『薬膳』って中国の食事? 難しそう~?
人も動物も体を作っているのは “食べたもの”で、食が血となり肉となっています。だからこそ、食に対するさまざまな考え方が取り上げられ、また注目されているのでしょう。そのなかで、当然、イヌたちの食餌内容にも目がいきますよね。手作り食、ローフード*、ドッグフードのみ、トッピング派など、愛犬の食餌にも、飼い主さんの食に対する考え方が反映されているようです。
*ローフード:加工されていない生の食材を用いた食品、あるいは食材を極力生で摂取する食生活のこと。
そこで、今回は、『薬膳』の考え方を取り上げます。食材選びに、栄養素だけではなく、体にどう作用するかという中国伝統の考え方を取り入れてみると、そこには奥深い理にかなった納得の数々があったのです。ここではちょっとだけご紹介していきましょう。
お話を伺ったのは、以前Tタッチを取材させていただいた油木真砂子先生。何と、今も国立北京中医薬大学日本校に通い、中医薬膳指導員の資格をお持ちです^^;
日本中医食養学会認定 中医薬膳指導員
油木真砂子 先生
人と生活する動物、動物と生活する人がよりハッピーになるお手伝いをしたいとの思いが強く、犬の学習理論に基づく家庭犬のしつけ方法、ホリスティックケアを学ぶ。2011年7月日本人初のTタッチプラクティショナー2として認定される。プライベートレッスンを大切にしながら各地でワークショップを開催。獣医鍼灸師の助言により犬の食餌の重要さに気付き、薬膳を独学で学び始め、2014年日本中医食養学会主催(国立北京中医薬大学日本校協力)の第五回薬膳初級講座を修了。
『薬膳』を一言でいうと、“すべての食材には効能がある”ということで、何も特別な食材を用意することではないのです。普段の食材、季節の食材で、いつものスーパーなどで手に入るものでかまいません。そのときどきの健康状態に合わせて、食材の意味を考えながらを選んでいくと、体全体の“流れ”がよくなり、必然的に元気へと導いていく“未病先防”となるわけです。
*未病:病気と言うほどではないけれど、病気に向かいつつある状態のこと。「未病先防」は、病気に確定してしまわないように未然に防ぐこと。
『薬膳』の基本の考え方
薬膳には専門用語がたくさん出てくるので面倒くさそう、と思うこともありますが、そこで説明されていることは漢字なので意味はなんとなく分かると思います。
「薬膳は中国でも約2000年前から文献に記されていた考え方で、古代中国の一つの世界観である『陰陽五行説』が根底にあります。生薬にしても食材にしても食性・食味・食効というものがあり、ピンポイントではなく《体全体のバランスをとる》ことをとても大切にしているんです。
食材には、温性・熱性・寒性・涼性・平性といった五つの食性があって、その食材が体にどう作用していくかを表します。大別すると食材には、
・体を温める(温・熱)
・体を冷やす(寒・涼)
・温めも冷やしもしない(平)
があり、この三つがとても重要になるので、まずはそこを理解していくのがいいでしょう」と、ご自身の愛犬(ルナ/14歳 ♀ MIX)の体調不良を薬膳で回復させた経験を持つ油木先生。
薬膳の効果を実感し、2015年3月よりセミナーを開催。薬膳を基礎から教わることができます。
「なんとなく元気がないな、オシッコの色が違うな、といった日常の体調の変化に気付き、未病の状態を正常に持っていく食材を選んであげる“愛情”が薬膳なんだと思います。ただしアレルギーがあるコや、イヌに食べさせてはいけない食材には注意してくださいね」。
今のイヌたちは“熱く”なってる?!
油木先生が今懸念しているのは、多くのイヌたちの体が熱くなっているということ。熱が出るということではなく、「気*」が上がり体全体が“熱がこもっている”状態だといいます。それはどこで分かるのか?
「チェックポイントとしては、お腹などの皮膚の色、耳の中の色、口の中、排泄物です。皮膚の色は通常肌色で、ピンクになっていれば、熱がこもっているということ。特に白い毛色のコは分かりやすいですね。オシッコが通常の色より濃かったり、においが強かったり、ウンチのにおいが強かったり、コロコロ乾燥しているなども熱がこもっている状態です」。
つまり、体に熱がこもっている→未病の状態(例えば、血がドロドロ)→放置すれば何らかの体調不良になる、わけです。
*気:体を構成する最も基本的なエネルギー。すなわち、機能を発現させるもとが「気」で、体のあらゆるところに分布して、生命活動や生理機能を推進する。
皮膚の色が、肌色というより少しピンクがかっています。
「例えば、鶏肉ベースのドライフードだけ食べ続けていると体はずっと熱いまま。鶏肉は“温める”食材だからです。ドライフードのみだとしても、季節に応じて主タンパクをローテーションしていくことが大事。逆に、最近は馬肉(“冷やす”食材)を与える方も多いですが、馬肉だけでも今度は冷やしてしまうことに。夏場だけに使うのがいいでしょう」。
食材の影響だけではなく、落ち着きがなかったり、興奮しやすく敏感なコや、怒りっぽいコなど、性質や環境によっても“熱がこもっている”状態になるようです。
夏を乗り切る食材とは?
基本的に、体を温めるのは寒い冬が旬の食材、体を冷やすのは暑い夏が旬の食材。「旬のものを食べると体にいい」といわれるのはそのためです。
夏に出回る食材とは暑さに対してうまくできたもので、きゅうり、トマト、すいか、メロン、ズッキーニ、セロリ等は、「冷やす」効果や「利尿」の効果があります。
【きゅうり、トマト】
解毒、利尿、体に潤いを与える作用があり、身近な食材の中でも使いやすいものです。
【セロリ、苦瓜、冬瓜】
体の熱を冷まし、体内に溜まった余分な水分を出す効果があります。
また、米麹で作る甘酒も夏のもので、「脾*」を温めるので下痢などに効果的。
*ここでいう脾とは五臓、つまり肝、心、脾、肺、腎の五つの生理機能を象徴するもの。
板こうじは、スーパーで手に入り、お粥と混ぜれば自宅で甘酒を作ることができます。
そして、暑い夏、ついやってしまいがちなのが、冷房の効いた室内でも、氷やアイスをあげてしまうこと。我が家でもときどき、やってました~。しかし、薬膳の考え方では、それはできるだけしてはいけないことだったんです!
「暑いからといって頻繁に氷やアイスをあげるのは、逆に“脾”の働きを弱めて夏ヤセにつながってしまいます。あるいは胃に冷えたものが入ると体は冷えたところを温めようとそこにエネルギーが集中しますから、逆に体が熱くなってしまうことも。あげるならば、アウトドアで遊び体が熱くなったときなど、外気温が高くて体を冷やす必要があるときですね」。
薬膳ごはん、くだしゃいっ!!
薬膳だからといっても何事もほどほどが大切で、利尿効果や冷やす効果のある食材の与えすぎによる、“水分の出し過ぎ” “冷やし過ぎ” にはご注意を。愛犬の状態をチェックしながらあげましょうね。
選んだ食材を細かく刻んで普段のドライフードにトッピングすれば、手軽に「薬膳」を取り入れられます!
次回は我が家での体験談を交えて、もう少し具体的なお話を(^^)/
初めてでもわかりやすく、食材の性質・効能はじめ専門用語の解説がまとめられています。
現代の食卓に生かす「食物性味表」―薬膳ハンドブック