IKEA港北で初開催された保護犬・保護猫の譲渡会「イケアに行くにゃーーー!」大盛況!

スウェーデン発の世界最大の家具・インテリア雑貨チェーンのIKEA(イケア)。その集客力抜群の場所で、昨年から地元複数の動物愛護団体の主催で、保護犬・保護猫の譲渡会が開催されるようになりました。

「IKEA新三郷」(埼玉県三郷市)で2018年9月、11月、2019年3月と開かれ、2019年5月19日(日)、神奈川や東京の城南地区を商圏とする旗艦店のひとつ「IKEA港北」(神奈川県横浜市都筑区)でも初開催。大変な賑わいを見せたその模様をレポートします。

2019年5月19日開催のIKEA港北犬猫譲渡会チラシ
「保護犬・保護猫譲渡会@IKEA港北」のチラシ

 

譲渡会は、20分入れ替え制になるほどの人気ぶり

譲渡会当日、「この行列は何?バス待ちの行列?」と勘違いする人もいるほど、びっくりする人だかりができていました。混雑するほど賑わうとは、さすがIKEA。知名度も、集客力も、交通の便も抜群です。

今回、IKEA新三郷での譲渡会で、IKEA担当者含め関係者との信頼関係を築き上げてきた複数の団体さんを中心に、関東で動物愛護活動を行っている「AERU」というチームが主催しました。当日の参加は8団体(犬3団体、猫5団体)。犬は約27頭、猫は約64頭が新しい飼い主との出会いを待つため集まり、犬猫たちの負担も考えて12:00〜15:00という時間帯で開かれました。

IKEA港北犬猫譲渡会のにぎわう様子
こんなに大混雑する譲渡会も珍しい!譲渡会の開催を何で知ったか伺うと「保護団体やIKEAのSNSなど」と答える人が多かったです

あまりの人の多さに、20分入れ替え制になるという対応になるほどでした。これは主催者側もIKEAの担当さんも嬉しい悲鳴。むろん人生の伴侶をわずか20分の短い時間で決定することはできません。でもとにかく動物たちに直接会ってみてもらう、感じてもらう。その後、気になったコの情報をもらい、アンケートを書いて、後日ゆっくり面談するというスケジュールになるそうです。
 

IKEAでの「保護犬・保護猫譲渡会」開催への想い

それにしてもなぜ、IKEAのような商業施設での譲渡会を開催することになったのでしょうか。中心メンバーのひとりで、かつ動物愛護の推進を公約のひとつに掲げて選挙に当選した三郷市議会議員(埼玉県)でもある佐々木修氏に聞いてみると、「大きく3つの目標があります」とのこと。

IKEA港北犬猫譲渡会に来場した家族と愛犬
写真左が佐々木さん。この日は公人としてではなく、あくまでもボランティアの1人として参加

1.保護犬・保護猫がいるというこの現状を、たくさんの人に知ってもらう

近年、保護犬猫の存在を知っている人はだいぶ増えてきました。しかしそれでもまだ、まったく知らないという人も(悪気はなくても)全国的には存在します。なのでIKEAのような商業施設で、不特定多数の人に、保護犬猫の存在を肌で感じてもらうことは、貴重な啓発活動の場になります。

<保護犬・保護猫が存在する背景>

さくら猫※1やTNR※2活動の過程で保護された猫の存在

※1 避妊去勢済みであることがわかるように、耳に桜の花びらのようにV字の切り込みを入れた猫
※2 Trap:捕獲し、Neuter:不妊手術をして、Return:元の場所に戻す

 
飼育放棄などで家族を失った犬や猫がたくさんいる

高齢者とペットの問題※3の増加

※3 高齢の飼い主が、亡くなったり入院したり認知症になったりして、飼いきれなくなってしまう犬猫が近年増加している

 
鑑札や注射済票、迷子札をつけていなかったために、家族の元に帰れなくなってしまう犬猫が多くいる

遺棄や虐待などがあるという現実

 
2.譲渡会で犬猫と出会うという選択肢があることを知ってもらう
犬や猫を飼いたいなと思ったとき、ペットショップやブリーダーから買う方法しかないと普通に思っている人は多いものです。それを否定するわけではありませんが、譲渡会で保護犬猫と出会うという第三の選択肢もある、ということを知ってほしいという想いがあります。

IKEA港北犬猫譲渡会に参加した犬たち
譲渡会では、トイレトレーニング済の落ち着いた成犬や成猫も多い。団体の人が本当にそのコのことを思って真摯なアドバイスをくれるので、初めて犬猫を迎える人にとっては心強い。

ただ、保護犬猫に関心はあっても、譲渡会が、いつ、どこで開催されているか見つけにくい、と思っている人もいるでしょう。その点、SNSや広告での告知の発信力や、交通の便のいい商業施設での開催は、より譲渡会が見つけやすく、行きやすくなります。第三の選択肢が身近なものになることが期待できます。

