犬と習字?
一見、普通に習字をしているように見えますが、実はこの筆、子どもたちの手作りです。持ち手の木は公園から拾ってきたもので、毛筆の部分は、犬の毛で作りました。ブラッシングをして抜けた毛を集めて作ったので、エコな筆といえるでしょう。一般的には、筆の毛は動物の毛で作られており、羊、馬、ウサギ、タヌキ、鹿、イタチ、ジャコウネコ、猫、リスなどが使われているようです。
今回の筆作りは、筆作りの動画を見てから、子どもたちに犬の毛で作る方法を考えてもらいました。こちらで準備したものは、木、犬、スリッカー、紐、ボンドのみです。子ども同士で考えて、筆を作っていきます。どうしたら、筆になるか、試行錯誤しながら取り組みます。この作業を通して、「考える力」を身に着けます。犬の毛は、アメリカンコッカ―スパニエル2頭の毛をいただきました。バフ(白っぽい毛色の方)とチョコタン(黒っぽい毛色の方)の2色の筆が出来上がりました。他の犬の毛だとまた違った筆になるのかもしれませんね。
どんな書き心地?
犬の毛筆は、墨が毛になじみやすく、洗った際には、水がすぐにはじいて、乾きやすいという良い点がありました。犬の毛は脂っぽいので乾きやすいのかもしれませんね。子どもたちに書きやすさについて聞いてみたら、「う~~ん」という詰まる回答が(笑)。いつも使う筆と比べたらイマイチだったのかもしれません。今回は、1犬種のみでの実施でしたが、他の犬種の毛を用いるとまた書き心地も違うのかもしれません。
子どもの成長に役立つ犬たち
動物を飼育したり触れあったりすることで、子どもの心の成長によい影響を与えてくれることはたくさん報告されています(Melsonら, 1991;Bryant, 1985 ; Poresky, 1990)。今回のように、ブラッシングをした毛の使用というかかわりの中でも、子どもたちの学びにつながることがあります。生きている動物がその場に参加しなくても、動物介在教育やヒューメイン・エデュケーションは成立します。もちろん、目的として、触れ合うことを設定するのであれば動物が必要になりますが、目的に応じて、動物の毛や写真等を導入し、そこから考える教育でも子どもの成長に役立ってくれます。
動物たちは子どもたちが考えたり、気遣ったりするきっかけとなり、そこから思いやる気持ちが芽生えていくのだと思います。動物をきっかけとして、学び考えることができる教育、これがヒューメイン・エデュケーションといえるでしょう。身近な犬について学ぶことは、地球上に住む動物について考えるきっかけにもなることでしょう。
今回の筆づくりでは、筆は何からつくられるのかというところから、色々な動物を知る機会になりました。身近な犬を考え、大切にすること、ここから、他の人や動物を大切にする心が芽生えれば、小さな芽生えが大きな力に変っていくことでしょう。子どものみならず、大人も同じように一人ひとりが考えることができたら、世の中が少しでも変わるのではないかと期待しています。
<文献>
Bryant, B. K. 1985. “The neighborhood walk: a study of sources of support in middle childhood from the child’s perspective” Monogr. Soc. Res. Child Dev. 50 (serial no.210).
Melson, G. F., Peet, S. & Sparks, C. 1991. “Children’s attachment to their pets: Links to socioemotional development.” Children’s Environments Quarterly. 8: 55-65.
Poresky, R. H. 1990. “The Young Children’s Empathy Measure: reliability, validity and effects of companion animal bonding.” Psychol. Rep. 66: 931-936.
学術博士 鹿野 都
動物介在教育指導者養成講座委員
セラピーアニマル評価者養成講座委員
動物介在教育マスターエデュケーター
麻布大学共同研究員
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