トレーニングは子犬のしつけだけでなく、一生続けたい愛犬とのコミュニケーション

犬のトレーニングといえば、つい子犬のときのしつけと思いがちですが、実はそれだけではありません。トレーニングはお散歩や遊びと同様、犬との大切なコミュニケーションの時間。お互いの理解を深めていくために、生涯続けていきたい絆づくりなのです。

 

犬に人社会のマナーを身につけてもらう

なぜしつけをするかというと、犬と人間は違う動物です。それが一緒に生活していくのですから、人社会のマナーを身につけてもらわないと、お互いに暮らしにくくなってしまいます。しつけをしていない犬がどんな存在かといえば、いわば “犬らしい”犬。

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元々噛む動物ですから面白いものがあれば引きちぎる、おいしいものがあれば盗む、トイレは好きなところでする。それが人間の目からみると問題行動になるわけです。ですから、遊び噛みはオモチャだけ、人を咬んだり服を噛んだりしてはだめ、トイレは好き勝手にしてはいけない、などと教えていく必要があります。それが「しつけ」です。

 

しつけは、犬とのコミュニケーションの時間

しつけ教室も、例えば4回なら4回のクラスが終わったら、それで完了と思う人が多いのですが、トレーニングはお散歩や遊ぶことと同じで、コミュニケーションの時間。一緒に暮らしているのだから、コミュニケーションはずっと続けていきたいし、共通言語を教える時間でもあります

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パピークラスが終了して、一応、子犬特有の悪さはしなくなり、修正方法もわかった。ホッとする気持ちはわかりますが、月齢でいえばまだ4〜5ヵ月、そこから飼い主さんが毎日どう接するかによって、良くも悪くもどんどん変わっていきます。

基本的なしつけは1歳までに仕上げてほしいですが、犬が精神的に大人になるのは、だいたい3歳頃。飼い主さんには、それまでは頑張って向き合ってほしいとお伝えしています。逆に3歳まで向き合ったらしつけトレーニングが習慣になるので、日常の中に苦じゃなく取り入れられる。例えば私たちが毎朝歯を磨いたり髪をとかしたりするのが、苦じゃなく生活の一部であるように、犬のトレーニングも年単位で行えば、それと同じ感覚に変わっていきます。

 

楽しくなければ続かない

トレーニングを継続するには、いかに楽しくするかも大切な要素です。仕事仲間のある男性トレーナーはたいへん生真面目な人で、ある時、飼い主さんから面と向かって「先生の訓練はつまらない」と言われたそうです。それでは継続につながりません。

宿題を出しすぎたり、前回やったのになぜできないの?と叱ったりするばかりでは、犬も飼い主さんも面白くなくなってしまいます。教える側にも工夫が必要だと思います。

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私は、最初に基礎コマンドはしっかり教えますが、途中からはゲーム感覚のトリックを取り入れたり、飼い主さんのお手伝いになるようなことを教えたりして、楽しみながら取り組んでもらえるようにしています

 

トレーニングは、一生続く愛犬との絆づくり

●どんどん能力が開花する

うちの教室で一番長いコは、パピーから8年、今もレッスンに通っているチワワです。当初、オモチャに全然興味がなく、物をくわえることができませんでした。トレーニングで物欲を引き出し、今は8個ぐらいのオモチャの名前を認識して、言った名前のものを持ってくることができます。

飼い主さんは、一人暮らしで“犬と一緒に何かをする”時間がとても楽しいという方。パピークラスから始まり、どんどん能力を開花させて、一時期はK9ゲーム、今もドッグヨガをやっています。

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性格も穏やかで、このコと出会って、社会性が比較的低いと思っていたチワワの印象が変わりました。

 

●何歳からでも効果がある

トレーニングは何歳になってもできます。2歳ぐらいまで他の訓練士についていたけれど、何一つ身につけることができず、私のところに紹介されてきたゴールデン。本当に何もできなくて、フセもできなければ、脚側歩行(飼い主の横について歩くこと)もできず、物欲がなくてオモチャにも無関心でした。

それが、レッスンに通ったらいろんなことができるようになり、今では毎朝お父さんに新聞を届けるお手伝いをしています。

 

●問題行動の改善にも

噛むコをトレーニングで改善していくこともできます。首輪をするときに噛む、足を拭けない、いらだつと歯をあてることがあるという柴犬。

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どこから接点をつけようかと考えたときに、そのコはテニスボールが大好きで、持って来ることも、上手に「ちょうだい」をすることもできた。そこを接点にして、飼い主さんの言うことを聞けるように広げていきました。

そういう遊びの共通点が1つあるだけで、他に修正をかけたいときにそれを使って関係性を良くしていくことができるのです。

 

●共通言語が増えるほど、絆は深まっていく

かつて、「服従訓練」という言葉が使われていたときは、犬にオスワリやフセを教えるのは、犬がボスになって問題行動を起こさないように服従性を維持するためだと言われていました。しかし、そうではなく、トレーニングは犬とのコミュニケーションの時間、絆を深める時間なのです。

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基礎コマンドがきちんと入っていれば、そこから会話の世界をどんどん広げていくことができます。教える気になれば犬は300単語ぐらい平気で覚えます。共通言語が増えるほど、意思疎通がラクになるし、絆もより深まっていく。トレーニングを通じて、生涯、愛犬とのコミュニケーションを楽しんでいただきたいですね。
 

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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