツをもらいたいということがオスワリをする原動力となります。
このように自分以外、つまり外部からの刺激によってやる気が引き起こされることを「外発的動機づけ」といいます。人間の場合、お給料や他人からの評価、罰則などが、犬の場合、飼い主からもらうオヤツや、怒られることなどがこれにあたります。しかしながら、動機づけには外的な要因以外にも、動物自身の内部から起こる、行動したいと思う気持ち「内発的動機づけ」というものもあります。
例えば、知的好奇心がこれにあたり、本を読むことは好奇心を満たしたい、満足感を得たいという思いが原動力であり、そこにお給料は必要ありません。つまり、「内発的動機づけ」は自分の内なる欲求を満たすための動機づけといえ、外部からの報酬や罰が必要ないのです。また、内発的動機づけは行動自体がご褒美であるため、やる気が持続するのも特徴です。
オヤツが逆効果になる「過剰正当化効果」とは?
少し犬のトレーニングを勉強している方なら、犬がやってほしい行動をしたらオヤツなどのご褒美をあげることで、その行動をどんどんするようになることをご存知だと思いますが、時と場合によっては、オヤツをあげることがやってほしい行動を阻害してしまうことがあります。飼い主さんからよく聞くケースは『もってこい』です。
例えば、犬がおもちゃで遊びたくて『もってこい』をしている場合、動機づけはおもちゃを追いかけたい、噛みつきたい、飼い主と遊びたいなど遊ぶ行動自体となります。それにも関わらず、このような時に報酬としてオヤツをあげると、持ってくることへの動機づけが「遊び」から「オヤツを得ること」にすり替わってしまうのです。こういったケースはおもちゃでそれほど遊ばない犬の飼い主さんが、「いつも遊ばないうちの子が遊んでいるからオヤツで誉めなければ!」と焦ることで見られます。
もともと、おもちゃ遊びへのモチベーションの低い犬はめったにおもちゃで遊ぶ行動自体を楽しむようなことをしませんから、飼い主さんは『もってこい』をさせるためにどんどんオヤツを使います。それを繰り返すことで『もってこい』は「オヤツをもらうもの」という学習をし、しまいにはオヤツなしではできなくなってしまうのです。このように外的な報酬を与えることで内発的動機づけが失われてしまうことを「過剰正当化効果」といいます。
過剰正当化効果はご褒美のランクが変わることでも起こります。ドッグフードでやっていたことをとっても美味しいオヤツを使ったら、それ以降ドッグフードではあまりやらなくなった、なんてこともあります。
もちろん、オヤツを使うことがナンセンスなわけではなく、上手に使えば素晴らしい効果を発揮してくれます。大事なことはやってほしい行動をした場合、何でもかんでもご褒美は食べ物だと思わず、犬が「何がしたくて行動しているのか?」、「何がご褒美となっているのか?」を見極め、伸ばしていくことです。