昨春、「犬と飼い主が見つめ合うことで愛情ホルモンが増加する」として、ヒトとイヌの生物学的絆を実証し話題になった研究を覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
実はこの研究の一部を担当し、話題のホルモン「オキシトシン」の測定をしていました。またこの研究以前に、人がどんな事をすると犬の「オキシトシン」が増加するのか調べていたことがあるので、今回はその研究をご紹介します。
そもそもオキシトシンとは何なのか?
オキシトシンは、様々なホルモンの働きをコントロールしている下垂体の後葉というところから分泌されるホルモンで、分娩や射乳に関与していることが知られていました。また、人やラットでは食物摂取によって増加することや、走運動や水泳によって分泌が促進されることも報告されました。そして近年になり、人の研究でオキシトシンはパートナーや配偶者との接触により増加する、マッサージ後の陽性感情に応じて増加する、リラックスや安堵に関係している等と報告されたことから、「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」として一躍有名になったのです。
犬のオキシトシンを分泌させるために飼い主ができること
犬に関する研究ですが、基礎的研究や病気以外のこと(例えば認知能力など)が盛んに調べられるようになったのは実はここ十数年ぐらいで、比較的新しくまだまだ不明な部分が多いのも事実です。
そこでこの実験では、他の動物で前例のあった「食物摂取」「運動」「マッサージ」という3つの刺激を与えました。また、人が何かすることで犬のオキシトシンを増加させてしまう可能性を排除するため、対照実験として、オキシトシンが増加するという報告のない「水を飲ませること」をしました。
その結果、「食物摂取」「運動」「マッサージ」は、犬のオキシトシンを増加させることが明らかとなりました。これらの刺激は飼い主が犬にできる事に言い換えれば、「食物摂取=オヤツやごはんを与える」、「運動=散歩や遊び」、「マッサージ=撫でるなどのスキンシップ」と考えられます。
もちろん、散歩は外の環境がこわくてビクビクしている犬をムリやり連れ出してもオキシトシンは分泌されないでしょうし、スキンシップも人に触られる事が嫌いな犬の場合は逆効果になってしまいます。ですから、小さい頃から周りの環境や人間に馴れる練習をする「社会化」が必須となりますし、成犬で苦手なものがある犬の場合は飼い主さんが時間をかけ慣らしていく必要がありますが、日々の世話に時間をかけ、愛情をもって接することが犬を幸せにする秘訣といえるでしょう。
参考文献
◆Urinary oxytocin as a noninvasive biomarker of positive emotion in dogs.
Shohei Mitsui, Mariko Yamamoto, Miho Nagasawa, Kazutaka Mogi, Takefumi Kikusui, Nobuyo Ohtani, Mitsuaki Ohta
Hormones and Behavior, 2011, 60(3), 239-243.,
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0018506X11001322