服部幸先生が語る!今増えている猫の誤食とは?新刊『猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑』の背景

こんにちは。猫の本専門の出版社「ねこねっこ」 代表の本木文恵です。

この度、ねこねっこ刊行書籍第2弾『猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑 〜誤食と中毒からあなたの猫を守るために』 が、2021年3月12日に発売となりました。

本書は、猫が本来食べないはずの異物を口にしてしまう「誤食」や、猫にとって有害となる成分を含む食品や植物、化学製品など「中毒」の原因となる身近な物を正しく知って、事故を防ぐ方法や、起きてしまった場合の対応がわかる1冊になっています。

愛猫の命を守る “御守り”として、飼い主さんたちに広く活用してほしい。そんな想いから、監修者である服部幸先生(東京猫医療センター・院長)とともにじっくり時間をかけて作りあげました。本稿では、服部先生とお話しながら、制作の意図や本の中で書ききれなかった猫の誤食・中毒のポイントなどをお伝えできたらと思います。

オンライン対談風景_「猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑」を持つ服部幸獣医師

※第1冊目となる書籍『猫からのおねがい 〜猫も人も幸せになれる迎え方&暮らし』発売時の記事はこちらからご覧いただけます。
『猫からのおねがい』出版記念対談! 監修の猫専門医・服部幸先生と語る「令和の猫の迎え方&暮らし」

<お話を伺った先生>
東京猫医療センター院長 服部 幸先生

2003年北里大学獣医学部卒業。動物病院勤務後、2005年より SyuSyu CAT Clinic 院長。2006年、アメリカのテキサス州にある猫専門病院「Alamo Feline Health Center」にて研修プログラム修了。2012年「東京猫医療センター」を開院し、2013年には国際猫医学会よりアジアで2件目となる「キャットフレンドリークリニック」のゴールドレベルに認定された。著書に『ネコにウケる飼い方』(ワニブックス PLUS新書)、『猫の寿命をあと2年のばすために』(トランスワールドジャパン)、監修に『ネコの看取りガイド』(エクスナレッジ)ほか。

 

「誤食・中毒」のまとまった情報がなかった

PetLIVES編集部:今回の「誤食・中毒」だけにテーマを絞った本を作ろうと提案したのは、どちらからでしょうか?

本木:提案は、私からでした。猫の健康管理に関する情報を目にする機会は増えていますし、家族の一員として「愛猫にもずっと元気でいてほしい」という飼い主さんはたくさんいらっしゃいますよね。ただ、そんな中でも、猫が異物を口にするリスクは「命にかかわることがある」にもかかわらず、「見落とされやすい」「まだ知ってもらえる部分がある」のではないかと。そんなふうに感じたのがきっかけです。

「猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑」p22-23
たとえばペット保険のアニコムさんの調査「アニコム 家庭どうぶつ白書2019」でも、「消化管内異物/誤飲」が猫の手術・入院理由の2位。治せない難しい病気と違って対策が可能だからこそ、事故が起きたときに「猫に危ないと知っていれば……」と飼い主さんが後悔されることが多いように感じます。それに、「同じことをほかの人や猫に繰り返してほしくない」と願う声も聞きます。

であれば、猫の好奇心や食性なども踏まえた、猫向けの誤食・中毒対策本が1冊あったら、役立てていただけるのではと思って、服部先生に相談しました。

「猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑」p10-11
(紙面イメージ)

服部先生:誤食や中毒に関する情報って、インターネットにたくさんあるけれど、断片的なものが中心で、しかも「どれが正解か」を飼い主さんが判断するのが難しいんですよね。だから今回、食品と植物と家庭用品の情報すべてがまとまったものを作れて、よかったと思います。……可愛いし。表紙、いいですよね。

本木:はい、可愛いです(笑) SNSでは「ジャケ買いしました」という声も多数いただきました。読み終わって本棚に戻して「あれ、なんだっけ?」ってもう思い出せなくなるような本ではなくて、部屋の目立つところに置いて気になった時にさっと読み返して対策に役立ててもらえる “飾れる実用本”がいいと思って。イラストレーターの霜田有沙さんがそうした意図を汲んで、心を込めて描いてくださったんです。

服部先生:情報がくわしいし、結構マニアックなところまで書いてあって。いい本にできたと思います。猫を飼っている全ての方に読んでほしいです。

「猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑」表紙

「保護猫は誤食しやすい」「純血種なら安心」とは限らない

本木:たとえば植物の中毒は1才までの猫が半数を占めるという報告もあり、ほかの調査からも、年齢が低い猫に誤食事故が起きやすい傾向がうかがえます。服部先生の診察でも、実際に誤食で診察するケースは若い猫が多いですか?

