日本犬の種類や特徴、魅力を解説!専門家に聞く飼い方のコツ

近年大人気の柴犬は、毎年約5万頭が家庭犬として迎えられ、日本犬全体の8割を占めるほど。飼育頭数は犬全体の中でも3~4位と推測できます。秋田犬も、フィギュアスケートのアリーナ・ザギトワ選手の愛犬マサルの影響で注目度が高まっていますよね。

今回は日本犬を中心にしつけ指導を行う山下國廣先生に、日本犬の歴史や特性をうかがいました。ご自身も愛好家である山下先生が考える魅力も要チェックです!

日本犬とは?国の天然記念物に指定される6種

国の天然記念物に指定されている日本犬は、柴犬をはじめ秋田犬、甲斐犬、紀州犬、四国犬、北海道犬の6犬種。かつて越の犬もいましたが、現在は絶滅に近い状態です。そのほか地犬と呼ばれる川上犬や薩摩犬もいます。

■柴犬
全国で番犬や猟犬として重宝されていた小型犬がルーツ。そのため犬種名に地名がついていません。毛色は赤毛が8割を占め、次いで黒毛が多く、胡麻毛や白毛もいます。

柴犬は日本犬保存会やジャパンケネルクラブをはじめとするいくつかの団体に登録されています。柴犬保存会には通称縄文柴犬と呼ばれるタイプが登録されているほか、地方の特色を残した犬(美濃柴犬、山陰柴犬、川上犬など)もいます。特に小型化された柴犬を豆柴と呼ぶこともあります。
赤毛の柴犬●オス
体高:39.5cm(38cm~41cmの間)
体重:9kg~11kgくらい
●メス
体高:36.5cm(35cm~38cmの間)
体重:7kg~9kgくらい

■秋田犬
秋田県を中心に東北地方にいた大型犬。江戸時代には闘犬として用いられ、他犬種との交雑もありましたが、日本犬の姿形を残して保存されています。毛色は主に赤毛・虎毛・白毛。
野原でこちらを向いて立つ秋田犬●オス
体高:66.7cm(上下3.03cmを含む)
●メス
体高:60.6cm(上下3.03cmを含む)

■甲斐犬
山梨県の山間部に生息していた獣猟犬。軽快な動作を生かしてカモシカ猟などで活躍してきました。大きさは中型犬と小型犬の間くらい。すべての犬が虎毛ですが、色合いによって黒虎毛、中虎毛、赤虎毛と呼ばれます。
芝生の上で立ってこちらを向く甲斐犬●オス・メス
体高:約40〜50cm

■紀州犬
紀伊半島一帯で昔から飼われていた中型の獣猟犬。特にイノシシ猟においては随一の能力の持ち主。毛色は白毛が大半ですが、赤毛や胡麻毛もいます。
伏せている紀州犬●オス
体高:52cm(49cm~55cmの間)
体重:17kg〜23kgくらい
●メス
体高:49cm(46cm~52cmの間)
体重:15kg〜18kgくらい

■四国犬
高知県を中心に四国地方の山間部にいた中型の獣猟犬。毛色は胡麻毛が中心で、赤毛の多い赤胡麻毛と黒毛の多い黒胡麻毛がいます。少ないものの赤毛と黒毛もいます。
立っている四国犬●オス
体高:52cm(49cm~55cmの間)
体重:17kg〜23kgくらい
●メス
体高:49cm(46cm~52cmの間)
体重:15kg〜18kgくらい

■北海道犬
古来、アイヌの人々と暮らしてきた獣猟犬。アイヌ犬と呼ばれていましたが、天然記念物指定の際に北海道犬になりました。大きさは中型犬と小型犬の間くらい。毛色は赤毛、白毛、黒褐毛、虎毛などさまざま。
道路で立っている北海道犬●オス
体高:約48.5cm(上下3cmを含む)
●メス
体高:約45.5cm(上下3cmを含む)

以上が、国の天然記念物に指定されている日本犬6犬種です。
体高の幅が広かったり体重が明記されていなかったり、犬種標準があいまいだと思いませんか?

山下先生によれば、「日本犬は欧米犬種のように作業別に作出された犬種ではありません。本来はいろいろな体型やサイズがあり得るはず」とのこと。日本犬を保存するにあたって大まかな犬種標準ができましたが、その中でもばらつきがあるのが健全だそうです。

日本犬のルーツや特性は?

