夏は犬と一緒に渓谷へお出かけ!注意点&おすすめスポット6選

渓谷というと、普通は、新緑の時期と、紅葉の季節が人気。でも私たちドッグ・ラバーと犬にとっては、涼しくて、水遊びできる夏こそ、オススメのシーズンなのです。
 

ニッポンには美しい森と渓流がいっぱい

今年は例年になく梅雨明けが早く、一気に猛暑がやってきました。高温多湿な日本の夏は、犬には厳しい季節です。そこで気温の低い標高の高いエリアや湿度の低い高原エリア、涼風が抜ける渓谷(けいこく)は、避暑地として最適。その中でも今回は、水辺で涼むことができる渓谷にスポットを当ててみましょう。

昇仙峡の遊歩道に座るボクサー犬とジャーマンポインター
景勝地として有名な山梨県の昇仙峡・仙娥滝にて。滝壺から小さな水しぶきが散ってきて涼しい。

なにしろ日本には、とてもたくさんの渓谷があります。そこで改めて「渓谷ってなんぞや?」と思って調べて見ると「山に挟まれた、川のあるところ」とあります。では「峡谷(きょうこく)は?」と思うと「渓谷よりももっと谷が深くて、V字型など両脇が険しい崖になっているところ」。つまり渓谷よりも峡谷の方が規模が大きく、ダイナミック。代表例として黒部峡谷(富山県)が有名ですが、層雲峡(北海道)、高千穂峡(宮崎県)のように「〇〇峡」と略されることも。その迫力ある景色から景勝地となっているところも多いです。

いずれにせよ、狭い島国という特異な地形の国土で、背後に急峻な山脈や山地がある日本だから、全国各地に水の流るる美しい渓流、滝、淵などのある渓谷や峡谷が多く存在しているのだと思います。森が豊かで、山からの水が潤沢な、我が国ならではの天然の避暑地です。
 

犬にとっても、渓谷は心地よい避暑地

犬からみても、渓谷(以後、峡谷も含む)は、熱中症になりにくい、夏に遊びに行くのに適した場所。泳いだり、水遊びを喜ぶ犬は多いですし、泳ぐのが苦手なコでも足の裏を冷たい水に浸すだけでも、心身ともにいい刺激になります。

渓流で水遊びするジャーマンポインター
渓流の水は夏でも冷たいから、ジャブジャブと入るだけでも熱中症の危険が減ります。夏に最適なアウトドア遊び。

また渓谷は、たいてい山間部にありますから、木陰も多く、涼しい。海(ビーチ)で遊ぶより、肉球の火傷の心配も少なくて、渓流の冷たい水もすぐ飲めますから、熱中症になりにくい場所です(ただし渓流とはいえ、その上流に人工的な建物などがあれば、水質がきれいかどうかはわかりません。犬が飲用できるか、周辺環境もチェックしてくださいね)。

自然がいっぱいのところで、犬の本能的な欲求(クンクンとニオイを嗅ぎ回る探索行動や、バッタを追いかける疑似狩猟体験など)を満たすのは、この上ない喜びとなります。日々のストレスや退屈も洗い流されるでしょう。
 

水が勢いよく流れている渓流は、アオコが発生しにくい

渓流は、勢いよく水が流れていることにも価値があります。同じ水場であっても、湖や池の場合は、あまり流れがありません。もちろん湖沼も、泳ぐのが好きな犬にとってはよい遊び場ですが、夏場に「アオコ」という藻の1種が大量発生するところは注意が必要です。

緑色に染まる宍道湖
アオコは、淡水の湖沼が富栄養化すると発生しやすいのですが、肝臓毒である「ミクロシスチン」や「シリンドロスパーモプシン」、神経毒である「アナトキシン」や「サキシトキシン」などの有害物質が含まれています。飲んだり、泳いでいるときに口に入ってしまうと、最悪死亡してしまう例があるので侮れません。なので、アオコが発生しにくい、水がよどんでいない渓流は、その点安全です。
 

愛犬の水難事故には気をつける!

