音楽と動物を通して命の大切さを感じて欲しい 元劇団四季のメンバーが中心となった“心”を伝える活動

皆さんは、音楽はお好きでしょうか?人の人生を豊かにし、犬や猫にとっても効果があるとされる音楽。その音楽と動物を通して様々な活動をしている『みゅーまる』という団体があります。プロの音楽家や俳優、舞台スタッフなどが揃った独特の活動について、理事長の岡本和子さんにお話をうかがってみました。

<お話をうかがった方>
岡本和子さん
和子&zatoo木B(4280_s)_プロフィール150×166
国立音楽大学卒。1999年より劇団四季に在籍し、『ライオンキング』『エビータ』『李香蘭』など数々のミュージカル作品に出演する傍ら、同劇団の活動の一つ、『美しい日本語の話し方教室』で講師も務めた。2008年に退団後は現NPO法人『みゅーまる』を立ち上げ、仲間と共に動物愛護テーマのミュージカルや訪問活動など精力的に行っている。同法人理事長、歌手、俳優であり、愛玩動物飼養管理士1級、介護福祉士、笑い療法士などの資格ももつ。

活動の発端は、劇団四季の中にあった幻の“犬委員会”

舞台人らくしく明朗快活で表情豊かな岡本さんがまず語り出したのは、劇団四季の舞台に立っていた頃の話でした。なんと、劇団には一時期“犬委員会”なるものがあったというのです。

「当時、劇団代表であった浅利慶太先生が犬猫の殺処分の現状を知って、ある日、動物好きの団員たちを集め、委員会が結成されたんです。これをきっかけに他の団員らと一緒に、動物愛護センターや動物関連の施設を取材に行ったりしました。現実を目の当たりにし、なんとかできないものかといろいろ模索する中で、自分たちに何ができるかを考えた時、キャッツライオンキングでも舞台を通して命の大切さを伝えているわけですから、ミュージカルや子ども向けの作品を作り、そこに想いを乗せることで伝えられるものがあるかもしれないと考えました」

岡本和子れもん&zatoo花ワンピgreen_277×400
幼い頃から犬や猫、手乗り文鳥などと暮らしてきた動物好きの岡本さん。現在は、れもん(ミニチュア・ダックスフンド、♂、5歳)、みるてぃー(茶トラ猫、♂、5歳)、Zatoo(黒白猫、♂、1歳)と暮らす。れもんとみるてぃーは横須賀動物愛護センター出身、眼球のないZatooは犬の散歩中に保護をした猫。

しかし、新作ファミリーミュージカルの台本のたたき台を作るところまではいったものの、人気の高い劇団のこと、ロングラン公演で日々忙しく過ごす中、現実化するのも難しく、いつしか犬委員会はフェイドアウトしてしまったそうです。

その後、岡本さんは体調を崩し、劇団四季を退団しましたが、唯一の心残りは、その時の動物愛護を絡めた作品を創れなかったことだといいます。

 

介護福祉の世界で得た新たなヒント

それまでの生活がからりと変わり、岡本さんが最初に目指したのは動物について学ぶことでした。アニマルセラピー活動にも参加するようになり、そこで新たな気づきを得ることに。

「ちょうど祖父と祖母に介護が必要な時期だったこともあって、動物だけではなく、人の介護についても勉強しないと…と思い、ヘルパー2級を取り、2年後には介護福祉士の資格も取りました。その間、老人ホームや病院などの施設を仕事や訪問活動で回っていたわけですが、ある時、私が何気なく歌を歌ったところ、しょんぼりとしていたご老人がぽろぽろ涙を流して喜んでくれまして。その時に、音楽と動物をつなげた形もいいかもしれないと気づき、漠然とプログラムも浮かんできたんです」

和子&マコ(A4s)_572×429
今は亡きおじい様の愛犬だったマコ(パグ、♂、当時13歳半)。ドッグトレーニングも学んだ岡本さんは、マコに必要なトレーニングをし、一緒に訪問活動をするようになった。

 

