マダニが媒介するSFTS。秋も危ない!正しい知識で適切な予防を

2017年7月24日、野良猫に咬まれた西日本に住む50代女性が昨夏、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に感染し、死亡していたというショッキングなニュースが発表されました。心配になった飼い主さんは多いかと思います。けれども、正しい知識を知っておくことで、焦らず、びびらず、冷静な対応ができます。マダニのこと、SFTSのこと、しっかり学んでおきましょう。

2011年、中国で報告された新しい病気

今回のネコ→ヒトへの感染例とされる症例は、厳密に言うとその野良猫がSFTSに感染していたかどうか確認はできていません。でも女性は、衰弱した野良猫に咬まれた後にSFTSを発症し、その後亡くなったことは事実。その野良猫も、血小板の減少などSFTSらしい症状はありました(SFTSを発症していたから衰弱していたともとれます)。また女性はマダニには咬まれていませんでした。今まで日本では、マダニ→ヒトへの感染例しかなく、哺乳類→ヒトへの感染例は初めてだったので、このたび強い関心が寄せられているのです。

ネコ_527

SFTSは、世界の中で、中国、韓国、日本で患者が見つかっている新しい病気です。いちばん最初は2011年、中国で流行していることが報告されました。病原体はSFTSウイルス。主な初期症状は発熱、全身倦怠感、消化器症状で、重症化すると死亡することもあります。

ちなみに日本で見つかったSFTSウイルスは、中国や韓国のSFTSウイルスとは性質は同じですが、遺伝子レベルでわずかに異なります。つまり日本のSFTSウイルスは、最近中国から入ってきたものではなく、以前から日本国内に存在していたと考えられます。よって海外旅行先でウィルスをもらってきたとか、マダニが荷物に紛れて日本に入ってきたわけではなく、患者は日本国内のSFTSウイルスに感染したということ。ずっと昔からこのウィルスは日本にいたのかもしれません。でもこの病気だとわからないまま既存の病気を疑い治療していたかもしれませんし、今ほどマダニが人の住むエリアにまで入り込んでいなかったから発症例も少なかったと思われます。

草むらのマダニ_572葉の先端で寄生する機会を待つフタトゲチマダニの幼ダニ

日本で最初の死亡例は、2012年秋(2013年1月、SFTSの患者として日本初の症例として発表)。それ以降、2017年7月26日現在で、280人(生存:222人。死亡:58人)の患者が報告されています。日本でのSFTSの致命率は約20%(けっこう高い!でも中国ではもっと高いです)。男女比は133:147で、男女差はなさそう。発症した年齢層は5歳~90歳代で、全患者の約90%が60歳以上(平均年齢は74.0歳)。亡くなった患者は50歳以上なので、高齢者が重症化しやすい。症例は、西日本を中心とした21府県から届出されていますが、現在じわじわと日本列島を北上しているように見えます。

 

基本的にマダニが媒介する病気

通常の感染経路は、SFTSウィルスを持っているマダニに咬まれることによって、ウィルスがうつります(全部のマダニがウィルスを持っているわけではない)。現在、SFTSウイルスに感染し、発症した動物として確認されているのは、ヒト、ネコ、イヌ、チーター。2017年8月18日、広島市安佐動物公園(広島県広島市)で飼育していたチーター2頭がSFTSを発症し、7月4日と30日に相次いで死んだと発表されたのはショックでした。

動物がSFTSウイルスに感染しても、多くは症状を示さない「不顕性感染」すると今までは一般的に考えられていたのですが、このチーターの例を見れば、ネコ科を含み哺乳類全般が死亡するほど重症化する可能性もあるとわかります(つまりうちの犬も死ぬ可能性があるってこと!)。

タヌキ_572人間が住んでいる街中、すぐそばにも棲んでいるニホンタヌキ

発症例のあるヒト、ネコ、イヌ、チーター以外で、日本で抗体が検出されている動物は、シカ、イノシシ、アライグマ、タヌキ、アナグマ、イタチ、ニホンザル、ウサギなど。つまり日本にすむ多くの野生動物(哺乳類)が感染するということです。

