「動物愛護法」2018年改正ポイントは?現行法の課題を考える

ペットと暮らす私たちにとって身近な法律に動物愛護管理法があります(以下、動物愛護法といいます)。法律と聞くと堅苦しく感じ、敬遠されがちですが、動物たちの命そのものを守るばかりでなく、私たちの生活にも関わる大事な法律です。現状、この法律はより望ましい内容を目指し、5年に1度の間隔で改正が行われることになっており、今年はその改正年にあたります

 

前回の法改正では何が変わったのか?

まずは、前回(平成24年9月公布、平成25年9月施行)の改正では何が変わったのか、主な要点を振り返ってみましょう。

●「終生飼養」という言葉が明文化された
飼い主に対して動物の命が終えるまで飼うこと、および動物取扱業において、その動物の販売が困難になった場合でも新たな飼い主を探すなどして、最期まで飼育する環境を確保することが責務とされました。併せて、自治体では病気や高齢を理由としたものや、何度も繰り返しての引取り、動物取扱業者からの引取りなどを拒否できるようにもなりました。

●動物取扱業者に対する規制を強化
動物を販売する時には実際の動物を見せ、購入希望者に対面して説明をすることや、動物の健康安全計画の策定、個体ごとの帳簿の作成、年1回の所有状況の報告などは義務となり、生後56日に満たない犬猫の販売や展示は禁止となりました(注)。

「生後60日齢以降で母犬から分離された子犬は、早期に分離された子犬に比べて問題行動を示す可能性が低い」*1
「生後49日齢以前に引き取られた犬では家族に対する攻撃性を示す傾向が高かった」*2
「出荷時が生後50~56日と57~69日を比較した時、家族や見知らぬ人に対する攻撃性などに有意な差が見られた」*3
というような調査研究報告がある。

●罰則の強化
殺傷や虐待、遺棄などに対し、最高で2年以下の懲役、または200万円以下の罰金に。

●多頭飼育に対する適正化
各自治体の条例に基づいて、多頭飼育に対する届出制度を設けることができると明記されました。(例:埼玉県=犬猫10頭以上の飼育者、未届出や虚偽には3万円以下の罰則あり)

など。詳しくはこちらを ⇒ 平成24年に行われた法改正の内容(環境省ホームページ)
 

まだまだ残る動物愛護法の改良点

しかし、法改正されたといってもまだ足らない点が多々あります。たとえば、以下のようなもの。

●犬猫の販売・展示が可能な日齢について、現状では56日ではなく49日になっている
これは激変緩和措置、つまり段階的にそれに近づけようという措置がとられたことにより、平成25年の法改正から3年間は45日、その後法律で新たに決めるまでは49日と、なんとも中途半端な状況になっているためです。
参考までに、日本小動物獣医師会の獣医師を対象とした調査(2011)では、「幼齢の犬猫を販売する現状が悪い」97.0%、「子犬子猫を親から引き離す好ましい日齢は56日以降が望ましい」81.3%、「子犬子猫を引き離す日齢が早すぎるための悪影響がある」99.2%、という回答結果も出ています。

動物の8週齢規制についてのセミナーのスライド
法律では「56日齢」と成立していながら、まだ施行はされていない。

●動物飼育に関して数値的な規制が不明確
「適正な飼育を」とありながら、動物を飼育する際の必要スペースや、同じケージ内で飼育可能な頭数、多数の動物を扱う場合、飼育管理に最低限何人のスタッフが必要なのか、望ましい繁殖回数や年齢制限、どこからが不適正飼育や虐待にあたるのかなど、数値的および対象例といった目安となるものが曖昧なため、行政が指導監督命令を行うにも判断しにくいという現実もあります。したがって、現状、問題と思われても指導のみにとどまることが多く、監督命令は年に数件程度という話です。

その他、多頭飼育による崩壊を未然に防ぐための体制づくりや、不適正飼育の場合の飼育禁止命令・動物の没収についての検討なども課題とされています。

その一方で、改正の裏側では、「殺処分ゼロ」という言葉に世間の注目が集まったことから、病気やケガなどにより、やむなく安楽殺した場合であってもクレームが寄せられる、保護団体が逆に過剰な数を抱え、多頭飼育崩壊を懸念して行政が指導しようにもしづらいという現象も起きていようです。また、カフェタイプを含む動物とのふれあい施設では、人と動物との共通感染症の観点からも不適切なものが目立つとも。

そのため、非営利である保護譲渡目的の第二種動物取扱業者も、営利目的である販売業が含まれる第一種動物取扱業者と同様に基準となる規制のあり方を考える必要があるのではないかという意見もあります。(参考:動物の愛護及び管理に関する法律が改正されました-動物取扱業者編(環境省ホームページ)

ベッドの上で眠る白とベージュの子犬
「幼齢の犬猫を販売する現状が悪い」97.0%、「子犬子猫を親から引き離す好ましい日齢は56日以降」81.3%、「子犬子猫を引き離す日齢が早すぎるための悪影響がある」99.2%(日本小動物獣医師会の獣医師を対象とした調査より、2011)

 