IKEA港北犬猫譲渡会の参加犬を紹介する手書きポスター

3.家族として迎えてもらう
保護犬・保護猫や譲渡会の認知度が上がり、出会いの場が増えれば、新しい家族の見つかるチャンスが増えていきます。里親が見つかったら、もちろん嬉しいです。ただし譲渡は、あくまでも最終目標だと佐々木さんは言います。たしかに、飼い主募集中の犬猫であっても「衝動買い、衝動飼い(よく考えず、一時的な感情で欲しがること)」はよくありません。だから最も優先すべきは啓発活動。その結果として、ご縁があってよい家族が見つかれば、ベストです。

IKEA港北犬猫譲渡会に参加した卒業犬

また啓発活動によって、育てられない命は産ませない、管理できない多頭飼育はしない、管理能力のない人には飼わせない、迷子にさせない、虐待などはもってのほか、というような、動物との関わりを正しく深く理解した人たちが増えていけば、保護される犬猫になるコは減っていくはずです。佐々木さんたちの活動は、長期戦で、不幸な動物を減らすことに重点を置いているようにも思えました。

イケア・ジャパン(株)のローカル・マーケティング・スペシャリスト、山下りえさんも「こうした活動をサポートできるのは、IKEA的にも、個人的にも嬉しいです。日本では衛生上などのルールがあり、店内に犬を同伴してもらえないのは申し訳ないのですが、こうして多くの人に譲渡会に興味を持ってもらえてありがたく思います」と言います。

本当に損得勘定ではなく、企業の社会貢献を自然体でやってしまうところが、さすが社会福祉の進んだスウェーデン発のグローバル企業だなと感服しました。

IKEA港北犬猫譲渡会で指揮を執るIKEA担当者
「ワンちゃんネコちゃんの情報をもらったお客様は入れ替えをお願いしまーす!」と、大きな声で誘導するIKEAの山下さん

 

家族連れでの参加多数。来場者の声を聞いてみました

さて、入れ替え制も厭(いと)わず待っている来場者にも声をかけてみました。やはりベッドタウンという土地柄かファミリー層が多かったです。小学生くらいの子どものいる家族、はたまた大学生か社会人になっているような大きなお嬢さんと父母という組み合わせの家族、若い夫婦、熟年夫婦など。家族揃って、夫婦揃って、家族全員参加で来ているのが印象的でした。新しい家族を迎えるなら家族全員揃って譲渡会に来る、というのは正しい姿勢だと思います。
IKEA港北犬猫譲渡会でのたくさんの来場者

譲渡会スタート時は「この譲渡会が目当てで来ました」という人がほとんど。IKEAに来たついでかと思っていたのに、そうではないそうなので、ちょっと意外でした。譲渡会がこの場に人を呼んでいる。ということは商業施設側にとっても、譲渡会を開催することは集客を促すうえでメリットがありそうです。

後半戦は、IKEAで買い物を終えた人たちが寄り道して行くというパターンも増えてきました。「何やっているのかな?犬猫がいるよ。何、これ?どうやったらもらえるの?」という若いカップルも。タダなら犬をもらいたい、というのはダメですよ、と内心思いつつ、でもまずはこれが啓発活動の最初の1歩なんだなぁと思いました。

IKEA港北犬猫譲渡会に参加した三毛猫

<後日面談を申し込んでいたご家族の声>
お父さんが「獣医の資格があるサラリーマン」だという家族にお話を聞きました。普通の人より動物に対する知識は深いであろうと思いつつ、「なぜ今日ここに来たのですか」とお父さんに尋ねると「犬たちを取り巻く殺処分のことなども含めて子どもたちに伝えながら、犬をお金で買うのではなく、子どもたちと一緒に犬を育てていきたい」と答えてくれました。

お母さんは「ある程度気になるコを団体のホームページで見つけたりしながら、4月から複数の譲渡会を回っています。子どもと犬との相性もあるので、実際に会って、ふれあいをさせてもらい、最終的に決めたいと思っています」と言います。数ヶ月間かけて、家族全員でじっくり新しい家族となる犬を探す本気度が伝わってきました。

IKEA港北犬猫譲渡会で犬を迎えようとしている家族
小学3年生の彼女のお目当ては、右奥のケージの中で寝ている3頭の子犬。でもお昼寝中にジャマしてはいけないので、愛おしそうに眺めている。

 

悲壮感漂う譲渡会の時代はもう終わり。明るくハッピーに!

会場で、大勢の来場者に囲まれて一生懸命対応している団体さんの姿にも敬服しました。多くの一時預かりさんはじめ複数の団体ボランティアが一堂に集まり、オシャレなIKEAの一角で、和気藹々(あいあい)と犬猫の紹介をしている光景は、従来の感覚から言うとある意味異質なのですが、とても幸せな心地よい空間に感じました。

かつての暗くて悲壮感漂う譲渡会の面影はなくなり、明るく楽しく健全な出会いの場へ。日本の動物を取り巻く世界もまんざらではない、きっといい未来が待っている…そんな優しい予感に包まれるIKEA港北での譲渡会でした。

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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