犬の”怖がり”(ビビり犬)は克服できる?原因と対処法を行動学専門獣医師が解説

他の犬や人が近づいてきたら、おびえる、吠える、かみつく。愛犬が怖がりだと、犬も飼い主さんも、せっかくのお散歩やお出かけが楽しめませんよね。犬の“怖がり”は、トレーニングで克服できるのか?今回はその原因と対処法について考えてみましょう。

犬の怖がりの原因とは?

●犬種特異性
犬種的には、例えばチワワなどは社会性の乏しい子が多く、猫に近い印象です。チワワがパピークラスに来ると、初回は慣れない環境や初めてのメンバーで、多くの子がケージから出てこられなかったり、飼い主さんの足元に張り付いていたり、その場をまったく歩けなかったりするのが普通です。ほかの犬は時間内にうちとけてコミュニケーションがとれたり、ほかの人に興味をもったりしますが、チワワは全般に臆病です。

じっと見つめる白黒チワワ

●社会化不足
日本では、子犬はワクチンが終わるまで外に出さないようにと言われることが多いので、外出できるようになるのは生後4ヵ月。すでに社会化期*も後半で、新しいものを見ても「何だろう?」という好奇心より、危ないか危なくないかという警戒心のほうが強まる時期です。

*社会化:犬が人間社会で暮らしていく上で遭遇する人や他の犬、物や出来事に馴らすこと。3~12週齢ぐらいを社会化期と呼び、さまざまな物・事に馴れやすい時期とされる。

だから、私のパピークラスは生後2ヵ月から入ってもらっています。この時期、同じ月齢の子と安全なコミュニケーションをさせれば、社会性を築くいい機会になります。しかし、みんながみんな参加するわけではないので、社会化不足の子は、いざ外に出ると、怖くてうずくまったり、歩けない。だんだん歩けるようになると、今度は歩いている犬や人にリアクションを始めて、恐怖から吠える、かむという行動が出てくるわけです。

芝生でじゃれる3頭の子犬

●持って生まれた気質
怖がりは、持って生まれた気質であることも。同腹の子でも性格が全然違って、臆病な子もそうでない子もいます。また飼い主さんが神経質で、何かをやらせるときに「危ないからやめなさい」とくり返していると、その緊張感が犬に伝わり、犬もピリピリして憶病になることもあります。

台の上に揃って座る3頭のダックスフンドの子犬

犬の怖がりはどのように克服していくのか?

●社会性の乏しい犬種の場合
パピークラスに来たチワワを、いきなりほかの犬の群れに放しても、固まるか逃げるかで、いい経験はできません。まずその子は飼い主さんに預けておいて、ほかの子を遊ばせている間に、その中から穏やかな子、追いかけない子だけを選んで、チワワと空間をシェアさせる方法をとっています。

人の足元で立ち上がって撫でられるチワワ
固まっているチワワは、飼い主さんの力を借りて緊張を解いてあげます。声をかけ、おやつをあげて、ポジティブにしてから、大丈夫な子と空間をシェアさせます。少しずつできるようになったら、さらにもう1頭入れてみる。パピークラスはいつも同じメンバーなので、怖がりな子でも、2~3回こなしていくと、だんだん大丈夫になってきます。

アクティブな子と穏やかな子を一緒にしてしまうと、怖がりな子は、追いかけられて逃げ回って固まるという経験しかできず、怖い印象しか残りません。デリケートな子にはデリケートな対応が必要です。

●社会化期を逃してしまった成犬の場合
成犬になってからでも、時間はかかりますが、怖がりな子を、普段の生活に支障がないくらいまで持っていくことは可能です。ただし、目標地点がまったく変わってきます。

若ければ柔軟性があるので、1頭の犬を呼び水にして、ほかの犬や人とも仲良くなれますが、成犬の場合は目標を下げることが必要。例えば人や犬が怖い場合は、友だちを作ったり、フレンドリーにしっぽを振って「遊ぼうよ」となるのを目指すのではなく、散歩なら散歩、カフェに行ったらカフェで、苦手な刺激に無関心でいられるぐらいまで持っていくことが目標になります。そこを勘違いする飼い主さんが多いのですが、目標地点を誤ると犬が苦しくなります。

オレンジの洋服を着て散歩する白黒チワワ

●保護犬の場合
一人暮らしの男性で、推定3歳のチワワを保護犬として迎えたが、もう1年一緒に暮らしているのにまったく慣れないという相談を受けました。帰宅しても玄関にも出てこないし、顔を見ると逃げる、抱っこすると脱糞する、飼い主さんが同じ部屋にいるとご飯も食べない。

