最近注目されている「ノーズワーク」は、犬の優れた嗅覚を最大限に活かしたトレーニングです。
今年の2月、兵庫県西宮市を本拠地とするスニッファードッグカンパニーの主催(共催:Do One Good、日本レスキュー協会)で、ノーズワークセミナー&ワークショップが、大阪市と東京都で、また犬連れで実際にノーズワークを体験するワークショップが、兵庫県伊丹市と東京都で開催されました。4日間で約350人が参加。トレーナーやレスキュー関係が多かったそうです。
青山の国連連合大学(東京都渋谷区)で開催された犬なし座学セミナーの記念撮影。前列の青いキャップがロクサンヌ先生
ノーズワークとは?
今回のセミナーの人気の理由は、ノーズワーク発祥の地・アメリカの、しかもノーズワークの創始者のひとりであるロクサンヌ・バードリー先生が直接お話しをし、また実際のレクチャーを披露してくれたからでしょう。ロクサンヌ先生は、約20年前からジャーマン・シェパード・レスキュー団体と連携し、問題行動を抱えていたシェパードをよい家庭犬になるよう導き、新しい飼い主さんを見つけることに成功してきました。
スニッファードッグカンパニー代表の細野直美さんとロクサンヌ・バードリー先生。プライベートで京都・嵐山で湯豆腐をご堪能
その彼女は「犬の人生すべてに自信をつけさせていく。それがノーズワークのゴール」と言います。トレーニングであり、ドッグ・スポーツとしても楽しめ、飼い主との絆を深めることができ、それ以前に犬自身の本能にスイッチを入れてワクワクさせることができる…とにかくノーズワークは、犬にとってものすごく楽しく、効果があるのは間違いないです。
●Confidence:犬に自信をつけさせることができる。
●Focus:集中力を養う。
●Drive:本能からでてくる意欲、欲求を高められる。
この4つを構築することができるそうです。いいこと尽くめではありませんか!
嗅覚を使うことは、犬にとってこの上なく楽しく刺激的
犬が嗅覚に優れた動物であることは誰もが知っていると思いますが、「鼻を使う」ことは、犬にとって本能からくる悦びを満たすこと。そして狩猟本能を呼び起こして集中力を発揮し、狩りが成功(いいニオイのものを発見!)することによって自信がつき、さらに自らの力(鼻の力)で報酬を得る(=おやつを食べる)ことが自立心や独立心を養うことになるのではないか。そう私は理解しました。
しかし頭では理解できるものの、犬にとって、それほど鼻を使うって嬉しいことなのか、効果的なことなのか!?最初はちょっと半信半疑でロクサンヌ先生の講義を聞いていました。が、先生のお話が進むうちにそんな疑念は払拭されていきました。
犬にとって嗅覚を使う狩猟を模した遊びは、この上なく刺激的でワクワクするものであり、集中力が必要なことで、狩りが成功することは犬のおなかを満たす以上に、心や脳を満たしてくれるものであることがわかりました。
大昔からDNAの中に流れる狩猟本能は、すべての犬がいまも変わらず強く持っています。でも現代社会のペットたちは、その能力を発揮する場をほとんど与えられていません。宝の持ち腐れであり、ストレスが溜まることです。
犬としての自然な欲求を封じており、アニマルウェルフェアに反することなのかもしれない。でもノーズワークをさせることによって、自然な欲求を満たすことになるのでは!知れば知るほど、単なるトレーニングとは違う犬にとって心を満たすゲームであるとわかってきます。
すべての犬、すべての人ができるトレーニング
そもそもノーズワークは、アメリカの保護犬シェルターで始まったトレーニング。保護犬は、臆病だったり、虐待を受けた経験からおどおどして自信がなかったり、人間が怖かったりすることがありますが、彼らに自信と自立心を取り戻させるためにノーズワークが始まったそうです。
ノーズワークのすごい点はここにあります。自信を取り戻し、ふたたび人間を信じることができるようになれば、もう一度人間と暮らせる犬になります。つまり譲渡しやすい犬になる。ノーズワークは、心のリハビリにも効くということなんですね。