横須賀動物愛護センターとの協力で生まれた音楽劇

やりたいと思ったことは前向きに即実行派の岡本さんは、徐々に協力者を得て、『みゅーまる』としての活動をスタートしていきます。とは言っても、当初は高齢者施設の訪問や音楽療法を兼ねたミニコンサートがちらほらある程度でした。

時を同じくして地元に動物愛護センターがオープンし、早速見学に訪れ、当時の所長さんに動物愛護のミュージカルやお芝居を作ってみたいと話したところ、大の音楽好きだった所長さんからは、「大歓迎です」という返事で、本格的に子ども向けの音楽劇を創ることになったそうです。

脚本を手掛けたのは、劇団四季のスタッフ。動物愛護センターと綿密なやり取りをし、『ぼくの声きこえる?』という作品が完成しました。

小田原「ぼくの声きこえる」_572×429
音楽劇『ぼくの声きこえる?』(小学校低学年~)のワンシーン。主人公となる殺処分されてしまった犬ジョンの目線を通し、命の大切さや動物と暮らす際の責任、日々の世話などについてわかりやすく伝える。現状のペットを取り巻く問題を少しでも解決するには、公と民が協力し合えてこそ。それゆえ、ボランティア目線だけに偏ったものではなく、公の目線や立場もバランスよく取り入れるよう努力した作品とのこと。

「一般的に動物愛護センターや保健所はなかなか足を向けづらい場所だと思いますし、殺処分の問題にしても重大さはわかりつつ、辛い、悲しいとなると目を背けたくなる人もいるでしょう。だからこそ、私たちは音楽やお芝居を通して前向きで楽しい環境を作り、一人でも多くの人に足を運んでもらい、知ってもらう。それによって変わっていくものもあるのではないかと思っています」

岡本さんのその言葉どおり、初演では多くの共感を得ることができ、横須賀、横浜、長野…と続けて上演されました。

衣笠小学校「ぼくの声きこえる?」b_300×400
小学校での上演。「子どもたちからは、すぐに素直な反応が返ってきます」と岡本さん。発声、歌、朗読、演奏、演技、場の作り方…どれをとってもさすがにプロだけあって、空気を通して肌に伝わってくるものが違う。

 

保護された4頭の犬たちが主役のミュージカル『ワンライフ』

2012年には動物フェスティバル神奈川に出演依頼があり、そのために新たなミュージカル『ワンライフ』を制作。

ワンライフ_572×375
『ワンライフ』(小学校高学年~)では、飼い主の無知からこの世に生まれたものの、余剰犬として動物愛護センターにもち込まれたチビ、繁殖犬として使われ続けた後に放棄されたトイ・プードルのサチ、虐待を受けていたジャーマン・シェパードのハッピー、家族との再会を待ち続ける被災犬のクロたちが、それぞれの境遇や想いを語り合う。脚本・作詞・作曲は、犬委員会のメンバーでもあった劇団四季時代からの友人の手によるもの。
ワンライフ・クロ和子・地球堂_572×429
クロ役を演じる岡本さん。初演後には県や獣医師会、環境省などからも声がかかるようになり、上演は今も続けられている。2017年11月に横須賀市地球堂メルシーボークで行われた公演にも、多くの人が足を運んだ。
コンサート地球堂_572×429
『ワンライフ』の上演時には、元劇団四季のメンバーによるミュージカルコンサートが行われることも。

 

