インターペット・ハッピーグルーミングコンテスト 笑顔と涙のレスキュー(保護犬)グルーミング部門


春到来。陽気がだんだんよくなり、犬とのおでかけが気持ちのいい季節となりました。そういうタイミングで毎年開かれる「Interpets(インターペット)~人とペットの豊かな暮らしフェア ~」(主催:一般社団法人ペットフード協会、メサゴ・メッセフランクフルト株式会社)が、今年も大々的に開催されました。
※開催期間:2017年3月30日 (木) ~ 2017年4月2日 (日) の4日間です。

インターペットはまさに日本最大のペット関連業界の祭典で、犬とヒトがともに暮らす生活が多様化している時代のニーズを現すかのように、ペットフード、トリーツ、首輪、犬服などの従来のペット関連のメーカーにとどまらず、自動車メーカー、住宅、家電、旅行など、多彩なジャンルのメーカーが出展していました。
グルーミングコンテスト_2

私はプライベートも含めて、4日間とも通ったのですが(犬馬鹿すぎる)、それでも全部見終わらない規模です。なにしろ東京ビッグサイトの東1〜3ホールをぶち抜きで使っている広さ。年々、会場が広くなっているような気がします。いまなおペット業界は勢いがあるなぁ、つまりはペットを愛する人が着々と日本に増えている証しだなぁと圧倒されました。

インターペットでは、お買い物目当ての人も多いですが、イベントも実に充実しています。芸能人もやってくるし、聴導犬、介助犬、災害救助犬のデモンストレーションや犬の撮影会、子どもたちがトリマー体験ができる「未来トリマー」など、とにかく会場内のあちこちに設置されたステージやアリーナなどで連日催しが行われていました。
グルーミングコンテスト

そして今年初めてインターペットで「ハッピーグルーミングコンテスト」が開催されました。日本各地から集まったサロンや動物病院で活躍するグルーマーが技術を競うコンテストで、出場クラスは4つの部門に分かれていました。

★クイックグルーム部門エントリークラス
実務経験3年未満の初心者がエントリーできる部門。対象犬種を制限時間40分以内に仕上げる、時間にこだわったクラス。★クイックグルーム部門オープンクラス
実務経験3年以上のクラス。対象犬種を制限時間40分以内に仕上げる。トリマーのレベルアップを競う。★サロンスタイル部門
普段からサロンで行っているグルーミングを自由なスタイルで披露する。バランス、発想力、技術力を審査される。トリマー歴不問。

★レスキューグルーミング部門
レスキュー団体協力のもと準備した保護犬をグルーミング。朝、初めて出会ったモデル犬を、制限時間150分以内にシャンプーから仕上げる。トリマー歴不問。

グルーミング_1レスキューグルーミング部門のコンテスト。雑種を含み、さまざまな犬種が同じ土俵で審査される特別な部門

私は、その中でレスキューグルーミング部門にとても関心がありました。パピーミルや多頭飼育崩壊現場などで、劣悪な環境で過ごし、人生(犬生)で一度もグルーミングされたことのないような、汚く、臭く、毛玉だらけの犬たちを、愛護団体が保護した際にきれいにグルーミングするボランティアのトリマーさんたちがいることは知っていました。プロのトリマーの技術なしには、手際よく、咬まれず、美しい姿にすることはできないので、そういう陰ながらの活動に今までも頭が下がる想いがしていました。

グルーミング_5頭部の毛玉がすごいプードルっぽい子もいます。

今回のこのレスキューグルーミング部門は、そのようなトリマーさんの技術と博愛的な優しさと日々の努力を知ってもらう、素晴らしいチャンスだと思います。しかしながら、同時にすごく難しい部門だとも思うのです。

なにしろ今までシャンプー経験のない犬もいるかもしれません。人間の手が怖くて、臆病で、過敏で、咬もうとするかもしれませんし、ブルブル震えて固まる犬もいそうです。雑種もいるでしょう。普段仕事で扱っている犬種とは毛量やスタイルも全然違う犬が多いはず。小型犬も超大型犬もいます。しかもコンテスト当日の朝、初めて会い、くじ引きで、どの犬を自分が担当するかを決めるとのこと。こりゃ、かなりロシアン・ルーレット的じゃないですか!

グルーミング_12出場犬パーソナリティチャート。「天真爛漫」「エネルギッシュ」「シャイ」「ビビり」「おとなしい」「のんびり」「物怖じしない」「好奇心旺盛」など。どの子を担当するかは当日の朝のくじ引きで決まる。

日本で初めて(!?)かもしれないこの保護犬のグルーミング・コンテスト。でもアメリカではすでに社会的に認知されており、このコンテストで優勝することはとても名誉なことなんだそうです。難しいからこそ、このコンテストはやりがいがあり、評価もされるのでしょう。犬の個々のキャラクターをよく見極め、犬の心を感じ取り、負担がないようにグルーミングして、清潔に、その子らしい可愛さを引き出すという技術力、観察力が試されます。

グルーミング_3コンテスト中は獣医さんが待機。こわがりさんの犬の健康状態もつねにチェック

とはいえ、こんな大変なコンテストにちゃんとエントリーが集まるのかしら?と勝手に心配していたのですが、主催者側のお話では、なんと4部門の中でこのレスキューグルーミング部門が真っ先にエントリー数が埋まったそうです。すごい。びっくり。それだけトリマーさんたちも保護犬への想いや社会に貢献したい意識が高い証しではないかと思います。日本もなんだか変わってきたなという勇気をもらいました。

グルーミング_7モデル犬は、犬種もサイズも毛の長さも年齢もバラエティーに富んでいる。おとなしくシャンプーされているハウンド系。トリマーさんのまなざしも優しい。

保護犬を集めたのは、一般社団法人Do One Good。企画運営側から協力依頼がきたそうです。しかし当初は、グルーマーのエントリー数と同じだけの30頭を集められるか心配だったとのこと。臆病すぎたり、持病があったりで犬に負担がかかりすぎる子は選べません。何よりも動物福祉の視点が第一優先ですから。でも当日は、無事に31頭(1頭は何かあったときのための補欠)集めることができました。

グルーミング_23つの団体から集められたモデル犬。当日の朝、くじ引きできまる!