なので、原則としてはマダニが媒介する病気ですが、上記の死亡した女性のように、ネコ→ヒト感染といったマダニを介さないで感染することもあります。ちなみに中国や韓国では、患者血液との直接接触が原因と考えられるヒト→ヒト感染の事例も報告されています。

 

初期症状は、胃腸炎やインフルエンザに似ている

発症すると、ヒトの場合、発熱消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が出現します。ときに頭痛筋肉痛神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹呼吸不全症状出血症状(歯肉出血、紫斑、下血)も起こります。初期症状は、急性胃腸炎、インフルエンザ様疾患の症状と類似し、区別がつかないことが多いそうです。マダニに刺咬されたり、ネコやイヌに咬まれたりしたあとにこういう症状がでた場合は、その旨を病院で医師に申告しましょう。

ちなみにイヌ・ネコでは、症例数が少ないのではっきりとは言えませんが、発熱(39℃以上)食欲消失、さらに入院を要するほど重症(自力でごはんが食べられないなど)で、かつ既存の細菌・原虫・ウイルス(パルボウイルスなど)の感染が否定された場合には、SFTSが疑われます。マダニにくわれたとか、山野で遊んだ、西日本へ旅行に連れて行ったなど、診断の助けになるような情報を、獣医師に伝えることが重要です。

マダニの生態について知っておこう

そもそもマダニとはどんな生物なのでしょう。マダニは8本脚からなる節足動物で、昆虫ではなくクモやサソリに近い生き物です(昆虫は6本脚)。家庭内の布団などにいる微細なヒョウヒダニとはまったく種類が違います。ガーデニングのとき植物につくハダニ類とも異なります。

マダニ大小いろいろ_572×330フタトゲチマダニの成長による姿・サイズの違い

マダニは、原則は山野に棲んでいて、シカやイノシシといった野生動物に寄生し、吸血する生物です。私のように、子どもの頃から猟犬タイプの犬と暮らし、キャンプもよく行き、野山で獣道を歩くような遊び方をいつもしていると、マダニはわりと身近な存在。なので、マダニそのものに対する恐怖心はありません。野山にいるのが当たり前の生物だからです。でも、都市部で生活している飼い主さんは、マダニを見たことがない人も多いようです。そのためよけいにマダニに対する不安(と偏見)が高まっている気がします。

しかし日本でSFTSの死亡例が発表されてからは、私もマダニ対策を強化することにしました。今まではイヌも私も、マダニにくわれた(皮膚を刺咬し、吸血された)としても、それを取り除けばいいだけでした。補足ですがマダニは吸血時に、蚊のように痒くなる物質を注入しないので、痛くも痒くないことが多いです。だから背中などにくっついていても、全然気がつかず、「こんなところにホクロがあったかな?」と思ったらマダニだった、ということもあります(うちの娘が1歳半だったときの実話。でもほかの大人の友人からも似たような話はよく聞きます)。犬もマダニがついていても掻いたりしないので、見過ごしやすいです。

madani03_img02_400×230被毛上で咬みつくマダニ

マダニは、ヒトや動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から長いものは10日間以上)吸血します。最初は数ミリの極小サイズのダニが、ぐんぐん血を吸い込み、大豆くらい大きくパンパンに丸く太ったところで、自らポロンと地面に落ちます。そして産卵(2000〜3000個も産むそうな!)して、その生涯を終えるとのこと。

P5_マダニ_飽血した成ダニ_572飽血したメスマダニ

SFTSの発症例は5〜8月が多いのですが、昨年(2016年)は10月まで多く報告されたので、秋になっても油断してはいけません。さらに言うと、マダニが媒介する病気で、最近日本でも発症例があるものは、SFTS以外にもあります。ダニ媒介脳炎ウイルス、ツツガムシ病、日本紅斑熱、ライム病です。意外に多いので驚きます。ついでですが、同じく吸血する蚊からはSFTSウィルスは見つかっていないので、それは安心して大丈夫です。

 

