秋の夜長に犬映画(1)『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』


今秋は犬映画が豊作。
泣き、笑い、切なくなる犬映画特集

話題の動物映画となると、とりあえず見に行ってしまう私ですが、今年の秋はいつになく犬映画が目白押し。すでに公開中のもの、封切り前のもの、そしてオマケで懐かしの傑作犬映画DVDを4回に渡りご紹介します!

カンヌ国際映画祭「ある視点」グランプリとパルムドッグ賞をW受賞
『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』

2014年のカンヌで多くの批評家たちを唸らせたセンセーショナルな話題作。ハンガリーとドイツとスウェーデンの合作映画で、撮影地はハンガリー。250頭もの犬がブダペストの市街地を猛然と走るシーンは圧巻です。この鳥肌の立つような映像はCGではなく、本物!

ちなみにこの映画の動物トレーナーであるテレサ・アン・ミラーのお父さんは、ハリウッドを代表する動物トレーナーのカール・ルイス・ミラー。セント・バーナードが主人公の『ベートーベン』(1992)や『ベイブ 都会へ行く』(1998)を手がけた人です。テレサは長く父のアシスタントを務めながら22年ものキャリアを積み、ハリウッドのほか、ヨーロッパでの仕事も多いとのこと。本映画はトレーナーの優れた力量も感じる一作です。

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本作で演技する犬たちはみな、もともと野良犬や保護された犬で、元来彼らは保護されることを望んでいなくて、一緒に仕事をする(撮影する)喜びもなく、苦労が多かったそうです。けれども毎日牧場で走らせ、コミュニケーションをとり、ついにほぼすべての犬が社会に適応できるようになりました。撮影が終わると1頭残らず、すべて飼い主を見つけて、引き取られていったそうです。映画の中では、虐げられる犬たちの逆襲を描いていますが、実際の犬たちはハッピーエンドなので、そこはご安心ください。

ついでに言うと、大人の社会の中で居場所がなく孤独だった主役の少女リリの唯一の心の拠り所だった、素直で賢い愛犬ハーゲン役は、ルークとボディという2頭の犬が演じていますが、この2頭はきょうだい犬だそうです。

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本作は、犬版『猿の惑星』のようにも見えますが、実は単なる人間に対する動物の復讐劇ではありません。犬からしてみれば人間は神のようなもの(犬の命を勝手に自由に殺すことができる)、「犬は神という主人に仕える、つねに社会的に見捨てられている存在の象徴である」とコーネル監督はインタビューで語っています。「この映画はむしろ、ひと握りの階級がその他大勢を支配するという、かつての、そして未来のハンガリーに対する批判です」。深いです。

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この映画に込められたいろいろな想いがスクリーンから迫ってきて、見終わったあとにふらふらしました。劇中、効果的に流れる「ハンガリー狂詩曲」とハーゲンたちの姿があまりに哀しく、切なく、打ちのめされます。

『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』
11月21日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー!
2014©Proton Cinema, Pola Pandora, Chimney
配給:シンカ
映画『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)』公式サイト
eiga

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白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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