獣医師に学ぶペット栄養学。愛犬がゴハンを残す・食べない・消化できないときの対策

愛犬の食欲やごはんで困ったことはありませんか?はい、私はあります!初代の愛犬は病気で食欲が落ちてしまい、食べられるものをひたすら工夫する日々でした。実は昨年迎えた2代目の子犬も、まさかの食欲不振……。なぜ食べられないのでしょうか。理由は病気やわがままだけではありません。本記事では食について考えてみたいと思います。

【お話をうかがった獣医師】
古山範子先生
麻布大学獣医学科卒。動物の心と体の健やかさを願い、手作り食を始めとするナチュラルケアを中心に活動している獣医師。16歳半で他界した実家の愛猫チャカの協力を得て、手作り食の素晴らしさに開眼。現在は、「Aroma Space Nico ペットのためのホリスティックケア講座」を始め、種々のホリスティックケア講座の講師、「チロとサクラのクリニック」非常勤、『てづくり猫ごはん』監修(大泉書店)など幅広く活躍中。
チロとサクラのクリニック

 

犬がごはんを食べられない理由とは?

愛犬がごはんを食べない(残す)とき、飼い主の皆さんはどのように対処していますか?体調が悪そうでなければ、「わがままかな?」と思って様子を見てしまいますよね。私も初代の愛犬ジュウザがドッグフードを少し残したときも、「久しぶりにトッピングを催促しているのかな?」とのんびり考えたものでした。その後、病気とわかってからは、専門家に相談して食事療法を始めました。
ジュウザはひとことで言えば「病気で食欲がない」状態ですが、日々観察していると食べられない(食べたくない)食材と傾向がわかってきます。例えば嗜好性が低い、食べ慣れない、食べづらい、脂っぽい、においが薄い食材。人も好きではないものやこってりしたものを食べたくないときがありますよね。元気な犬も同じような理由が考えられるので、ごはんを見直すのも一つの方法でしょう。

昨年7月に迎えた2代目の愛犬サウザーは元気いっぱいで、健康診断でも超優良印!でもごはんをあまり食べませんでした。甲斐犬で1日80g(約300kcal)は少ないような?食器やドッグフードを変えても変わりませんでした。どんどんやせていくというわけではないものの、体重が3週間も増えず。ところが生後6カ月を過ぎた11月から食欲が増して、200gを余裕で完食できるように!子犬の頃に食べなかったのは、消費エネルギーが少ない夏だったからかもしれません。

ジュウザが食べられる嗜好性の高いごはんを用意。そのときの体調や私の都合で手作り食にしたりドッグフードを組み合わせたりした。半強制給餌になってからは、嗜好性よりもスムーズに飲み込める形状が重要になった。写真はサウザー。
サウザーも生後6カ月頃まで少食。手からあげたり口に数粒押し込んだりすると、勢いがついて急に食べ始めることはあった。子犬の頃からにおいに敏感で、食べ慣れないものを警戒するのは今も同じ。

 

健康を考えたバランスのよい食事にする

犬のごはんは総合栄養食のドッグフードを中心に、さまざまな種類があります。手作り食は健康に良さそうですが、作る時間の確保や栄養バランスの調整が難しいですよね。「ペットのプロにこそ知ってほしい!犬猫への手作り食」セミナーで、講師の古山範子先生が解説していたペットのごはんについて紹介しましょう。

「完全手作り食の中には、生のお肉をメインにした『生食』、穀類を煮込んだおじやの『加熱食』があります。私は、お肉を少し加熱して半生にし、穀物と野菜にはしっかり火を通した『半生加熱』のおじやを提案することが多いです。興味がある方は、ペットフードと食材を併用した『プチ手作り食』や『トッピングごはん』から始めてみては?いま与えているフードに含まれる食材を使って切り替えていくといいでしょう」
犬の飼い主さんは手作り食の中で生食を与えている方が多いそう。古山先生によれば、生食が合わない犬もいるとか。特に生肉を冷たい状態で与えている場合、胃腸に負担がかかっている可能性があるので見直しましょう。

古山先生が講師を務めたセミナーは、「PET JOB交流会※」で行われた。ペットに関わるさまざまな分野の方々が参加し、熱心に耳を傾けていた。 ※アシスト・ヒューマンリレーションズ一般社団法人「女性獣医師ネットワーク」共催

 

食事を変えれば体調も性格も変化する

古山先生によれば、手作り食に変えてから体調が改善するケースが多いそうです。人の食事療法と同じで、健康に役立つ面があるのでしょう。
「体調が整ったり、精神面が安定したりする効果を感じています。心身が健やかになる食事といえるでしょう。実は『手作り食に変えたら攻撃的になった』という話も聞いたことがあります。食事内容は生食、ジビエ、内臓を多く使うものでした。野性味が増すのでしょうか。栄養バランスの問題かもしれないので、生食に限らずどのような食事でも注意したいですね」
犬の飼い主さんが「プチ手作り食」や「トッピングごはん」に取り入れる食材ベスト3は、キャベツ、ブロッコリー、ササミ。これらの与え方にも工夫が必要だそう。
「鶏肉はアミノ酸のバランスが良いたんぱく源ですが、ビタミンAが豊富。体に蓄積されるビタミンなので摂りすぎないほうが無難です。アブラナ科のキャベツやブロッコリーは、食べ過ぎると甲状腺のトラブルの心配があります。食材には一長一短があるので、上手に取り入れましょう

食事による心身の変化に注目したい。栄養バランスの整ったごはんが体調と性格に安定をもたらす。

 

手作り食のメリットとデメリットは?

