感動ふたたび! ハッピー「レスキュー」グルーミングコンテスト2018

東京ビッグサイトで開催された、日本最大規模のペットイベント「インターペット2018」。その一角で「ハッピーグルーミングコンテスト」も開催され、昨年大きな感動を呼んだレスキューグルーミング部門も行われました。昨年に引き続き、今年も保護犬のモデル犬と、動物福祉の意欲の高い “犬愛”あふれるトリマーさんたちの応援に行ってきました。


毎年来場者数が右肩上がりのビッグイベント

2018年3/29~4/1に開催した「第8回インターペット~人とペットの豊かな暮らしフェア」(主催:一般社団法人ペットフード協会/一般社団法人日本ペット用品工業会/メッセフランクフルト ジャパン(株))。年々規模が拡大しており、今年の来場者数は42,066人、ペットの入場頭数は16,455頭と、いずれも昨年と比べて1割増しでした。

その人気ぶりに合わせて、企業の出展数も、昨年の400社から今年は502社に増加。22か国・地域の企業が参加したそうで、会場内も実に国際色豊かでした。ヨーロッパやアジアのメーカーのものが増えた気がします。

そんなインターペットでは、グッズやおやつなどショッピングめあての飼い主さんも多いと思いますが、同時に、勉強になったり、興味深いプログラムもたくさん用意されており、今年はとくに「Good!マナーキャンペーン」に力が入っていて、毎日セミナーが開かれていました。このペットの一大イベントは単なるお祭りではなく、愛犬家にとっての学びの場ともなっています。

ほかのコンテストとは明らかに違うレスキュー部門

インターペットの目玉イベントのひとつが、「ハッピーグルーミングコンテスト」。現役トリマーのレベルアップを目的としたコンテストであるとともに、一般の人にもトリマーの技術(や苦労!?)を知ってもらうという意味もあります。たしかに、トリマーさんが働く作業中の姿をずっと見学させてもらうチャンスはなかなかありません。見ていると、いかにトリマーさんが犬に気を遣い、毛のことだけでなく、それ以上に犬の心をケアしているかがわかってきます。美しい姿に仕上げるための陰での奮闘ぶりを見ることができるのもこのコンテストの面白さであり、意義深いことだと思います。

競技では「クイックグルーム部門」(実務3年以上。対象犬種を40分以内に仕上げる)、「サロンスタイル部門」(普段サロンで行っているグルーミングスタイルのバランス、アイデア、技術力を審査)、「クリエイティブ部門」(カラーリングやエクステなどを自由に使用し、オリジナリティあるデザインを披露)、「ジャパンオープンスタイル」(海外からも参加者がくるアジア圏最大のコンテスト)など、全部で7部門あるうち、動物福祉に関心のある人が多く集まるのが「レスキューグルーミング部門」です。動物保護団体の協力で集めてもらった保護犬を、美しく健康的に変身させます。

この部門は、ほかの部門より明らかに特殊です。なぜならば、

自分でモデル犬を選べない(当日の朝、くじ引きで決まる)。
サロンで扱う犬種とは限らない(トイプードルもいれば、日本犬雑種もいる)
年齢、サイズ、毛の長さもいろいろ。
健康状態もバラバラ(後ろ足が立たず、自分で歩けない犬もいる)。
シャンプーやカットをしてもらうのが人生(犬生)初めての犬もいる(だから怖くて仕方のない子もいる。ましてやこんな広い会場なので、神経過敏になりやすい)。
ほかの部門の犬は、カットから始まるけれど、この部門は洗い、乾かすところから始まる。


通常のコンテストであれば、ハサミさばきが上手で早くて正確とか、デザインセンスがよいとか、独創性があるとか、そういう部分が評価されるのでしょうが、レスキューグルーミング部門は根本の評価のポイントが違います。

審査員のひとり、福山貴昭さんは「犬が安心できる、自信のある(トリマーがビクビクしながら犬を扱っていたら犬も不安になる)、優しい、包容力のあるグルーマーであることが、この部門で大切なことだと思います。ここにいるのは、一度は人の手が怖いと感じたことのある犬たちが多そうです。そんな犬にもう一度『人の手は優しいんだよ』と教えてあげられているか。そこを見させてもらっています」と、審査のポイントを教えてくれました。

審査員の福山貴昭さん(左)。ヤマザキ学園でグルーミング実習を担当し、7000名以上のグルーマーを育成してきた。犬にもトリマーにも愛がいっぱい

そしてもうひとりの審査員、アメリカから来日している中島かおるさんは「おそらくここにいるのは一度人間に裏切られた犬たち。幸い、団体に保護され、いまはここにいるけれど、それでも100%まだ命が助かったわけではないのです。このコンテストは、戦いではありません。自分の犬への愛を確かめるもの。シャンプーしながら、トリミングしながら、どんどん笑顔でアピールし、ここにいる保護犬を宣伝してくださいね。誰かがSNSで紹介してくれて、それが新しい出会いにつながるかもしれないのです」と語ります。
そして、そのとおりに参加者のトリマーさんは、慎重に犬の心と毛玉をほぐしながらも、笑顔で楽しそうにグルーミングしていました。このコンテストが素晴らしいなぁと思うのは、このハートフルな雰囲気なのです。

アメリカから来日した審査員の中島かおるさん(左)とVictor Rosadoさん


去年のコンテストのあと、里親決まる

このハートフルなコンテストは、昨年に続き他部門より人気があり、今年もすぐ定員に達したそうです
。予想以上に応募が殺到したため、当初募集定員は30人でしたが、35人に参加者を増やしたほどです。それだけ犬を深く愛するトリマーさんがいて、社会貢献したい、きれいにして飼い主さんが見つかる一助になりたい、と思っている証しだと感じます。

