【ドッグトレーナー連載】「人類最良の友」犬はいつどこからやってきたのか? by三井翔平

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社会性が高く、飼い主に忠実と言った理由から「人類最良の友」といわれる犬がいつから人と生活するようになったのか(犬の家畜化)、その起源や理由は近代動物行動学の祖コンラート・ローレンツをも虜にした壮大なテーマです。

これまで、犬の家畜化の年代は考古学的な証拠を基に推察されてきました。最も有名なのは老婆が子犬を手に抱くように埋葬されている北イスラエルにあるアインマラハ遺跡で約12,000年前のものとされています。

EinMallaha_350アインマラハ遺跡から見つかった、人と子犬が一緒に埋葬された墓。左上、人の手は子犬の胸に置かれている。
出展:Simon J. M. Davis et al., ” Evidence for domestication of the dog 12,000 years ago in the Natufian of Islael” Nature vol.276, p608-610

 

考古学的証拠の問題点

考古学的研究では出土した犬の骨が、いつ頃のものであるかを元に家畜化された年代を探っていますが、これには一つ問題点があります。オオカミと犬を区別するには、頭骨や歯、尾の形状など、いくつかの身体的特徴を基にしますが、オオカミと明らかに違わなければ犬だと同定出来ないのです。

例えば、損傷が激しかったり、一部しか残っていない場合や、容姿が似通っているであろう家畜化初期の犬とオオカミは線引きが難しく、判断が困難なのです。ちなみに頭骨で見分ける場合、犬は鼻と額の間にストップ(額段)と呼ばれるくぼみがありますがオオカミにはありません。

犬とオオカミ矢印_572オオカミ(左)に対し、犬(右)にはストップというくぼみがある(矢印部分)

 

ゲノム解析からわかったこと

近年では遺伝子研究の発展と技術の向上から、ゲノム解析をもとに犬がいつどこで、なぜ人と生活するようになったか明らかにする試みがされています。人類がどの年代にどんな生活を送っていたかはある程度わかっていますので、家畜化の年代を明らかにすることは、どういった理由で犬が人に飼われるようになったのか(狩猟のパートナー、番犬、残飯処理など)の謎が一歩解明に近づくのです。

ゲノム解析の結果、家畜化に関する様々な疑問は幾つかの説に絞られてきました。まず、家畜化された場所ですが、東アジア(1)、中東(2)、ヨーロッパ (3)、中国(4)などの説に絞れられてきました(※2017年現在、最も新しいものは中国説)。また、ひとところに限らず、同時多発的に起こったと主張する説(5)や、犬が世界各地に広まる過程で再びオオカミと交雑してきたとするものもあります(2)。余談ですが、その昔、日本の猟犬はオオカミの血を導入するために、あえて発情したメス犬を野山におき、オオカミと交配させたという言い伝えもあるそうです。

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次に年代ですが、33,000~11,000年前に家畜化されたとされています。この家畜化の年代の差は、大きな突然変異を持った個体がいたかどうか(変異のスピードが早くなる)で変わるとされ、今後の研究が待たれます。

これらの研究は現代の様々な犬種と現存する世界各地のオオカミの遺伝子を解析することで行われました。また、中には古代のイヌ科動物の化石を用いて解析した研究もありました(3,5)。その結果、今日では犬の祖先はオオカミとすることが一般的ですが、現代のオオカミよりも既に絶滅した古代のオオカミの方が、イヌに近いとするものや、人類に飼育されたのは犬とオオカミの共通の祖先で犬はそこから分岐したと主張するものもあります

まだまだ謎に満ちた犬の起源ですが、個人的には(何の根拠もありませんが)多少の時期の違いはあるにせよ、家畜化が同時多発的におこったり、異なる場所で家畜化された犬同士が交配する、また、途中でオオカミと交配するということも十分に考えられ、そのあたりが解明をより困難にさせているのではないかと考えています。何れにせよ真実解明までにはもう少し時間がかかりそうですので、自分の犬の祖先が世界のどこからやってきたのかロマンチックな想像を膨らませてみるのもいいかもしれません。

(1)Genetic Evidence for an East Asian Origin of Domestic Dogs
(2)Genome-wide SNP and haplotype analyses reveal a rich history underlying dog domestication
(3)Complete Mitochondrial Genomes of Ancient Canids Suggest a European Origin of Domestic Dogs
(4)Multiple and ancient origins of the domesitic dog
(5)Out of southern East Asia: the natural history of domestic dogs across the world
(6)Genome Sequencing Highlights the Dynamic Early History of Dogs
 
ドッグトレーナー 三井翔平(三井正平)

ドッグトレーナー

麻布大学大学院獣医学研究科博士後期課程にて犬と人のコミュニケーションに関する研究を行い博士号を取得。その後ドッグリゾートワフ専属チーフドッグトレーナーを務め、日本テレビ系「ザ!鉄腕!DASH!!」のダメ犬・デブ犬克服大作戦をはじめとしたTV番組にも出演。現在はスタディ・ドッグ・スクールを拠点とし、しつけ教室や教育機関で講師を務めるなど活動を拡大中。“犬に優しくわかりやすいしつけ”をモットーに、飼い主指導や後進の育成に携わっている。愛犬はトレーニングの師でもあるラブラドール・レトリーバーのクッパ。

スタディ・ドッグ・スクール
スタディ・ドッグ・スクール ペットドッグトレーナー育成コース

 

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