保護犬ではなくても、日本にはシャイで臆病な犬はたくさんいます。もしそんな犬たちにも自信や留守番ができる自立心をつけさせることができたら、犬にとっても飼い主にとってもwin-winではないでしょうか。つまり保護犬だろうがどこの出身だろうが、多くの犬にとって有益なトレーニングだといえると思います。
さらにノーズワークが素晴らしいのは、すべての犬ができること。3本足の犬でも、目の見えない犬でも、老犬でもできるのです。犬の大きさや運動能力も関係ありません。
また1頭ずつ行いますから、他犬と折り合いの悪い犬でも問題なく参加できます。そしてノーズワークを継続していくうちに犬に自信がつき、社会化が身につき、ほかの犬を見ても平常心でいられるようになるかもしれません。
しかもノーズワークは、ハンドラーである人間(飼い主)も、すべての人が参加できます。犬が自主的に自分の鼻を使って探し出すゲームですから、アジリティーのように飼い主も犬と一緒に走ったりする必要がなく、アメリカでは車椅子に乗っているハンドラーや94歳のおばあちゃん、8歳の子どもも参加しているそうです。犬にも人にも、なんてバリアフリーなゲームなのでしょう。
そしてアメリカではいまや爆発的に人気が高まり、K-9ノーズワーク協会の犬の登録数は15,000頭にのぼっているそうです。2009年に初めての競技会が開かれましたが、昨年2016年には368もの競技会が行われるほどの盛況ぶりで、しかもすべての競技会で100頭以上がウェイティングリストに載るほどだそう。さらには海を渡り、スウェーデンでもノーズワーク愛好者が急増しているなど、世界中にファンを増やしています。
目的に応じて、2段階のステージ
ちなみにノーズワークには、大きく2段階のステージがあります。ひとつめは「フードステージ」。特別に美味しいお気に入りのフードを犬にそのまま探させるステージです。
そしてふたつめは、フードステージを十分できるようになってからステップアップする「臭気ステージ」。食べ物の代わりにアロマオイルのにおいを探させ、見つけるまでの時間を競う競技会のステージです。
「臭気ステージ」はほかの犬と比べて競うわけですから、ドッグ・スポーツ的な要素が強くなります。ロクサンヌ先生は、「フードステージは犬のためにあり、臭気ステージは人(飼い主)のためにある」と言います。トレーニングやドッグ・スポーツが好きな人は、臭気ステージにレベルアップしていくことは大きな目標となるでしょう。
でも、ほかの犬と競わなくていい、自分の犬が楽しんでくれて、自信や自立心をつけてもらうのがいちばんの目的だというのなら、フードステージのままでもいいのです。そのためどちらもノーズワーク(鼻を使った仕事)であることには変わりないのですが、臭気ステージの競技会参加レベルを「ノーズワーク」と呼び、クンクンとおやつを自主的に探して食べるフードステージのことをノーズワークとは区別して「フードサーチ」と呼ばれることもあります。
「臭気ステージ」では犬はアロマオイルのにおいを見つけたとき、オスワリしたり、フリーズして飼い主に「見つけたよ」と知らせ、そこで飼い主からごほうびをもらうので、飼い主との共同作業という意味合いが増します。トレーニングの達成感があり、かつ互いの絆を深める喜びもあるでしょう。
かたや「フードステージ(フードサーチ)」では、犬が自ら自由に嗅覚を使い、いいニオイを探して、おやつを見つけて、すぐさまバクバクと食べますから、ハンドラーはゲーム中はまったく介入しません。やることと言ったら、最初にリードを放すときと、終わったときにリードをつなぐことだけ(笑)。ちょっと物足りないと感じるかもしれませんが、それが犬の自立心や独立心を育むポイントらしいです。
もしそんなに効果があるなら(保護犬でもないくせに)心が軟弱(よく言うと繊細、悪く言うとビビり)なうちのクーパーにも自信をつけさせてあげたい!今回のセミナーに参加して実感しました。そこで後編は、愛犬を同伴しての<体験編>へ。
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