ただし、アオコが繁茂できないほど流れが速いということでもありますから、水難事故には十分気を付けて、愛犬のレベルに合わせた場所選びをし、そして犬から目を離さないでください。

渓流で足まで浸かって水遊びをするジャーマンポインター
おいおい、そこは流れが速く、すぐ下が小さい滝みたいになってるから渡るのは無理なんじゃない?と、思った次の瞬間、クーパーの全身が見えなくなりました。キャーーーーっ!大変!溺れる!流される!と、焦りました。すぐ自分で岩に這い上がってきて事なきを得ましたが、水のパワーを甘く見ちゃいけません。いつの間にか川に流されていないとか溺れていたなどがないように、つねに飼い主は愛犬の姿を目で追って見張りましょう。

水量や地形などにより、流れの速さ、岩の多さ、川幅の狭さ・急さ、淵の深さなどはいろいろで、危険な箇所もあります。愛犬が流されたり、溺れたりしないように、その場所が安全かどうか、愛犬の体力、サイズ、泳ぎのレベルなどに合わせて検討することが重要です。

小型犬や、泳ぎに自信のないコは、フロート(犬用の救命胴衣)を着せてあげてください。いざというときにすぐ取っ手を掴んで、犬の体を持ち上げられるものがオススメです。さらに、万が一流されてしまっても引き寄せられるように、水に浮くロングリードをつけて遊ばせるとよいでしょう。

[RUFFWEAR(ラフウェア)] 犬用ライフジャケット

水に浮く頑丈なトレーニングリード

渓流の浅瀬で足だけ浸かるボクサー犬
かつてパパにプールに突き落とされたメルは、水がトラウマになってしまいました。でも今年はやっと渓流の涼しさ、水の心地よさがわかってきたみたい。チャプチャプ足湯(足水?)だけで涼しくなるし、いい刺激になるはず。

そもそも無理に泳がせる必要もありません。足先が浸かっているだけでも、犬は気持ちいいみたいです。無理矢理泳がせようと、ジャブンと深みに投げ入れたりは絶対しないで! トラウマになり、水場が大嫌いなコになる危険性大です。犬が、自ら水に入るならそれでいいし、入らないならそれをそっと見守るだけで十分です。
 

そのほか渓流遊びで注意したいこと

●ほかの観光客に迷惑をかけない
涼を求めて、渓流に遊びにくる人はたくさんいます。とくに有名な景勝地では、夏休みや週末は、新緑や紅葉の季節でなくても観光客が押し寄せていることもあります。子ども連れのファミリーも多いかもしれません。また渓流釣りを楽しんでいる人もいます。なので、公共の場で遊ばせたいときは、世の中には犬が苦手な人もいるという前提を忘れてはいけません。上流で遊ばせると、犬の毛が流れてきたなど、あまり衛生面でよく思わない人もいるかと思います。ほかの人に迷惑をかけないように、ほかの人たちより下流で遊んだ方がグッドマナーです。

渓流の木陰で水に浸かりながら休憩するジャーマンポインター
誰もいない、秘密の渓流に、しかも平日に行くのがオススメ。うちはほかの人がいたら、たいてい別の場所に移動します(うちの犬はデカいので怖く感じる人が多いので。イノシシに間違われたこともあります)

●水中毒に気を付けて
脱水症状からくる熱中症の危険性については、近年多くの飼い主さんが認識を深めており、注意している人が増えました。とてもいいことだと思います。

ただ、もう一方で「水中毒」という、まだあまり知られていない症状もあるので気を付けてください。水中毒は、正式には「低ナトリウム血症」といい、体内の塩分濃度が薄くなりすぎる症状です。水を多く摂取し過ぎたために、体内の電解質のバランスが崩れ、めまいや頭痛、多尿・頻尿、下痢、吐き気や嘔吐、錯乱、意識障害、呼吸困難などが起きます。最悪死に至ることもあるので、楽観はできません。

とはいえ、犬の場合、よほどのことがないかぎり水中毒になるほど自ら水を飲むことはない、という獣医さんもいます(ニンゲンの場合は、精神疾患の人や過食症の人が陥りやすい)。