服部先生:そうですね、若い猫が圧倒的に多いです。体がまだ小さい子猫だと、おとなの猫よりも開腹手術が難しいので大変ですね。

ネズミのおもちゃで遊ぶ子猫
獣毛でできたおもちゃは、猫が夢中でかじって一気に食べてしまうことも。

本木:初めて猫を飼う方が「こんな物にまで興味を示すんだ」とわかってくる前に命に関わる事故が起きる可能性がありますよね。

猫の保護ボランティアさんから、本の感想として「これから保護猫を迎えたい方にアドバイスできて助かる」と意見をいただきました。「〇〇が猫の体に毒」とネットの情報から得ていたけれど、その根拠を「ネットに書いてあった」じゃなくて「この本に書いてある」と具体的に注意喚起できるからって。

「猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑」目次
章ごとに、猫が食べると危ない「食品」「植物」「家の中の物|誤食編」「家の中の物|中毒編」を分けて解説。

PetLIVES編集部:服部先生、「保護猫だからこそのリスク」というのはあるんでしょうか? たとえばうちの猫は純血種で異物にまったく興味がないですが、保護猫を迎えたスタッフからは「何でも口に入れてしまうので徹底して片付けている」と聞きます。幼少期の食性って、関わってくるんでしょうか?

服部先生:僕の実感としては、「純血種だから少ない」とか「保護猫は多い」とかはあまり関係ないかな……。純血種の猫でも、おもちゃの誤食はよくありますからね。ただ「保護猫」に多いというよりも、保護される前のノラ猫時代に「飢餓状態を経験していた猫」は、いろんなものを食べてしまいやすい傾向はあるように感じます。とくに、玉ねぎが入ったハンバーグとか、中毒を起こす料理は注意が必要です。

「ジョイントマット」は開腹手術に至りやすい

本木:十数年にわたって猫だけを診察してきた獣医さんの体験として、本書で紹介した物の中で、「とくに事故が多い」と感じるのはどれでしょうか。

服部先生:床に敷くジョイントマットです。

本木:即答ですね……! ジョイントマットの事故は、本書でも飼い主さんの体験談を掲載していますが、先日、猫の保護に関わる団体さんからも譲渡した猫がマットを食べて腸閉塞で命を落としたというお話を聞いたばかりでした。

ジョイントマットの張った部屋にいる子供の足
服部先生:あとは、うちの診察ではシリコーン製品の誤食が多いですね。まさにこの対談のテーマですが、先ほどもシリコーンでできたおもちゃを食べてしまった猫の内視鏡の手術をしていました。

本木:えっ、そうなんですか。

服部先生:シリコーンは大変ですね、内視鏡でもなかなか取れないことがあって……。今回もこのまま取れなければ開腹手術……という段階で、なんとか取れました。今回は胃に留まってましたけど 、ジョイントマットもシリコーンも弾力があって腸に詰まりやすくて、開腹手術になりやすいです。ジョイントマットだけで、猫の開腹手術の経験が十数回あります。

猫のレントゲン画像
こちらは猫の胃の中で留まっている首輪の鈴。開腹手術で摘出したそうです。

猫の誤食事故は、人の暮らしの変化と連動?

本木:ジョイントマットや、シリコーン製品の誤食は「増えている」と実感しますか?

服部先生:増えてますね。どっちも柔らかくて噛み心地がいいし、猫が数回噛んだだけでちぎれて飲み込めてしまうんでしょうね。ただ、それだけじゃなくて、異物を食べてしまう猫自体が年々といっていいほど「すごく増えている」印象があります。

オンライン対談風景_服部幸獣医師
本木:ジョイントマットもシリコーン製品も一般的に広く使われるようになってきたのは、そう昔のことではないことを考えると、「家庭の中に猫がかじりやすい製品が溢れてきている」ことが、誤食事故とも関連するのでしょうか。本の制作中には、スマホとかの充電ケーブルの誤食も多いとお話しされていましたよね?

