犬の問題行動のなかでも、必ず上位にあがってくる「ムダ吠え」。しかし、吠えることは犬にとってのコミュニケーション手段なので、いろんな種類の「吠え」があって、ひと括りにはできません。2回にわたって、「吠え」とその対策について考えてみましょう。
「吠えをゼロにすること」をめざさない
犬にとって「吠える」ことは、コミュニケーションの一つ。犬に「絶対吠えるな」というのは、「呼吸を止めろ」と同じくらいに大変なことです。ですから、ムダ吠えの相談には、「吠えをゼロにすることを目標にしないで」とお伝えしています。
では、吠えを直すべきかどうかは、どこで見極めるのか。外でガウガウ吠えて、他人を巻き込んでしまう場合は直すべきですが、犬がうれしくてワンワン言ったり、甘えてクンクン言うのまで叱ったらかわいそうです。例えば、吠えるのが家の中だけで、ご近所にも迷惑がかからず、飼い主さんが苦痛でなければそのままでもいいと思います。
飼い主さんのほとんどが、愛犬がなぜ吠えるのかを理解していません。恐くて吠えているのか、威張って吠えているのかさえわかっていない。なぜ吠えているのかわからないままで、アプローチのしかたを間違えると、逆に悪化させてしまう可能性が高いんです。
間違ったしつけは、「吠え」を助長するだけ
ムダ吠えで相談に来られたダックスの例ですが、私の前に2人の訓練士さんについた経験があり、どちらも失敗に終わっていました。2人ともたいへん厳しい訓練士さんで、ダックスなのに中型犬用のチョークチェーンをつけ、少しでも吠えたら、チェーンを引っ張って叱るように指導していました。「吠えるのは絶対によくない」というストイックな姿勢で、クンクンという甘え鳴きも許していませんでした。
※写真はイメージです。
そのお宅は仕事柄、人の出入りが激しくて、人が来るたびに犬が吠えてしまうのは、ある意味、あたりまえの状況でした。そのコが玄関に出て行って人を咬むのであればすぐに対処が必要ですが、そんなそぶりもなかったので、飼い主さんにチョークチェーンを外してもらい、「吠えにあまりナーバスにならないように」とアドバイスしました。
その訓練士さんたちは、つねに人が犬の上位に立って、悪い行動は徹底的に押さえ込まなければいけないという昔ながらの指導法でした。しかし、それは完全に間違ったやり方です。やさしい穏やかなコなら、それでしつけが入るかもしれませんが、すでに攻撃行動が出ているコには、飼い主さんへの反発が高まるだけで何もいい結果は生まれません。
私は、吠えに対しては次のような対処法をとっています。
1) なぜ吠えるのか、原因をつきとめる
2) 吠えやすい環境であれば、吠えにくい環境をつくってあげる
3) 飼い主さんのしつけに対する考え方が間違っていたら、正しいやり方に塗り替える
4) トレーニングによって、犬が飼い主さんの言うことをすぐに聞ける関係づくりをする
道具を利用した、玄関でのムダ吠え対策トレーニング
それでは実際に、来客に対して激しく吠えて困るという犬の、ドアマナーの直し方について考えてみましょう。今回は、「マナーズマインダー(※)」という米国製のトレーニング道具を使った方法をご紹介します。
※米国では、マナーズマインダーをさらに進化させた「ペットチューター」という商品が出ていますが、残念ながら日本では未発売です。
マナーズマインダーは、リモコンの操作によって、お知らせ音がピピッと鳴るとフード(おやつ)が出てくる道具です。どんなふうに使用するかというと・・・
1)ドアが死角となり、できるだけドアから離れた場所に、マナーズマインダーを設置します。
2)最初に、ピピッと音がしたらフードが出てくるという関連性を犬に教えます。これはクリッカーと同じで鳴ればフードが出てくるので、犬はすぐに覚えます。
3)次にマナーズマインダーの前で「フセ」または「スワレ」をすると、フードが出てくることを教えます。時間設定が調節できるので、音が鳴ったらすぐ出てくるのではなく、座ってしばらくすると出るように調節し、道具の前で少し待たせる訓練をします。
4)さらに「マインダー」という言葉をコマンドにして、「マインダー」と言えば、犬が道具の前に来るように訓練します。練習でドンドンとドアをノックしてみて、(最初はワンワンいうかもしれませんが)道具の前で待機できるように習慣づけていきます。
5)最終的には、例えば玄関に宅配の人が来たら、飼い主さんが荷物を受け取ってハンコを押し、リモコン操作でフードを出すまで、犬が黙って待っていられるようにします。
もしマナーズマインダーがなければ、犬にこの場所でフセ、マテと言っても、玄関に人が来たらマテを聞かずに行ってしまうでしょう。でも、犬にとってフォーカスするものがあると、待ちやすくなるんです。ただマテと言われて、次の解除の言葉をもらうまで待つより、「ここからフードが出てくるんだよね」という期待感がありますから。
マナーズマインダーは、飼い主さんに少しトレーニングスキルがあれば、一人でもできるのがいいところです。また犬も叱られることがなく、ストレスがかかりません。
新しい習慣づけが完了すれば、道具は不要に
だんだん慣れてくると、道具を使わなくても、おとなしくしていられるようになります。これは習慣性が変わったということです。今までは、「人が来る」→「吠える」→「人が去る」という流れでした。犬は、自分が吠えたから、苦手なものがいなくなったと考えます。それが今度は、人が来るとフードがもらえるという、いい関連ができました。しかも、吠えなければほめられる。すると、「人が来る」→「フードがもらえて、ママにほめられる」というのがだんだん習慣化していきます。それが習慣になってしまえば、もう道具はいりません。最初の習慣の断ち切りのために必要だったんです。
マナーズマインダーは食いしん坊の犬にはすごくいい道具ですが、食に執着のない犬には不向きです。人が来たという刺激と食べ物を天秤にかけたときに、人が来た刺激の方が勝つタイプには、効果は期待できません。
牧口香絵先生のお薦め
「犬の無駄吠え防止 マナーズマインダ―」
マナーズマインダーは吠えを0にするのではなく、吠えやんだ状態を褒めて長くしていく陽性強化型の吠えグセ解消グッズです。最初に「音が鳴ったらフセて待つ」→「待っていればフードやおやつが出てくる」ことを自然に学んでいけるので、チャイムや来客など吠えてしまう対象がある時もマナーズマインダーに意識が向き、吠える対象への執着が薄くなります。 苦手な状況でもマナーズマインダーの前でフセて待てれば大成功!楽しみながら吠えを減らすことができるので愛犬と飼主さんの負担が少ないトレーニンググッズです。
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