制作・キャスト・演奏・動物、各チームの力を合わせて

みゅーまるの活動はミュージカルや訪問活動だけにとどまりません。

with着ぐるみ_572×429
保育園児や幼稚園児を対象としたキッズコンサートは、「犬のおまわりさん」「山の音楽家」のような動物が出てくる歌を中心に、手遊びや身体表現、音楽と併せた絵本の朗読などで構成される。
小さな世界_572×429
横浜市動物愛護センターが近隣の幼児や児童を無料招待して毎年開催している、動物とのつながりを伝える子ども向けコンサート。2017年は家族で楽しめるファミリーコンサートとして戸塚公会堂にて開催された。
和子・猫・黄_300×400
ファミリーコンサートで「猫の二重唱」(ロッシーニ)を歌う岡本さん。合唱や声楽の世界でよく歌われるこの曲は、歌詞が一切なく、猫の鳴き声のみで歌うもの。そこに表情や身振り、手振り、演技が加わると、観ている人によっていろいろなことが想像できる。
cd_400×400動物愛溢れるミュージシャン、アーティストが集結して制作されたCD『Love and music and animals Vol.2』にも参加(企画・制作/Love and music and animals project“バジルと犬猫を愛する仲間たち”、全11組12曲収録、価格2,000円)。
DSC_0424_572×370
横須賀動物愛護センター開放デーでのミニコンサートの様子(2017.11.23)。小さいお子さんを二人連れて参加したお母さんは、「初めてセンターに来ましたが、子どもたちが少しでも勉強できたのはよかったですし、こうした活動があることも知らなかったので、これからは応援したいです」と感想を述べてくれた。
DSC_0476_s_572×370
横須賀動物愛護センター開放デーで活躍したみゅーまるのメンバーさんたち。

協力できる人が可能なタイミングで参加するので、メンバーは活動ごとにいろいろです。プロの音楽・舞台関係者が多い中で、もちろん主婦や美容師さん、看護師さんなど一般の人たちもおり、それぞれ自分の特技を活かし、影の立役者として頑張っていらっしゃいます。

こうした活動が評価され、2013年には(公財)日本動物愛護協会の第5回日本動物大賞「動物愛護賞」、2016年には神奈川県獣医師会より「ハーモナイズ賞」を受賞。

 

蒔いた種が芽生える喜び

上記開放デーの折には、訪問活動を行った小学校の児童が家族と訪れ、所長さんにいろいろ質問しては一生懸命メモを取る姿も。その様子に岡本さんたちは目を細めます。以前にもセンターから猫を引き取り、家族連れで見せに来てくれた児童もいたとか。

活動を通じ、子どもたちがうちにいる犬や猫、魚であっても、可愛がろうと思ってくれたなら十分です。それが大切なことですから。目の前にあるすぐできる行動、その一歩につながれば嬉しいですね。そうやって子どもたちの柔らかい心が育ち、大人になった時には何かが変わっていることを願いながら、これからも活動を続けていきます」と岡本さん。

音楽が心に響くように、動物たちの声も届くよう…。

DSC_0482_572×370
メンバーさん手作りのグッズ

児童養護施設も訪問するそうだが、ある子が、「うち(施設)にはみゅーまるが来るんだぜ」と自慢げに友達に話しているのを聞き、何かが足りない子どもらの心の片隅を埋めることができているのであれば、とても嬉しいと。この温かみあるメンバーさん手作りのグッズのように、ほんわりとした心ある人たちが集まったみゅーまるである。

その話には、事情があってボランティア的な活動はできない人であっても、動物を愛する者としての心をもっているだけで、きっと変えていけることもあるのではないでしょうか。そんな気がしてきます。

【近々の活動予定】※イベントは終了しました
ファミリーコンサート&保護犬たちのミュージカル『ワンライフ』フライヤー_572×400●日程:2018年2月25日(日)
●場所:東京都中目黒GTプラザホール 昼と夜の2回公演
●料金:大人2,800円、中学生以下1,000円

写真提供/特定非営利活動法人 みゅーまる

関連サイト/特定非営利活動法人 みゅーまる

 

大塚良重さんの記事バックナンバーを読む

大塚良重

犬もの書き、愛玩動物飼養管理士、ホリスティックケア・カウンセラー 雑誌、書籍、Web、一般誌などで執筆を続けて20年以上。特に興味があるテーマは、シニア犬介護やペットロスをはじめとした「人と動物との関係性」。昨今は自身が取材をお受けすることも増えており、読売新聞、毎日新聞、サンデー毎日、クロワッサン、リクルートナビなどの他、ラジオ出演、テレビ番組制作協力なども。自著に、難病の少女とその愛犬の物語『りーたんといつも一緒に』(光文社)がある。一度想うとどこまでも、愛犬一筋派。 ▶主な著書: 『りーた…

tags この記事のタグ