猫が「ふみふみ」「スリスリ」する理由は?|行動学の専門獣医師が解説

猫が前足で足踏みをしたり、頭や頬をグイグイこすりつけてきたり、猫の飼い主さんにはおなじみの行動ですが、こうした猫特有の行動にはどんな意味があるのでしょうか?今回は猫の「ふみふみ」と「スリスリ」についてお話します。

猫がふみふみする意味は?

●元々は子猫が行う本能的な行動
ふみふみは、生まれたばかりの子猫がおっぱいが出やすいように母猫の乳腺を押す、一番最初の本能的な行動です。誰かから教わったわけではなく、子猫のDNAに書き込まれている行動。それが3ヵ月ぐらい経って離乳の時期になると、だんだん母猫からおっぱいを吸うことを拒絶されるようになり、ふみふみ行動もなくなっていって、成猫になるわけです。

お乳をのむ3匹の子猫

●大人になってからはリラックスや安心の行動に
ところが、なかには離乳が早くて、一定の期間、十分に母猫と過ごしていない子は、そのふみふみが残りやすい傾向があります。また、とくにそういった理由はなくても、ふみふみ行動は、猫にとってある意味リラックスや安心の行動でもあるので、成猫になってからも、例えば柔らかい毛布の上や、人間のわきやおなかなど体の柔らかい部位でやる子もいます。

元々は生きていくためにおっぱいを出すという本能的な行動だったのが、人間と暮らすようになって、愛情や信頼表現、リラックス表現にもなっているということ。だから子猫がするのと成猫がするのとでは意味合いが違うといえます。

毛布にふみふみする茶トラ猫

知り合いの猫も、必ず1日1回、同じクッションでふみふみ行動をします。そして、その時は飼い主さんになでて欲しがり、飼い主さんがケータイを見ながら、適当になでると怒るそうです。猫にはリラックスしたい気持ちと、それを飼い主さんと一緒に共有したいという気持ちもあるのでしょうね。

●安心できる環境でなければやらない
どんな時にふみふみするかといえば、飼い主に甘えたい時、自分が安心してリラックスしている時、眠い時などにも。犬が寝る前に寝床をホリホリするのと同じように、猫も寝る前の儀式のようにふみふみしてから寝る子もいます。

くつろぐ八割れの柄の猫

猫の肉球には臭腺があって、ふみふみすることでニオイがつくので、自分のニオイをつけて安心するという意味合いもあるかもしれません。いずれにしても怒った時に出る行動ではないということ。猫がまったくリラックスできない環境、例えば全然人慣れしていない野良猫を保護した時に、その子がふみふみするかというと絶対しない。安心できる環境だからできるのです。

●すべての猫がするわけではない
ふみふみを全然しない子もいますが、だからと言って飼い主さんとの関係性が悪いわけではありません。ふみふみをするかしないかで愛情は測れません。ふみふみをしないのは、母猫に十分な愛情をもらって離乳がしっかりできている子なのかもしれないし、独立心が強く飼い主さんにベタベタするのを好まないのかもしれない。子猫の本能的な行動としてのふみふみはみんな必ずしますが、それが残るかどうかはその子の性格や育ち方によるのです。

●ふみふみの延長でチュパチュパも
ふみふみの延長で、布をチュパチュパ吸う猫もいます。結構、ふみふみと連動して行うことが多いです。ふみふみ自体は異常ではありませんが、布をチュパチュパして、それを食いちぎって食べてしまうとなるとNG。誤飲は危険なので、異物摂取の問題行動となってしまいます。

毛布の上にいるロシアンブルー

猫がスリスリする意味は?

●マーキングではなく挨拶行動
かつては、スリスリはマーキング行動、つまり自分のニオイをつけて「あなたは私のものよ」という主張だと言われていました。ところが、最近はそうではなくて、とくに人にスリスリするのは、挨拶や愛情表現などのコミュニケーションツールではないかと考えられています。

猫には、ヒゲの生えているほほの部分や口のわき、おでこなどに、フェイシャルフェロモンという特殊なニオイを分泌する部位があって、スリスリはそこをこすりつけて自分のニオイをつけているのです。飼い主さんが外で他の猫を触ってきたり、美容室から帰ってきたり、何か違うニオイをつけてくると、よりスリスリが多くなるようです。それは別にマーキングをしているわけではなく、違うニオイがして不安だから、自分のニオイをつけて安心したい、仲間意識を訴えるコミュニケーションツールなんですね。

猫のフェイシャルフェロモンを合成的に作って商品化したものもあります。そのニオイをかぐことで猫がリラックスできるというものですが、すべての猫に効果があるわけではありません。やはり香りにも個体差があって、マッチングしないと効かないようです。


フェリウェイ スプレー 60ml

●嫌いな人や苦手な人にスリスリはしない
ふみふみもそうですが、スリスリも基本的にリラックスしていないと出ない行動なので、嫌いな人や怖い人、信頼がおけない人にはあまりやらないと思います。スリスリは猫同士でも、同居の犬に対しても行うことがあります。コミュニケーションツールなので、仲がいいほどします。

キジトラ猫にスリスリする茶トラの猫

最近は犬のようにフレンドリーな猫が増えてきたのか、昔なら、猫は知らない来客には逃げて隠れてが定番でしたが、初めてでも堂々と玄関に出てきて「こんにちは」とスリスリしてくる子がいて、びっくりします。

●スリスリにも個体差
スリスリにも個体差があり、しつこくやる子もいれば、さらっとやる子もいるし、まったくやらない子もいます。その子の個性ですね。なかにはスリスリが激しすぎる子もいますが、基本、好意的な行動なので叱るわけにもいきません。あまりしつこくて困るようなら、飼い主さんのほうから離れて距離をとるようにしましょう。

●甘えからの攻撃行動に注意
猫の場合、なでられてご機嫌だったのにいきなりかんできたり、お腹を出してクネクネ甘えていたのに触ると襲ってきたり、同様に自分からスリスリしてきたくせにだんだんイラついてパクッとかむということがあります。猫特有の「愛撫触発性攻撃行動」と呼ばれるものです。もし、普段から、スリスリして、その延長でかむということがあらかじめわかっていたら、ある程度スリスリさせたら離れることです。

撫でられる茶白の猫

猫は自分の感情をうまく管理できないのか、こういった相反することをする動物です。犬に比べて表情も読みづらく、飼い主さん側に感情を読み取る能力が求められるといえます。

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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