渓流で泳ぐジャーマンポインター
クーパーは泳ぐのが下手くそです。泳ぐのが上手なコは、水しぶきも立てず、スーーーっと泳ぎます。バシャバシャするコは、焦っていて、水を飲み込むかも。無理はさせないで。

でも水遊びが大好きで、何時間も水の中で泳いでいるコや、ボールのモッテコイを何度でも何度でも延々とやりたがるコは、泳ぎながら水を飲んでいて、結果的に水分摂取量が過剰になってしまい、死亡した例があります。水遊びをするなら、1時間以内で切り上げるとか、30分おきに休憩させて、様子を見ましょう。水を飲み込みすぎたコは、よくガーッと水を吐くことも多いです。そういうときはまだ水に入りたがっても、その日は撤収しましょう。

そのほか、渓流遊びではなくても、おうちでホースの水をパクパクとキャッチするのが好きなど、なんらかの水遊びが好きなコも、水中毒にならないように用心してください。

●レプトスピラのワクチンを忘れずに
人獣共通感染症(つまり犬も人にもうつる)の「レプトスピラ症」は、細菌(スピロ ヘータ*)感染症。保菌動物は、齧歯類(ドブネズミなど)、野生動物(シカ、イノシシ、タヌキなど)、家畜(ウシ、ウマ、ブタなど)、ペット(イヌ、ネコなど)と幅広いのが特徴です。つまりほとんどの野山にいる哺乳類が保菌動物になりえるのかもしれません。
*スピロヘータ科の細菌の総称。レプトスピラは、スピロヘータ目レプトスピラ科に属する細菌。

菌は動物の腎臓に保菌され、排尿の際に、細菌入りの尿が外へ放出されます。そうしたレプトスピラを含む尿との接触、または尿がついた水や地面との接触により感染します。また汚染された尿や土が、渓流や湖沼に流れ込み、感染を拡大させることがあります。

犬が感染すると、発熱、元気の消失、食欲不振、嘔吐、脱水などを起こし、その後、急性腎不全、急性肝不全になり、治療が遅れれば死んでしまうこともあるので要注意です。

昇仙峡の歩道から川を見下ろすボクサー犬とジャーマンポインター
昇仙峡(山梨県)の散策路。いつもは一方通行の車道が、オンシーズンの週末の昼間は車両通行止めになり、歩行者天国のようになります。木陰は涼しいですが、日の当たる舗装道路は輻射熱があるので、熱中症対策が必要です。

住宅街で暮らしていると、年に一度のワクチンをするときに、近所でレプトスピラの発症例がなければ、レプトスピラが入っている混合ワクチンを獣医さんも勧めないこともあります(むしろ良心的な先生とも言えるのですが……でも2018年6月には、東京都昭島市でパピヨンでの発症例が見つかりました。都会はドブネズミも多いので安心はできません)。

なので少なくとも渓谷に遊びに行くのなら、混合ワクチンの中にレプトスピラも入っているか確認し、接種してください。

ただし、レプトスピラの菌の種類は、病原性と非病原性の2 種類があり、現在わかっているだけで250 以上もの血清型に分類されています。つまりワクチンを打っていても、250種以上のレプトスピラにすべてに効果があるわけではないということ。ただ、致死性の高いものにはなるべく対応しているので、ワクチンをした方がしないよりずっと安心です。

もしもワクチンを打っていても、渓流遊びなどアウトドアを満喫したあとに、上記のような症状が起きた場合は、なるべく早く動物病院を受診し、川遊びをしたことを獣医さんに申告してください。病名が早く判明すれば、治療も早くできます。

川沿いの岩場に立つジャーマンポインター
大雨や台風のあとの渓流は水かさが増したり、滑りやすくなったりしています。犬だけでなく、ニンゲンも安全に留意して遊んでください。

 

リスクを減らして、自然と遊ぼう!