なぜSFTS、マダニの脅威が増してきたのか

マダニも野生動物の1種であり、生態系の一員です。でも我々としては、吸血されるだけならまだしも、SFTSで死亡する危険があり、かつ有効な抗ウイルス薬など特異的な治療法がないのが問題。予防ワクチンもありません。それが怖いところです。

とはいうものの、今なぜこんなにSFTSが話題になるのでしょうか。それはマダニの生息域が、山野だけにとどまらず、近年都市部や住宅地、公園などでも見られるようになり、身近な脅威となっているからだと推察できます。

マダニ_1とっても野趣溢れる里山のように見えますが…ここは東京都渋谷区、代々木公園です!タヌキの目撃情報も多い。タヌキがいるってことはマダニがいる可能性は高いね
572image001 (5)都会の代々木公園でも、草ボーボーのところはとくにマダニがいそうな予感

たとえば農作業や草刈りするヒトや、人間のそばで暮らす野良猫や家の外へ自由にでかける飼い猫にもマダニがつきやすくなり、SFTSをヒトに感染させる可能性が増えています(反対に、マダニの知識のないまま、キャンプや登山などのアウトドア・ブームで山野に入るヒトが増えていることも心配です)。

それでは、どうしてマダニが山から下りてきたのかというと、昨今シカ、イノシシ、アライグマ、ニホンザルなどの野生動物が、人間の住む近くまでやってくることと関係していると思われます。マダニが野生動物に寄生したまま、人里にやってきて、そこでどんどん産卵すれば生息域は拡大します。先日、私は渋谷区でも夜のイヌの散歩のとき、住宅街のアスファルトの道路を走るハクビシンを見ました。野生動物の棲むところ、マダニがいてもおかしくはありません。

ハクビシン_572ハクビシン。私は先日、東京都渋谷区でも遭遇。意外なほどそばに野生動物はいます。

野生動物が近づいてきたのは、人間が山野を開発したり、林業・農業の後継者不足で裏山などの管理ができず放置されたりして、野生動物の生息地との間にバッファーゾーン(人と野生生物とを隔てる緩衝地帯)が消失したことが大きな原因のひとつでしょう。そのため異常気象などにより山の食物が減ると畑の農作物やキャンプ場の生ゴミを食べに来たり、あるいは餌付けされたり、かたや捕食者がいなくなったためにシカなどは数が増大して生息域を拡大しているなどが想定されます。

 

体液、排泄物には要注意

ともあれSFTSという病気が見つかった以上、どう対策をとるかが大切です。野良猫がヒトにSFTSを感染させた可能性があるからといって、地域猫や野良猫を有害鳥獣として排除しようとか、飼い猫・飼い犬は危ないから捨てた方がいい、などという考えは短絡的であり、賢明ではありません。またシカやイノシシなどを徹底的に殺せばいい、というのも人間本位すぎます。マダニ、シカ、イノシシなどの野生動物とどう共存していくかを考えることが非常に重要。正しい知識を持ち、冷静に対応することが人間にはできるはずです。P44239da55b73c38a651377eb20e4678c_sニホンシカ。衰弱しているような個体に近寄るのは避けた方が賢明。

まずは、動物からうつるとした場合の感染源に気をつけること。発症したネコでは血液、便からウイルスが検出されています。つまりは唾液、血液、体液、排泄物にはSFTSウイルスが含まれていると考え、それを避けるようにします。つまり咬まれたり、舐められたりはNG。なので野良猫や地域猫など、自分が飼っていない屋外にいる動物には注意が必要で、とくに衰弱している動物はSFTSを発症しているから弱っているのかもしれないので不用意に触らないように。同じく野生動物に触ることもよくないです。公園のシカも同様。ただ、飛沫感染や空気感染の報告がないのは幸いです。

 

外を歩くイヌネコにはダニの駆除剤を

野生動物のいる山野では、マダニがいるのが当たり前ですが、それだけでなく田んぼのあぜ道、住宅地の緑地、公園の草むら、民家の裏山や庭などにも、今ではマダニがいる可能性が高いです。マダニ対策をしましょう。

