【ドッグトレーナー連載】オオカミと犬 ~何が似ていて何が違うのか?その1~

ほんの十数年前まで犬の生態や認知能力に関する科学的な研究はほとんど行われておらず、犬の習性は近縁種であるオオカミの習性をもとに語られることがほとんどでした。しかしながら、犬の科学的な研究が進むにつれ、両者には類似点も多いが、大きな違いがあることがわかってきました。では何が似ていて何が違うのでしょうか?

ここが似ている!オオカミと犬

オオカミと犬を遺伝子レベルで比較してみると、母から子に伝わるミトコンドリアDNAでは99%近く一致するといわれるほど近しい存在であります。また、犬とオオカミは繁殖可能であり、その子供も繁殖力を持っています(通常、近縁種で繁殖が可能な場合でもその子供は繁殖力を持たない。ライオンとトラの子供ライガーなど)。実際にイタリアではオオカミとイヌの雑種個体が野生下でも確認されているそうです。ですから、生物学的に種として独立するほど変異がない場合に用いられる「亜種」とする研究者もいるほどです。ちなみにオオカミに最も近い犬種の一つとして有名なのが我々日本人にとって身近な存在である「柴犬」です。

DSC_0848_572柴犬はオオカミに最も近い犬種の1つ

こんなに違う!オオカミと犬

では、今度は両者の違いについて見ていきます。犬は人に飼いならされた家畜ですが、家畜化は動物にいくつか変化をもたらします。その一つとして「脳の縮小」があります。家畜化された動物は食物を自分で得ることをしなくなり、安全な環境で暮らすことで警戒心が和らぐなど野生下と比べ五感を使うことが少なります。結果として脳が小さくなります。そのためオオカミの成獣と同体重の成犬を比べると犬の脳は20%も小さいのです。

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遺伝的な違いを明らかにしたものの一つに消化酵素に関する研究があります(Axelsson et al.,2013)。犬はオオカミと比べでんぷんを消化する酵素であるアミラーゼをコードする遺伝子を多く持っており、分解する能力も大きいのです。

また、消化能力の指標である腸と体長の割合はオオカミと比べ犬のほうが大きく、より雑食に対応した作りになっています。これは人間と生活することになり、消化器系が我々人間の食事に似たものを食べられるよう適応した、つまり農耕に対応した結果と言われています。これらの結果に基づくと、犬はもともと肉食だから肉だけあげていればいいという解釈はいささか乱暴といえます。

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さらに、認知能力にも違いがあります。人が合図として使う「指差し(ポインティング)」を犬が理解できるか調べた研究では、犬はチンパンジーなどの霊長類よりも高い理解を示しました(Hare and Tomasello 2005)。

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一方、オオカミの場合、人馴れしたオオカミは合図を理解できましたが、まず人馴れするのに膨大な時間がかかり、学習までさらに時間がかかりました(4ヶ月齢の犬ができたことがオオカミは1.5歳までできない)。また、ポインティング方法が変わった(肘や足で物を指し示す)時、霊長類やオオカミの場合、初めて見た合図では一から学習し直すことになりましたが、犬は教えられることなく理解することができたのです。

そしてこの能力は室内飼いなどの飼育スタイルやトレーニング経験の有無に関わらず犬が生まれ持って身につけている能力だということが明らかとなっています。つまり犬は体中の機能を変化させ、人間と一緒に生活することに特化した生き物になったといっても過言ではありません。

もう一度整理することが必要

このように、似たところもあれば全く違うところもあるのがオオカミと犬なのです。

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ですから、犬の習性を考える時にオオカミは参考にすべきものではあるが、短絡的にすべてが似ていると考えてしまうと大変危険です。次回は誤解だらけのオオカミの習性についてお伝えします。

【ドッグトレーナー連載】オオカミと犬 ~何が似ていて何が違うのか?その2~

三井翔平

ドッグトレーナー(スタディ・ドッグ・スクール所属)、学術博士、国際資格 CPDT-KA(Certified Professional Dog Trainer - Knowledge Assessed) 麻布大学大学院獣医学研究科博士後期課程にて犬と人のコミュニケーションに関する研究を行い博士号を取得。その後 ドッグリゾートWoof 専属チーフドッグトレーナーを務め、日本テレビ系「ザ!鉄腕!DASH!!」のダメ犬・デブ犬克服大作戦をはじめとしたTV番組にも出演。現在はスタディ・ドッグ・スクールを拠…

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