一般のグルーミング・コンテストでは、コンテスト直近の2週間前からシャンプーもカットもしてはいけないそうですが、Do One Goodの高橋一聡さんは「そのルールと同じく、保護しても2週間臭いまま(笑)、つまりなるべく保護したばかりの子にしたかった」と言います。

そうしてアニマルプロテクション神奈川ワンダフルドッグ(埼玉県川口市)ピースワンコ・ジャパン(広島県神石郡神石高原町)の3団体の協力で、無事に犬が揃いました。

でっかいピレネー・マウンテン・ドッグや毛の長めのシェパード、ハウンドらしき大型犬から、ガブガブ咬んじゃうトイ・プードル、推定10歳以上のシニアの日本犬など、姿形も、大きさも、毛の長さも、年齢も、実にバラエティー豊か。サイズ的に、あるいは性格的に、手強そうなのもいます。

グルーミング_8でっかいピレネーもいます! さあ、シャンプーに行くよ、どっこいしょ!

グルーミング_9スヌードをつけてもらった大柄な長毛のシェパード。ここにいる犬たちはみんな保護犬。

それでもみなさん、その犬をゆっくり観察し、作業に取りかかります。あるエントリーした参加者は「力じゃなくて話せばわかる。台(トリミング・テーブル)の上が怖いのなら、床に座ってブラッシングしてあげればいい。犬の呼吸に合わせてあげるとできるんですよ」と、優しく犬を包み込むように抱くようにしてブラシをしていました。

グルーミング_6動物病院でトリマーをしている浦和さんは、優しく抱っこしながら「この子は、たぶんドライヤーは嫌いです。さっき音に敏感に反応してましたから」と言う。観察力がすごい。「動物病院にトリミングに来る犬は、老犬、心臓病、ガン、噛み癖などがあり、サロンで断られたという子も多いので、こことそんなに大差はないです」と微笑む。このコンテストにエントリーした理由は「ショートリマー、サロントリマー、動物病院トリマーというトリマー界の溝が埋まればいいなと思って」とのこと。そういう垣根がなくなるといいですね

会場内は、普通のタイムや出来映えを競うコンテストのようなピリピリした空気はなく、ゆったりのんびり、優しく気を遣ってやっているほんわりとした空気に包まれているのも、レスキューグルーミング部門の特色でしょう。見ている側も幸せな優しい笑顔になってきます。どの犬も、どのトリマーさんも頑張れって。

立派なトロフィーが並べられ、ついに特別賞と3位、2位、1位が発表されました。でも、ジャッジの先生が言った「私から見たら、みなさんが(全員が)1位です」という言葉が印象的でした

グルーミング_111位は多頭飼育崩壊現場から保護された白いトイ・プードルのガトーショコラちゃん(緑のエプロンの方)、2位はレスキューしたばかりでまだ名前がないガブガブ犬だった薄茶のトイ・プードル、3位は飼い主に飼育放棄されたピレネーのピーちゃん

ジャッジの先生も、選ばれたトリマーさんも、保護犬を連れてきた団体の人も泣いています。「きれいになったね。可愛くしてもらったね」。こちらまでもらい泣きしそうになりました。

グルーミング_10ピレネーのピーちゃんは3位入賞!ジャッジの先生(右)、アニマルプロテクションの方(左)、そしてグルーマーとお手伝いした方々みんなで記念撮影。涙がこぼれる。

日本の犬を取り巻く環境、犬への理解、保護犬への扱いなどがどんどん動物福祉に適ったものに近づきつつある。そう確信した1日となりました。エントリーしたトリマーさん、保護犬を連れてきた団体のみなさん、そして大役を立派にこなし、きれいになったモデル犬の保護犬たち。みんなにトロフィーをあげたくなる素敵なコンテストでした。

レスキューグルーミング部門は、来年もその次も、ずっと続いてほしいなと思います。みなさん、お疲れ様でした!

【取材協力】
レスキューグルーミング部門
協力:(有)ハッピーべル/(株)プランテージ
協賛:日本アニマル倶楽部(株)
特別協力:
Do One Goodアニマルプロテクション神奈川ワンダフルドッグ(埼玉県川口市)
ピースワンコ・ジャパン(認定NPO法人ピースウインズ・ジャパンのプロジェクトチーム。広島県神石郡神石高原町)

 

白石かえ

犬学研究家、雑文家 東京生まれ。10歳のとき広島に家族で引っ越し、そのときから犬猫との暮らしがスタート。小学生のときの愛読書は『世界の犬図鑑』や『白い戦士ヤマト』。広告のコピーライターとして経験を積んだ後、動物好きが高じてWWF Japan(財)世界自然保護基金の広報室に勤務、日本全国の環境問題の現場を取材する。 その後フリーライターに。犬専門誌や一般誌、新聞、webなどで犬の記事、コラムなどを執筆。犬を「イヌ」として正しく理解する人が増え、日本でもそのための環境や法整備がなされ、犬と人がハッピ…

tags この記事のタグ