リスク面を列記することにより、少々脅かしてしまったかもしれません。でも、我が家の犬は、代々もう25年ほど(合計5頭の犬)、奥多摩、秩父、伊豆、長野、広島、島根などの山野でほぼ1年中渓流遊びをしていますが、今のところ一度もレプトスピラに感染したことはありません。

自然の中で遊ぶことはリスクもあるのですが、犬はやはり自然の中で遊ぶことが大好きです。犬として生きる喜びを与えてあげてほしいと思います。熱中症や水中毒といった飼い主のケアで防げる事故はしっかり防ぎ、ワクチンを打って、楽しんできてください。

ちなみに、有名な渓谷だと人出が多いですが、日本には、名もないような、でもナイスな渓流がたくさんあります。週末など観光客の多いときは、景勝地は避けて、人知れず存在する林道沿いの細い渓流や川を探してみるのも一興です。ちょっとクルマを走らせれば、いい場所が見つかるはず。愛犬と自分だけの、秘密の楽園を探すのも楽しいですよ!

名もない小さな川で遊ぶジャーマンポインターと飼い主
地元の子どもたちが案内してくれた民家の横を流れる小川。子どもたちは網で小魚をすくっていました。有名な渓谷でなくても、けっこう楽しい。

<白石のオススメ渓谷>

等々力渓谷(東京都)
世田谷区にある、東京23区内で唯一の渓谷。住宅街の中とは思えぬ涼しい別天地。思いかけずに野趣溢れているので、蚊よけスプレーを忘れずに。

払沢(ほっさわ)の滝(東京都)
檜原村にあり、東京都で唯一“日本の滝百選”に選ばれている滝で、駐車場から徒歩15分ほどの遊歩道は、渓流沿いで涼しい。ただし水源利用の場所に犬は入れないこと。

昇仙峡(山梨県)
甲府市北部に位置する国の特別名勝に指定されている景勝地。片道6kmあるので、クルマを駐車場に置くと往復12km歩くことになる。そんなに歩きたくない人は途中で折り返し、クルマで上流の名所「覚円峰」や「仙娥滝」に行くとよい。仙娥滝近くは木陰の遊歩道があるが、甲府に近い昇仙峡口からは、夏場などのシーズン中の土日祝は車両通行規制が行われ、歩行者専用になる車道を散策することになる(平日は上り方向の一方通行の車道)。舗装道路なので、肉球の火傷防止のため犬の靴があるとよい。

尾白川渓谷(山梨県)
北杜市白州町。甲斐駒ヶ岳の麓、南アルプスの天然水が流れるエメラルドグリーンのせせらぎが美しい。土日ともなると、たくさんの人が涼を求めて集まり、駐車場に入るまで1時間くらい待つことも。7月上旬の平日に行ったときは混んでなくて、駐車場にたくさんのサルがのんびりくつろいでいた。平日がオススメ。

石空川(いしうとろがわ)渓谷(山梨県)
北杜市武川町。北精進ケ滝までの道のりにある渓谷。水量も多く、迫力のある風景を楽しめるが、金属製の険しい階段や橋が数ケ所あるので、アクティブな犬じゃないと厳しいかも。そのときは滝まで行くのはやめて、駐車場からほど近い渓流で遊ぶことを勧める。

断魚渓(だんぎょけい)(島根県)
邑智郡邑南町。侵食された崖や奇岩が連なる約4kmの峡谷。魚が簡単に遡上(そじょう)できない水流があり、この名前がついたという。田舎で観光客も少なく、野趣溢れる、素晴らしい渓流。

<白石がこれから行ってみたいと狙っている渓谷>
滝川渓谷(福島県)
養老渓谷(千葉県)
西沢渓谷(山梨県)
阿寺渓谷(長野県) ※ただし夏場は車両進入規制の道路規制あり。平成30年7月21日(土)~9月2日(日)
耶馬溪(大分県)

 
【参考サイト】
河川の作用による地形 国土交通省 国土地理院
アオコの毒(マイクロシスチンなど)|愛知県衛生研究所
アオコの 有毒物質を探る – 国立環境研究所
レプトスピラ症とは – 国立感染症研究所
イヌのレプトスピラ感染 – 国立感染症研究所

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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