日本犬の祖先は、1万年以上前にユーラシア大陸から日本人の祖先に連れられて来ました。丁寧に埋葬された縄文時代の犬の化石が見つかっていて、狩猟採取時代の当時、猟犬として大切なパートナーだったと考えられています。農耕時代に変わってからも、各地に忠犬の言い伝えも残っていますよね。

柴犬は全国から集められた犬ですが、ほかの5犬種は原産地があります。日本犬の各犬種それぞれ特徴はあるものの、犬種ごとの違いよりも共通項の方が多いそうです。

「日本犬はいずれも意図的に作出された犬種ではなく、昔ながらの姿形や特性をとどめています。性格は、警戒心が強く仲間とよそ者を区別する、自立的で過剰な干渉を嫌うなど、日本犬以外のプリミティブドッグ(原始的な犬)と共通ですが、攻撃性や警戒心については個体差が大きい。とくに柴犬は甘えん坊な犬から攻撃性の強い犬まで幅が広いですね」

顎下を撫でられて嬉しそうなラブラドールレトリーバー

欧米犬種との違いも知っておきたいですね。たとえばラブラドール・レトリーバーは成犬になってもこどもっぽく、保護者にぴったりくっついている特性を生かして人間の近くで仕事をするのに適しているとか。日本犬は幼い時は依存的でも、野生動物と同じくおとなになれば自立的になります

「猟犬や番犬などの役割も、野生動物のイヌ科の行動をそのまま生かしているわけです。だから日本犬に仕事をさせる場合、腕の良い職人のつもりで接しないとダメです(笑)。近くであれこれ指示していたら職人は本領を発揮できないでしょう。とはいえ手綱は握らないといけないので、日本犬に合ったしつけが重要です」
 

日本犬の飼い主に向いているのはどんな人?

飼い主さんに一途なところやSNSで見るかわいい表情に惹かれて、日本犬を迎えようと思っている方もいるのでは?ところが山下先生によれば、誰にでも向く犬種ではないそうです。

自立心の強い日本犬のキャラクターを知っている方、しつけに関して専門家の的確な指導を受けられる方に向いていると思います。日本犬は過剰なスキンシップに対してストレスを感じるので、ほどよい距離感で付き合うことも重要です」

中型犬の紀州犬や大型犬の秋田犬を飼う場合は、飼い主さん自身の体力を考える必要もあります。
飼い主を嬉しそうに見上げる柴犬

「日本犬を知ると他の犬種は飼えない」ほどの魅力!

山下先生はもともと畜産動物を診察する獣医師。甲斐犬を迎えたことをきっかけに犬のしつけ指導や行動治療を始めました。「甲斐犬を知ると他の犬種は飼えない」とまで言うほど日本犬に魅力を感じているそうです。

甲斐犬との出会いは大学生の頃にさかのぼります。「今から思うと、柴犬よりも野生動物のような魅力のある中型日本犬がいいと思っていたんですね」と振り返ります。二代目の甲斐犬の”すぐり”は、ディスクドッグや災害救助犬として活躍。日本犬は運動能力が高く、興味を引き出せばものすごい集中力を発揮するところにも惹かれるとか。

山下國廣先生と愛犬の甲斐犬の訓練中の様子写真提供:山下國廣先生

甲斐犬は飼い主との結びつきが特に強い犬種だと思います。もちろん柴犬や他の日本犬も同じ傾向があるからこそ、忠犬と呼ばれるわけですね。観察力が鋭く、家族以外の人に対して親友、友人、知人、他人……と親しさのランキングをつけるのもおもしろいところ。飼い主への親しさは別格で、一番の相棒として意識してくれるのが魅力です」

日本犬について山下先生に解説していただきました。近年人気が高まっている日本犬ですが、「日本犬の本当のキャラクターが人気というより、ブームのように思います」と山下先生。トイ・プードルのような愛玩犬種の飼い方を日本犬に当てはめる飼い主さんが多く、その結果トラブルも増えているとか。日本犬ならではの特性を理解したうえで家族の一員に迎えてほしい、と願っています。

雪の中に伏せる山下山下國廣先生の愛犬の甲斐犬写真提供:山下國廣先生

実は取材・執筆を担当した私も甲斐犬の飼い主の一人。「甲斐犬を飼うのは大変でしょう?」とよく聞かれます。「飼いやすいです」と答えたら冗談と思って笑われたので、今は「ちゃんと飼えば(うまく付き合えば)大丈夫です」と答えています。言い尽くせない日本犬の魅力をたくさんの方に知っていただきたいと思います!

<取材・監修>
獣医師 山下國廣先生
獣医師 山下國廣先生
軽井沢ドッグビヘイビア主宰。長野県の軽井沢を拠点に、全国で家庭犬のしつけ指導や行動治療を行う。特に日本犬の飼い主から相談が多い。愛犬のすぐり(甲斐犬/享年15歳)を日本犬初の災害救助犬に育てた。

軽井沢ドッグビヘイビア

金子志織

編集&ライター、愛玩動物飼養管理士1級、防災士、ヒトと動物の関係学会会員、いけばな草月流師範 前職はレコード会社でミュージシャンのファンクラブ運営を担当。そのときに思い立って甲斐犬を迎える。初めての子犬の世話に奮闘するうちに動物への興味が湧き、ペット雑誌や書籍を発行する出版社に転職。その後、フリーランスのライター・編集者として独立。飼い主さんと動物たちの暮らしに役立つしつけや防災の記事から、犬のウンチングスタイルなど雑学の記事まで作成。現在も犬と猫を中心に、ペット関連のさまざまな雑誌、書籍、We…

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