服部先生:多くなってきていますね。通常の電気コードよりも柔らかくて嚙みちぎりやすいんでしょうね。充電ケーブル自体は前からあるけれど、今はスマホだけじゃなくて、ワイヤレスイヤホンとかBluetoothを使ったポータブル製品があるから、充電ケーブルを使う頻度も増している。飼い主さんが使う製品の変化が、誤食に影響しているのかもしれないですね。

エッセンシャルオイルは猫がいる部屋では拡散させない

本木:本書では、最近の家庭内の環境という観点を踏まえながら猫の中毒リスクについても触れています。その中の一つ「エッセンシャルオイル」について。服部先生の診察でも、オイルを使っていた家庭で、猫の体調不良があったとか。

服部先生:ユーカリのオイルを焚いていたおうちの猫で、急性腎障害 になった子がいます。ただし、「この猫はユーカリオイルが原因で腎臓病になった」という因果関係までは証明できません。直接口にしてすぐに不調をきたしたというわけではないので、1つの例だけでそのオイルの間接的な摂取が特定の病気の原因につながったとまでの判断をすることはできないんです。

アロマオイルは危険性がまだはっきりしない種類も多いので、だから今の段階では、「猫のいる部屋では使わないほうがいい」というアドバイスになりますね。

アロマディフューザー
本木:植物でいうと、「ユリ」中毒は有名ですよね。そして「ポインセチア」も有名。ただ、ユリ中毒は猫の死亡事故が多数報告されているものの、ポインセチアに関しては、アメリカの動物中毒管理センター(APCC)のレポートでも「一般的に毒性が過大評価されている」「適切に対処すれば通常はそれほど危険ではない」とされています。

もちろんどちらも猫が食べないようにしたいですが、ユリやポインセチアなどの特定の植物に関心が向きやすく、その間にあるポインセチアよりも警戒したい身近な観葉植物や花があまり知られていないのかなと感じました。

服部先生:第2章の「危険な植物」は、獣医さんが読んだらいい……なんて偉そうなことは言わないけれど、新人の先生であれば知らないこともあるだろうし、診察室で飼い主さんへの説明にこの本が役立つと思います。

「猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑」p68-69
本木:ちょうど今日、動物病院の先生から病院でこの本を販売したいとご相談がありました。獣医療の現場で役立てていただけるのは本当に嬉しいです。診察を待っている飼い主さんが気軽に読めるように、待合室の本棚にもぜひ1冊(笑)。
お花屋さんや、食品、家庭用品を販売するメーカーさんなど、商品を取り扱う方達にも、飼い主さん向けのアドバイスのために広く活用していただけたらと思っています。

猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑 ~誤食と中毒からあなたの猫を守るために

プレゼントの応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。
猫が食べると危ない物図鑑プレゼントバナー_close

【Information】

◆猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物 超・集中講座!
※このイベントは終了しました
「誤食・中毒」から愛猫の命を守るための知識を、がっつり集中して学ぶための1時間半。
服部先生がこれまで実際に診察・手術を行ってきた猫の誤食や中毒のケース、獣医師間で共有している情報などを踏まえながら、飼い主さんがとくに気をつけたいポイントを解説します。
日時:2021年6月12日(土)21:00~
場所:Zoomオンラインセミナー
講師:服部 幸先生
共催:クマ研×ねこねっこ
詳細・お申し込み:こちらをご覧ください。
 
『猫が食べると危ない食品・植物・家の中の物図鑑』展を開催
※このイベントは終了しました
会期:2021年4月7日(水)~4月25日(日)
場所:愛知県名古屋市「Café Chaton Rouge カフェ・シャトンルージュ」
お問い合わせ:Café Chaton Rouge カフェ・シャトンルージュ
愛知県名古屋市中区丸の内一丁目8番39号 HP丸の内ビル1F
TEL.052-212-5125
 
『猫が食べると危ない食品•植物•家の中の物図鑑』発売記念、服部幸先生トークイベント開催
※このイベントは終了しました
最近の猫の誤食事情についてetc.お話します。
日時:2021年4月7日(水)18:00~
場所:書泉グランデ7階イベントスペース(神保町)
お申し込み:書泉グランデ5階店頭ほか、お電話・メールでご予約ください。
詳細はこちら
TEL.03-3295-0011

本木文恵

猫の本専門出版「ねこねっこ(neco-necco)」代表、1級愛玩動物飼養管理士。 2007年よりねこ雑誌の編集部に在籍し、2017年に独立。2018年4月にwebマガジンとして立ち上げた「ねこねっこ」を、2020年3月より猫の本専門出版とし、新たにスタート。フリーランスの編集者としても活動する。 ▶︎HP:ねこねっこ

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