イヌやネコの場合は、ダニの駆除剤等の投与をするのがよいです。イヌの場合、マダニが怖いからといって自然の中を散歩させない、というのはアニマル・ウェルフェアの観点からいって動物虐待のひとつになりますから、お散歩は毎日行きます。ダニの駆除剤はホームセンターなどで買うよりも、ちゃんと医薬品として効果の立証されているものを、動物病院で購入した方が確実です。

そして、もしイヌやネコが元気がない、熱っぽいなど体調不良になったときには、動物病院を受診してください。さらに万が一にも、飼育しているネコやイヌがSFTSと診断され、そのうえ飼い主も発熱、消化器症状などがでたら、すみやかに医療機関を受診します。そのとき自分の飼育動物がSFTSを発症したことを医師に申告してください。

 

マダニから身を守る服装とダニチェックを

アウトドアを楽しむときは、長袖・長ズボンが必須です。ズボンの裾は、靴下や長靴の中に入れます。靴は、足首も完全に覆うもの(私は長靴を愛用)。サンダルはNG。帽子、手袋、首にタオルを巻くなど、肌の露出を極力減らします。服の色は、赤茶や黒っぽいマダニをすぐに発見できるよう、白やクリーム色など薄いものがよいでしょう。また、DEET(ディート)という成分を含む虫除け剤の中には服の上から用いるタイプがあり、忌避効果があると言われています。ただし幼児や子どもに使用できないものもありますので注意事項をよく読んでください。

マダニ_2いつもこんなところで遊んでばかりいるので、自然とマダニ対策は身に着いている。夏でも長袖・長ズボン・長靴。ズボンの裾は長靴の中に入れること。

そしてアウトドアで遊んだあとは、お風呂に入り、裸ん坊になってマダニに刺されていないかよく確認します。ホクロかな、と思ったらマダニのこともあります。もしもマダニがついていたら、皮膚科に行き、医師にとってもらいましょう。無理やりとると、マダニの口器が皮膚に食いついたまま残ったり、マダニをつまんだ圧力で口からマダニの体液(ウィルス入りかもしれない)が逆流して、ヒトの体の中に入ってくる危険があります。

イヌも同様に、外で遊んだあとはダニチェックを。ダニの赤ちゃんは1ミリくらいで、しかも大量につくことがあります。まだ皮膚に食らいついていないときはピンセットで1匹ずつ捕獲する(老眼には厳しい作業!)、あるいはノミをとる目の細かい櫛で取り除くといいです。
madani06_img02_400マダニを取り除くときは口器を皮膚内に残さないように慎重に除去しましょう。

かたや血を吸って大きくなったマダニは、ヒトのときと同じく強引に引っ張ったり、むしり取ろうとしないで、動物病院に行きましょう。またマダニに慣れている人ならば、市販されているダニとり用具を使ってもいいかもしれません。

 

とにかく焦らず、冷静に。「知るワクチン」を広めよう

マダニは、夏場に多い気がしますが、春先〜秋までいます。春は、ダニの赤ちゃんが大量に発生する時期ですし、秋もまたたくさん産卵される時期です。まだまだ気は抜けません。

マダニ_3こんなトレイルを進み、草むらで休憩したら…おうちに帰ったらシャンプーとダニチェック必須!

SFTS関連のニュースが流れるたびに、不安を煽られるかもしれませんが、とにかくマダニ予防とSFTS対策(知らない動物に触らないなど)をとっていれば、感染の危険は減らすことができます。できればネコは、室内飼育にした方が安全。いずれにせよお出かけ前にはダニ駆除剤、帰宅後にはダニチェックをすることで、愛犬・愛猫・飼い主も感染する恐れが減ります。

SFTSの予防ワクチンはまだ開発されていませんが、正しい知識を持つことこそが「知るワクチン」。飼い主は「知るワクチン」でしっかり愛犬・愛猫を守りましょう。

《参考資料》
厚生労働省 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A

国立感染症研究所 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

毎日新聞2017年8月18日「広島市安佐動物公園 チーター死亡 マダニ媒介SFTSか」

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白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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