お話を聞いてみると、犬が嫌なことをいっぱいしていて、関係性が全然育っていない。早く仲良くなりたいがために、強引に抱っこしたりして逆効果になっていました。

チワワのような茶色い小さな犬
これは、ゼロからのやり直しが必要です。臆病な性質の保護犬を迎えたときは、最初の1~2週間は過度にかかわらない。目も合わせない、声もかけない、ただ存在だけ伝えるというのがスタート。おやつも犬のほうを見ないでポイッと投げる。慣れてきたら少しずつ近い距離から投げて、最終的には手から食べられるようにする。

私たち人間は意外と背丈の大きい動物なので、関係性ができていないと、犬は、上から覆いかぶさられる、上から手を出される、急に持ち上げられる、大きな声で話しかけられる、正面から向かってこられる、これらすべて怖いんです。本来、いいコミュニケーションであるアイコンタクトさえ、関係性ができていなければ怖い。すべて避けないといけません。

それまでのバックグラウンドがわからない保護犬の場合、最初は何もしないのがベスト。同じ空間に住んでいれば、お互いのことがだんだん気になってきます。犬のほうから少しずつ距離を縮めてきたら、そこでフードやその子の好物などを使って関係性をよくしていけばいい。何ヵ月という単位で取り組むものです。皆さん、早く仲良くなりたいと焦り過ぎなんです。
 

愛犬を怖がりにしないためにトレーニングで重要なこと

●社会化期の前半を逃さない
怖がりは、社会化期の前半でどういう経験をしたかが大きく関係します。生後2ヵ月から3ヵ月ぐらいは、何回もパピークラスに参加して、人が楽しいとか、人がおいしいものをくれるとか、ほかの犬と遊ぶ楽しさなどをインプットしていく時期です。

また、今後、その子が人間社会で生きていくうえで経験しそうなことは全部経験させたほうがいい。車に乗せる、トラックの騒音、服を着せる、ドライヤー…等々。少しずつ、おやつなどのいいことと合わせて経験させていくといいでしょう。

仰向けになって撫でられる柴犬の子犬

●社会化は継続して行うもの
パピークラスで大丈夫だったからといって、ずっと大丈夫とは限りません。今まで犬が好きだったのに、1回犬に襲われたことからすべての犬に排他的になる子もいます。成犬になってから、どんな犬と会わせるかがすごく大事なんです。うちの子は犬好きだからどんな子もOKと寄っていくと、どこかでかみつく子に当たって悪い経験をするかもしれない。一番怖いのは、かまれて被害者になった自分の子が今度は加害者になること。怖いからかむようになるんですね。

社会化は継続が必要だと思っています。成犬になったら、今度は外に出て、ほかの人や犬と安全なコミュニケーションをさせ、いい経験を培っていくことが大事。だから、挨拶する犬も仲良くする犬も選ばないといけません。

芝生で鼻を突き合わせて挨拶する2頭の犬

●飼い主さんが犬に100%の安心感を与える
怖がりの犬を苦手な刺激に慣らしていくうえで大事なことは、飼い主さんが、その子に「いろんなものが怖いけど、お母さんがいたら安心」という100%の保証を与えられるかどうか。

散歩のときに、ほかの犬にワンワン吠えてしまう子も、飼い主さんが上手に声をかけて誘導してあげると、吠えなくてもいい状況が増えてくる。吠えるよりも、お母さんの顔を見て気を紛らわせて、しかも「いい子」とアイコンタクトしてくれ、おやつもくれる。「お散歩って、こんなにラクなの?」となるんです。

寝そべって撫でられるチワワ

怖くて吠えている子は、実はみんなしんどいもの。自分で自分のことを守らなきゃいけないから。そういう子に、飼い主さんが「私がいたら、あなたは安心だよ」と教えてあげることが大事です。どんな調子で、どんなタイミングで声をかければ、その子が怖がらなくなるのか。そこは専門家に教えてもらうことが必要だと思います。

●犬によって目標地点はまったく異なる
怖がりな子をトレーニングでどこまでもっていけるかは、住んでいる環境、その子の年齢や力量、飼い主さんの力量によって、目標地点がまったく変わってきます。10頭いたら10頭違います。でも、犬のいいところは、何歳でも変われる可能性を持っている動物だということ。だからこそ上手に導いてあげてほしいと思います。

牧口香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 1998年に麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成…

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