昨年もモデル犬集めに尽力した団体さんのお話しだと「どんな子もきれいにしたら、もらわれる確率は増えます。去年のコンテストのあと、決まった子もたくさんいます」。最終的に、昨年のモデル犬は1頭を除いてすべて里親さんが決まったそうです。そして唯一残ってしまったダイスケは、今年もリベンジ参加!トリマーさんは立てないダイスケの横にしゃがみこんで、ダブルコートの毛をずっと梳いていました。となりには抜け毛の山。なんて優しく忍耐力のあるトリマーさんなのかと思いました。

特別賞に輝いたダイスケ。立てないダイスケを愛おしむように、グルーマーさんがずっとアンダーコートを梳いてあげていた。ダイスケのお問合せは、アニマルプロテクション神奈川まで

そして今年の入賞者が決まりました。上位3位以外に、審査員の意向で「かおる賞」と「特別賞」も急ぎ追加されました。どちらも立てない起立不全の犬です。審査員のかおるさんは「この子たちははずせない。ずっと寝たままなのに、最後まで安心した目でトリマーさんに身を委ねていました」と、犬を撫でながら評されました。みな目をうるませながら、惜しみない拍手を送りました。

かおる賞に選ばれたクリスタルちゃん。起立不全なのでペットシーツを敷いた上で優しくグルーミングされていた。こんなにきれいになって、美人さんだね! クリスタルのお問合せは、ワンダフルドッグまで

もちろんトップ3の入賞者も素晴らしかったです。犬の気持ちを落ち着かせる包容力とテクニック、シザリングワーク(ハサミさばき)、先に作業が終わったときに一工夫して首飾りを手作りしてデコレーションするなどの技術が評価されていました。保護犬かどうかなんてもはや全然関係ありません。ここにいるのは、愛情深いトリマーさんの手によって、美しくしてもらった「犬」です。

入賞したトリマーさんと団体さんのみなさん。1位はポメラニアン(真ん中のトロフィーの女性)、2位はトイプードル(後列左から2人目の女性)、3位は黒いチワワ(後列右から3人目の男性)


明るくオープンな保護犬の啓発活動が大事!

このコンテストは、保護犬集めも大変です。当日までに新しい飼い主さんのもとへ行くことになったらもちろんそちらを優先しますから、頭数が前日まで確定しないのです。また参加トリマーさんに対してもなるべく同じ条件にしたいので、できればシャンプーしていない、ありのままの保護犬でエントリーしたいというのもあり、状態を揃えるのもなかなか大変。しかも若くて健康な犬ばかりとは限らないので健康状態の変化もあります。犬に負担を強いてまで参加させるようなことはしません。だから、このイベントのために保護犬集めに苦労された動物保護団体のみなさまにも大きな拍手を送りたいと思います。

Do One Goodの高橋一聡さん(左)。動物福祉団体4つと連携し、保護犬のモデル犬を集めるのに奔走。レスキューグルーミング部門は人知れず縁の下の力持ちのみなさんの努力で成り立っている

でも、なかには「保護犬を見世物にしている」などの批判もあるようです。しかし、まだまだ世間一般では「犬はペットショップで買うのが当たり前」「保護犬ってなに?」「汚いし咬むんじゃないの?」などという知識しかない人も大勢います。だからこそ、さまざまな場面とチャンスを利用し、まずは保護犬の存在を、そして普通の犬と変わらぬチャーミングな存在であることを多くの人に知ってもらうことが重要ではないでしょうか。このコンテストは、保護犬という存在が途切れない日本の現実を思い出せてくれる場であり、保護犬の譲渡促進のチャンスともなり、そして「犬は人を裏切らない。いつも人間を大好きでいてくれる存在」であることを改めて教えてくれる、かけがえのない場なのです。

今年はエントリーした35人のトリマーさんのために、4つの動物福祉団体が、控えモデル犬も含めて42頭の犬を集めてくれました。しかも最終的には42頭ともみんなきれいにグルーミングしてもらって、ピカピカ、フワフワに(競技に関係なく、全頭きれいにしてくれるというのも、このコンテストの愛のあるところ)。このコンテストは、トリマーさんも審査員も保護団体の人も関係スタッフも、みんなが笑顔になれるステージなのです。来年も絶対にまた応援に来たいです。そして保護犬やトリミングに関心のある人でもない人でも、ぜひ来年応援に行ってみてください。犬好きの人ならじーんと心が震えるコンテストです。

そして! 今年エントリーしてフワフワのカワイコちゃんになった35頭(控えモデルも合わせると全部で42頭)の犬たちに、新しい飼い主さんとの素晴らしい出会いがありますように。心から願っています。

今年のレスキューグルーミング部門には、中国、台湾、アメリカからの参加者も。中国からこのコンテストのためだけに数日間日本にやってきたXu Tingさん。翻訳機片手に少しだけお話しできたが、中国でも動物福祉に関心のある人は増えてきているそう。世界中がみんなそうなるといいね!
【取材協力】
ハッピーグルーミングコンテスト
主催:メッセフランクフルト ジャパン(株)/Happy Grooming コンテスト実行委員会/(有)ハッピーべル
<レスキューグルーミング部門>
特別協力:
Do One Goodアニマルプロテクション神奈川(神奈川県)ワンダフルドッグ(埼玉県川口市)一般社団法人はーとinはーとZR(東京都港区)ピースワンコ・ジャパン湘南譲渡センター(認定NPO法人ピースウインズ・ジャパンが犬猫の殺処分ゼロを目指して活動しているプロジェクトチームの譲渡センター。神奈川県藤沢市)

<関連コンテンツ>
昨年の様子はコチラから ↓

インターペット・ハッピーグルーミングコンテスト 笑顔と涙のレスキュー(保護犬)グルーミング部門

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

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