今年の法改正の重点は3つ

そんな現状の中、動物愛護の大きなうねりに反して、動物愛護法に関わる各種規制強化に対し、一部の国会議員には法改正に反対姿勢を示す人たちもおり、今年の改正は繁殖業者やペットショップに対する規制がほとんど盛り込まれず、不十分なままに終わってしまうのではないかと懸念されることから、ぜひとも望ましい改正をと、5月には衆議院会館において、有志による緊急院内集会も開かれました(賛同・参加124団体)。

この集会では、
8週齢(56日齢)規制を確実にすること
数値的な規制を盛り込むこと
繁殖業者を現在の登録制から免許制にすること
の3点を優先的に導入するべきと強く主張しています。

動物愛護法に関する緊急院内集会で発言する細川敦史弁護士
56日齢を確実にするには、「一般のみなさんがどう思っているか、業者がどう考えているか、犬猫の生年月日を証明するための担保措置が充実しているかがポイント。世論は周知のとおりで、大手のペット業者も56日でいいのではないかと言っており、56日齢を施行できる状況は整っているだろうと私は考えています」細川敦史弁護士
動物愛護法に関する緊急院内集会で発言する吉田眞澄弁護士
「法改正しても、それをしっかり動かす社会の仕組みができていないことは残念。今後は一人一人が自分に何ができるかを考え、形だけでなく、事実あるものにしていくことが大事です」吉田眞澄弁護士(右)「命を扱う人間が免許もないのはおかしいです。今回の法改正が通らないのであれば、日本は最悪の国だと思います」女優 浅田美代子さん(中央)
 

超党派議員による『犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟』で立ち上げられた『動物愛護法改正プロジェクトチーム(PT)』では、すでに改正案も作成し、法制局に提出済とのこと。

【動物愛護法改正案の一部(全60項目)】

1:法律の名称に「動物の福祉」を入れる
2:登録制も一部は残すが、規制強化すべきものは許可制に
3:第一種動物取扱業に実験動物取扱業や仲介業、輸送業を含める
4:飼養方法や飼養施設に数値基準を設ける
5:8週齢(56日齢)規制を完全履行
6:マイクロチップ装着の義務づけ
7:アニマルポリスを設置し、捜査権限を付与する
8:自治体における地域猫についての努力義務を明記
9:ガス室での殺処分を禁止
10:動物実験に対する3R(①代替法の活用、②使用数削減、③苦痛の軽減)
11:殺傷、虐待、遺棄などの罰則強化(最高5年以下の懲役または500万円以下の罰金)

条文ができた後には、各党に持ち帰り、協議がなされ、問題がなければ国会に提出されるそうですが、大方の見方ではスケジュール的に今期の国会には間に合わないだろうとのことで、おそらく秋の臨時国会に提出されるのではないかということです。

動物愛護法に関する緊急院内集会で発言する川田龍平参議院議員
「自分自身薬害エイズの問題を経験して、ずっと命をテーマに国の政策について活動してきましたので、動物の命についてもみなさんと一緒に守るための仕事をしていきたいと思います」川田龍平参議院議員
動物愛護法に関する緊急院内集会で発言する湯川れい子さん
「いろいろな国を訪れた経験から言いますと、弱い動物に対してちゃんと目配りがきく国というのは、子どもたちも幸せに暮らしている国、平和な国だと思います」音楽評論家 湯川れい子さん(エンジン01文化戦略会議動物愛護委員長)
動物愛護法に関する緊急院内集会で発言する世良公則さん
「家族、パートナーとして小さな命と毎日向き合っている人たちの想いは、議員のみなさんが思っているほど軽くはないです。法改正に反対する議員がいるなら、それは誰で、なぜなのか、ぜひ一般に知らしめてください。政治の世界の忖度など必要ない。そのまま一票投じればいい。だって、あなたたち議員の一票は、あなたたちに投票した我々の一票なのだから」ミュージシャン 世良公則さん

そもそも5年に1度の改正では時間がかかり過ぎるという意見もあります。それももっともな話で、犬や猫の寿命を考えれば、その間に一生を終えてしまうコたちはたくさんいるのですから。

さて、動物愛護法の改正、みなさんはどう考えますか?

参考資料:
*1-Prevalence of owner-reported behaviours in dogs separated from the litter at two different ages. L. Pierantoni, M. Albertini, F. Pirrone, Veterinary Record, October 29, 2011
*2-Canine aggression toward family members in Spain: Clinical presentations and related factors. Susana Le Brech, Marta Amat, Tomás Camps, Déborah Temple, Xavier Manteca, Journal of Veterinary Behavior 12, 36-41, 2016
*3-「中央環境審議会動物愛護部会」(第46回)、解析報告、麻布大学 菊水健史/環境省

大塚良重

犬もの書き、愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー 雑誌、書籍、Web、一般誌などで執筆を続けて20年以上。特に興味があるテーマは、シニア犬介護やペットロスをはじめとした「人と動物との関係性」。昨今は自身が取材をお受けすることも増えており、読売新聞、毎日新聞、サンデー毎日、クロワッサン、リクルートナビなどの他、ラジオ出演、テレビ番組制作協力なども。自著に、難病の少女とその愛犬の物語『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派。 ▶主な著書: 『りーた…

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