高齢者とペットについて考えることは私たちの将来を考えること

近年、高齢者とペットの問題が注目されていますが、自分にはまだ関係のないことと思う人も多いかもしれません。果たして、そうでしょうか? 今、高齢者とペットを取り巻く環境を考えることは、結局は私たちの将来を考えるということなのでは? 現状はどうなのか、現場をよく知るケアマネジャーの倉田美幸さんにお話を伺ってみました。

<お話をうかがった方>
倉田美幸さん
倉田さん_プロフィール介護支援専門員(ケアマネジャー)として、多くの高齢者と関わってきた中で、ペット飼育を巡る問題が隠れていることに気づく。高齢者と実際に関わるからこその現場の視点から、問題を提起し、高齢者とペットがともに住みよい環境づくりを目指して活動を続けるかたわら、ご自身も大の愛犬家で、犬の整体院を開業。愛玩動物飼養管理士として適正飼養の啓発活動も行っている。


高齢者はペット飼育をどう考えている?

元々、倉田さんが高齢者のペット飼育について考えるようになったのは、ご自身が高齢になってもペットと一緒の生活を送りたいと思ったことがきっかけだったそうですが、「現在の高齢者層にも、思った以上にペット飼育志向があるようです」とおっしゃいます。ちなみに、高齢者の意識をアンケート調査で見てみると…。

高齢者とペット_グラフ①60歳以上を高齢層とした場合、新しいペットを迎えることに積極的な人は15.3%だが、その時になってみないとわからない、飼いたいが飼わないと思うという人のなかにも、もしかしたら飼う可能性のある人もいると考えると、想像以上に高齢者のペット飼育志向はあると思われる。

 

高齢者とペット_グラフ②
世話がたいへんだから、自分の年齢的に無理という人は、一緒に世話を手伝ってくれる人や、万一の時には代わりに世話をしてくれる、相談できる、そういったサポート体制が整うのであれば、ペットを飼育する可能性はあるのかもしれない。

 

ペットとの暮らしによる恩恵

このように高齢層でも少なからずペット飼育意欲や、その可能性は見られるわけですが、では、高齢者はペットとの暮らしからどんなことを感じているのでしょう?

高齢者とペット_グラフ③精神面でのプラス作用を多く感じる一方で、やはり健康面でのプラス作用も大きい。特に健康面においては、ヤング・ミドル層よりも高齢層のほうがプラス効果を強く感じているのがわかる。

 

高齢者とペット_グラフ④健康でいようとする気持ちが強くなる、規則正しい生活ができる、運動量が増えた、加えて孤独になりがちな高齢者がペットを通して友人ができる、ということは生活をする上で大きなプラスポイントと言える。

これらの回答を裏打ちするかのように、犬と暮らす高齢者はそうでない人に比べて1日に約20分程度多く歩いており、それはWHOが推奨する身体活動レベルにほぼ合致するという調査報告があります(*1)。また、ペットの存在が近隣住民との仲をとりもち、友人関係を築ける他、ひいてはそれが地域コミュニティーを健全に保ち、加えて防犯意識も高めることにつながるという報告もありました(*2)。

高齢者自身の実感としても、ペット飼育はQOLを高め、ADL(Activity of daily life/日常生活動作)*を維持向上させる重要な要因になりえるということです。

 

高齢者ペット飼育のトラブルは未然に防ぐ努力を

しかし、一方ではトラブルも存在します。たとえば、猫屋敷状態。

「体を動かすことがきつくなり、ゴミ捨て場まで行けない。または認知能力が低下してゴミ出し日がうまく理解できない。だから、ゴミをその辺に溜め込んでしまう。ゴミ屋敷となったところへ残飯を漁りに猫がやって来る。近隣との交流もなくなって、庭に来る猫たちだけが心の拠り所となり、猫屋敷となっていく。挙句は生活保護のお金も猫に費やして、自分は栄養不良になっている。そういうケースが出てきています。これは周囲の人の気づきや声がけがあれば防げる問題でもあるんです」、と倉田さん。

