犬にとって望ましい食事とは? いろんな情報に振り回される飼い主さんの悩みと疑問にお答えします

愛犬の健康に直結するだけに、飼い主さんの関心が高い「食事」。手作り食、生食、プレミアムフードなど、いろんな情報が飛び交い、どんな食事がいいのか、頭を悩ませている飼い主さんも多いようです。そこで、愛犬の食事について、よくある悩みと疑問について2回にわたってお答えしていきます。今回は、犬にとって望ましい食事について考えてみましょう。

 

Q.フードより、手作り食のほうが体にいいのですか?

●一長一短、どちらも食べられるのが望ましい
どちらにも一長一短があり、一概にどちらがいいとは言えません。私自身は中立派です。例えば、これはシュナウザーの例ですが、テリア系の特徴として元々コレステロール値が高くなるという異常体質があるんです。それが、フードをやめて手作り食にしたらコレステロール値が正常になったという喜ばしい話があります。

その一方で、手作り食にしたら、すごく痩せてきた、毛ぶきが悪くなった、不健康そうに見える等、逆の話もある。よほどしっかり動物の栄養学を勉強していないと、手作り食100%で彼らの健康維持をするのは難しいと思います。

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また、大病をしたときなどは、その子の病気に特化した手作り食を毎日自分で作るのは不可能なので、療法食がすごく助かります。ですから、フードも手作り食もどちらでも食べられるようにしておくといいですね。

私は、手作り食かフードかと相談されたときは、両方使ってみたらとお答えしています。混ぜて与えてもいいし、曜日によって変えてもいいでしょう。

 

Q.手作り食を与えていたら、痩せてしまったのですが…

●痩せたのか、体が引き締まったのかを見極めて
手作り食にすると体がキュッと引き締まる傾向があるので、本当に痩せてしまったのか、それとも体が引き締まっただけなのかを見てください。カロリー不足だと、毛ぶきが悪くなったり顔つきが悪くなったり、外から見ても不健康そうになります。その場合には、食事量や栄養バランスを見直す必要があります。

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●お肉中心、野菜と穀物は少しが理想
私が気になるのは、手作り食を実践している飼い主さんのブログを見ていると、ほぼ野菜で、穀物も多く、お肉が少しという構成。ニンジンなどの根菜類もゴロゴロとキューブ状に切られています。その方が飼い主さんも作っていて楽しいし、ブログに載せても見栄えがいいからでしょうね。

でも、犬は雑食ですが草食ではないので、野菜を消化できる能力は牛や馬ほどありません。本来なら、見た目は悪くても野菜は全部ミキサーにかけてあげたほうがいい。今は、グレインフリーといって、穀物フリーのフードが増えているぐらいなので、犬の食性から考えれば、お肉中心、野菜や穀物は少しが望ましいです。コスト的には高くついてしまいますが。

 

Q.犬にとって理想の食事は「生食」ですか?

●犬はもはや雑食、無理してこだわる必要はない
私は、生食はそれほど積極的にはおすすめしていません。というのは、生食に切り替えるとおなかを壊すコが多いんです。それを繰り返して、ようやく慣れて食べられるようになるのですが、そこに行くまでに諦めてしまったり、またお出かけのときに持っていけない不便さからやめてしまう方もいます。

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生食を与えているのは、ワンちゃんをショーに出している方などが多いようです。明確な目的があって自分で頑張れるならいいのですが、必ずしも生でなければいけない理由はありません。確かに、オオカミのような野生動物は獲物を捕えて、生の肉と草食動物のおなかに入った消化された草を食べていますが、犬はもう飼い慣らされて雑食になった動物ですから、そこまで生にこだわる必要はないと思います。

 

Q.お肉の多い食事にしたら、攻撃性が増した気がするのですが…

●タンパク質が多いと攻撃的になりやすい
フードでも、タンパク質の含有量が多いと攻撃的になりやすく、少ないと攻撃性が抑制されやすいというのは事実です。成長期でもなくスポーツドッグでもない、普通に暮らしている犬で攻撃性が強いコは、低タンパクのフードに切り替えてみるのも一つの方法です。実際、研究もされていますし、いろんな方が実践しています。

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Q.フード選びのポイントを教えてください。</h2 >

●宣伝文句や価格にだまされないように
「プレミアム」を謳っているフードには、オーガニックなど魅力的な宣伝文句が並ぶものが多く、当然、価格も高いです。ところが、実際、中身を調べてみると、なかにはエネルギーレベルが非常に低いものもあり、価格と品質は必ずしも正比例していません。宣伝文句や価格に安易にだまされないようにしてください。

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私個人は、自社に研究機関を設け、犬なら犬、猫なら猫のフードに対して長年研究をしているメーカーのものが安心かな、と思っています。フードは必ずしも高ければいいというものでもないし、体質に合う・合わないの個体差も大きいので、万人向けのアドバイスは難しいですね。

 

Q.同じ銘柄のフードばかり与えないほうがいいのですか?

●賛否両論です
災害時や病気になったときに、一つの銘柄のフードしか食べられないと困るので、いろいろ食べられるようにして選択肢を増やしておいたほうがいいという意見ですね。また、主タンパクが一緒だと食物アレルギーを発症しやすいから、タンパク源の異なるフードを食べさせたほうがいいという考え方もあります。

一方で、銘柄の切り替えでおなかを壊すコも結構いますし、切り替えの刺激でアレルギーになることもある。賛否両論だと思います。私は、どちらかと言うと、あまりスイッチはしないほうです。

 

Q.多頭飼育ですが、1頭が食事を横取りするので困っています。

●一緒に食べさせる必要はなし、食事は別々の場所で!
飼い主さんはなぜか仲良く並んで食事をさせたがるのですが、一緒に食べさせる必要はまったくありません。食への執着の強い犬同士なら、食事の度にケンカになりかねませんし、食にあまり執着のない優しいコなら、食事を譲ってしまって、カロリー不足になることも。もし1頭が療法食の場合には、とくに自分の食事をきちんと食べてもらわないと困りますよね。

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こんな場合は、仲良く食事ができるように訓練する必要はなく、別の部屋やクレートの中で食べさせればいいんです。食べるスピードも、食に対する執着も違いますから、それぞれ自分のペースで食べられる環境を作ってあげましょう。

多頭飼育が犬と猫の場合は、より注意が必要です。犬と猫のフードでは栄養価がまったく違うので、必ず分けないといけません。犬は水平にしか動けませんが、猫は垂直への動きが得意ですから、犬は床、猫は上のほうで食べさせるのもいい方法だと思います。

次回は、食事に関わる問題行動と対策について取り上げます。

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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