ネットで通称「猫戦車」と呼ばれる、猫が床にお尻をこすりつけて歩く姿。「かわいい」とか「面白い」とか思って見ていませんか?これは猫がお尻に何らかの違和感を感じている証拠。猫にも犬と同様、肛門腺があるので、もしかしたら肛門のう炎などを起こしているのかもしれません。日頃からお尻まわりのチェック&ケアを怠らないようにしましょう。
猫の肛門腺とは?
犬では、肛門腺の存在は比較的よく知られていますが、猫の場合は「肛門腺って何?」という飼い主さんも多いと思います。肛門腺は、お尻の下(肛門を中心として、時計の4時と8時の位置)に一対ある“におい袋”のようなものです。スカンクが有名ですが、肛門腺をもつ動物は興奮したりパニックになったりすると、独特のにおいのする分泌液をビュッと出します。もともとは動物たちのコミュニケーションツールで、個体識別をしたり、排便時に一緒に出してにおいのコミュニケーションに使っています。
分泌液は肛門のうという袋に溜まっていきますが、自然排出できなかったり、溜まりやすい子は、肛門腺を絞ってあげる必要があります。猫の場合は自分でグルーミングする動物なので、一般にサロンに連れて行く習慣もないし、肛門腺を絞ろうという意識もないでしょう。でも、なかには「お尻からうんちとは違うにおいが漂うんだけど、何だろう?」と感じている方もいらっしゃるかもしれませんね。この分泌液は、形状も水っぽかったり粘りがあったり、色やにおいもかなり個体差があります。
スムーズに出ないと、肛門のうが破裂することも
分泌液は通常、肛門のうから導管を伝ってお尻の開口部から外へ排出されます。ところが、その管が詰まってしまうと、分泌液が溜まりすぎて「肛門のう炎」になったり、「肛門のう破裂」を引き起こすこともあります。破裂すると、皮膚に穴が開いて血や膿が流れ出します。ひどい場合は組織が壊死して、肛門のう自体を取り除かなければならなくなることも。お尻まわりは細菌感染しやすく、炎症が広がりやすいです。
分泌液の詰まりやすさは、性差や猫種による差はなく、個体差です。液体の質感が水っぽければ排出されやすいし、カッテージチーズみたいな固形系だと詰まりやすくなります。避妊・去勢も直接関係はありませんが、肥満したり筋力が落ちると排出されにくくなります。猫の場合は、犬ほど詰まるケースは多くありませんが、肛門のうが炎症を起こすと痛みますし、排便障害を来すこともあるので、気をつけてあげてください。
猫がお尻を気にしてしきりに舐めたり、床にお尻をこすりつけて歩いたりするときは要注意です。お尻を触ってみてポコッとしたふくらみを感じたら、肛門のうに分泌液が溜まっていると考えられます。破裂させると本当にかわいそうなことになるので、その前に気づいて対処してあげることが大切。一度、肛門のう炎や肛門のう破裂を起こすと、かなりの確率で再発します。詰まりやすい体質の猫は、定期的に肛門腺絞りをしたほうがいいでしょう。
自宅でできるケアは?
肛門腺のトラブル予防としては、まず肥満にさせないこと。下痢をくり返す子もなりやすいので、排せつの状態を見てあげること。そして適度な運動で腸を動かし、便を出すことなど。
お尻まわりが不衛生だと細菌感染しやすいので、長毛の子は肛門の周囲の毛をバリカンで刈ったり、排せつ後にお尻をペット用のウェットティッシュで拭いてあげるといいでしょう。拭くときは、ゴシゴシこするのではなく、優しく押さえる感じで汚れを取ってあげてください。
猫の肛門腺の絞り方
肛門腺を絞るときは、肛門のうがどこにあるかを確認してからのほうがやりやすいです。猫を立たせてしっぽを持ち上げ、お尻を触ってみます。分泌液がある程度溜まっていれば、ころんと手に触ります。左右の肛門のうの位置がわかれば、そこに親指と人差し指を当てて、押し上げるようにして絞ります。
肛門腺絞りにはコツがいるので、慣れないうちは難しいかもしれません。猫がストレスなく動物病院に行けるように慣らしておくと、病院でお願いすることもできて安心です。
●肛門のうの位置
●肛門腺の絞り方
その他のお尻まわりのトラブル
●肛門のうアポクリン腺がん
肛門のうやその周辺にはアポクリン腺という汗腺があり、そこががん化することがあります。それが「肛門のうアポクリン腺がん」で、リンパに飛ぶことが多く、あまり予後がよくない病気です。
肛門近くに腫瘍ができると、直腸を圧迫してうんちが出なかったり、平たいうんちになったりするので、便の異常に注意してください。手術で腫瘍を取り除き、良性でなければ放射線治療や抗がん剤治療を行うことになります。
●直腸脱(脱腸)
直腸脱、いわゆる脱腸もあります。便秘をくり返して力みすぎると、お尻からぷくっとピンク色のものが出てくることがあります。初めのうちは、脱出部分にグリセリンや潤滑剤を塗って指で押し戻したりしますが、また出てきます。結局、手術しないと治らないことが多く、肛門周囲の皮膚を縫い縮めたり、腸を引っ張ってお腹のなかに固定するなどして、腸が出てこないようにします。
犬ほどではないけれど、猫にもあるお尻まわりのトラブル。普段、ウンチは確認しているけれど…という飼い主さん、ぜひお尻まわりのチェック&ケアも忘れずに。