手作り食は愛犬に合った栄養バランスになり、愛情もプラスできて満足感も得られます。特に愛犬がシニアになったときに大きなメリットを感じるかもしれません。
「手作り食はドッグフードに比べて消化吸収に優れているので、胃腸の負担が少なくて済みます。やせないように維持していく、おいしく食べられる、という点では手作り食がおすすめです。ただしどうしても量が多くなるので、病気などでたくさん食べられない場合は、手作り食だけだとやせてきてしまう場合も。少ない量でカロリーを摂れる療法食を併用したほうがいいですね。食事は最期まで飼い主さんが自宅でしてあげられることなので、ペットロスの軽減にもつながると思います」

さまざまなメリットがある一方、忙しいときは大変ですよね。デメリットも理解したうえで、無理なく続けることが大切でしょう。
「手作り食は甘やかしや贅沢につながるともいわれることもあります。犬が食べたいものだけを与えれば甘やかしになりますが、作るのは栄養バランスを重視したごはんですから。逆に栄養バランスが偏ると、ミネラル不足で貧血や低カルシウム欠症を起こすこともあります。確かにドッグフードより費用はかかりますが、飼い主さんがペットの様子を観察する機会が増えるので病気の早期発見につながり、治療費が少なくて済む可能性も(笑)」
心配な場合は専門家に相談することが大切。わが家の愛犬たちも専門家の指導を受けました!

▼メリット
・安心・安全な食材で作れる
・食材の栄養(アミノ酸、タウリン)をそのまま取り入れられる
・愛情をかけられる
・ペットロスのリスクを軽減できる、 など

▼デメリット
・フードよりも手間がかかる
・栄養バランスが難しい
・費用がかかる
・フードを食べなくなりそう、 など

食べ物を得るために努力させてみる

犬の1日のスケジュールは「食事」「運動」「睡眠」という3つで成り立っていることが多いと思います。うらやましく見えますが、変化がない日常はつまらない気もしますよね。例えばごはんの時間を1分足らずで終わらせず、長く楽しめるように工夫する方法もあるそう。

「家庭の動物は『何かやりたい!』と思っても刺激が少ない暮らしを送っているので、その欲求が食に向かうことが多いんです。だから太ってしまうんですね(笑)。食べ物を鼻で探し当てる『ノーズワーク』や、取り出すのに労力を使う『知育玩具』を利用してもいいでしょう。食べ物へのモチベーションをアップする効用もあります」
食べないと心配でつい大量のオヤツを与えたりトッピングを加えたりしたくなりますが、栄養の偏りが心配です。そもそも食べなくても問題ないケースもあるとか。
食べなくてもやせていなければ心配しなくてもいいでしょう。実はフードのパッケージに記載されている供給量は多めなんです。犬によってエネルギー要求量が違うので、少ない量でも満たされているのかもしれません」
すべての生き物は「努力して食べ物を得る」ことを好むとか。ごはんのためにがんばる楽しい時間を増やしてあげるのもよい方法でしょう。

ジュウザは、ごはんを食器から食べなくなった後も、「ノーズワーク」では食べられた。高齢でも病気でも、食う・寝る・遊ぶだけでは物足りない?

ジュウザがごはんを食べなくなったとき、病気以上に心配だったことを思い出します。「食べる」という当たり前のことが当たり前にできることに感謝したいですね。人も犬も楽しくおいしく食べられるような食事を考えてみましょう!

【セミナーのお知らせ】※セミナーは終了しました
古山先生が大切な家族の一員である犬や猫の健康のための、手づくりごはんや食材、栄養についてご紹介します。参加ご希望の方、ぜひ詳細をご確認ください!
●2018年2月14日(水)「犬と猫の手づくりごはん教室」
時間:10:15~「手づくり食 基礎編」/12:30~「犬猫栄養学」
場所:湘南T-SITE 3号館内「FERMENT(ファーメント)」

 

金子志織

編集&ライター、愛玩動物飼養管理士1級、防災士、ヒトと動物の関係学会会員、いけばな草月流師範 前職はレコード会社でミュージシャンのファンクラブ運営を担当。そのときに思い立って甲斐犬を迎える。初めての子犬の世話に奮闘するうちに動物への興味が湧き、ペット雑誌や書籍を発行する出版社に転職。その後、フリーランスのライター・編集者として独立。飼い主さんと動物たちの暮らしに役立つしつけや防災の記事から、犬のウンチングスタイルなど雑学の記事まで作成。現在も犬と猫を中心に、ペット関連のさまざまな雑誌、書籍、We…

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