IMG_7570_サイズw572ペットが心の拠り所となるがゆえに、ペットへの依存心が強まり、逆に他者との交流を絶つことで孤立する他、入院や介護施設への入居を拒否し、健康管理に支障が出るといったマイナス面も。また、飼い主が亡くなることで飼われていたペットが行き場を失うという問題点もある。

「ゴミを捨ててきましょうか?」と代わりに行ってあげる、認知能力が疑われるのであれば介護福祉系の関係機関に連絡を入れる。早期にそのような対応がとれれば、それだけでトラブルの芽を摘むことが可能というわけです。

「トラブルになるにはそれなりの理由があり、一方的に非難をするのではなく、その背景にあるものも考えていただきたいと思います」、と問題が表面化してから対処するのではなく、それ以前に予防という視点に目を向けることの大切さを倉田さんは指摘します。

 

介護福祉系とペット関連専門家とのネットワークづくりで飼育支援

では、このような問題点も踏まえた上で、望まれる対応とは?

「ペットと暮らす高齢者の場合は、介護支援スタッフのみでなく、早い段階から動物の専門家が関わり、散歩の代行や飼い主さんが入院時の一時預かりなど支援に加わることで、トラブルを未然に防ぎ、生活上の困った問題も解決につながると思います。そのようなネットワークづくりが何より必要ではないでしょうか」と倉田さんはおっしゃいます。

IMG_20160529_0002-20160529_1_w572高齢者の介護支援は地域で支える取り組み(チームケア)が進められており、支援関係者による地域ケア会議では、それぞれの高齢者の状況に合わせた支援方法が話し合われるという。その段階で、動物関連の支援者も参加できるのが理想。

実際、動物に興味のない関係者には、「ペットは保健所が見てくれる」と認識の誤りがあるとか。一方、動物の支援者は、動物には目が行っても高齢者を理解して支援することは困難であると。

たとえば、動物関係者がよかれとペットの里親を探したとしても、場合によっては取り上げられたと当の高齢者は思い込み、また同じようにペットの飼育を始めるケースもあるそうです。高齢者の心情や、認知能力も含めた状況を併せて対処していく必要があり、そのためには、人側の介護支援、動物側の支援がうまく連携することで、より望ましい対応が可能になるということです。

現実的には転居や離婚などの理由で子や孫が飼っていたペットを引き取る、また、高齢者が飼うペットは同じく高齢であるというケースが目立つといいます。それだけに見過ごせない高齢者とペットの問題。

やがては私たちも高齢者の仲間入りをします。その時、皆さんは、ペットとどんなつながりをもっていたいですか?

参考文献
(*1)The influence of dog ownership on objective measures of free-living physical activity and sedentary behaviour in community-dwelling older adults: a longitudinal case-controlled study / Phillippa Margaret Dall et al. / BioMed Central, BMC Public Health, 9 June 2017, DOI: 10.1186/s12889-017-4422-5
(*2)The Pet Factor – Companion Animals as a Conduit for Getting to Know People, Friendship Formation and Social Support / Wood L, Martin K, Christian H, Nathan A, Lauritsen C, Houghton S, et al. (2015) / PLoS ONE 10(4): e0122085. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0122085

注釈:
*ADL(Activity of daily life/日常生活動作)=食事を摂る、着替えをする、トイレに行くなど日常的な動作活動を指し、これがしっかりできるのであれば、介護の必要はないとされる。

資料提供/倉田美幸

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大塚良重

犬もの書き、愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー 雑誌、書籍、Web、一般誌などで執筆を続けて20年以上。特に興味があるテーマは、シニア犬介護やペットロスをはじめとした「人と動物との関係性」。昨今は自身が取材をお受けすることも増えており、読売新聞、毎日新聞、サンデー毎日、クロワッサン、リクルートナビなどの他、ラジオ出演、テレビ番組制作協力なども。自著に、難病の少女とその愛犬の物語『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派。 ▶主な著書: 『りーた…

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