キジトラや茶トラなどのトラ縞(しま)模様以外にも、アメリカンショートヘアーやアビシニアンなど、縞模様の猫がいます。今回は縞模様の猫の毛柄をつくる遺伝子や性格について解説します。
猫の縞模様は主に3種類
1.マッカレルタビー
日本で最も多いのはいわゆる「トラ縞」で、専門用語では「マッカレルタビー」と呼ばれる縞。細い縞が平行に並ぶため「ストライプドタビー」ともいいます。
2.クラシックタビー
アメリカンショートヘアでおなじみの太縞は「クラシックタビー」。トラ縞より太くて、横腹に渦巻き模様が表れるのが特徴です。
3.アグーティタビー
そして、アビシニアンなどは「アグーティタビー」または「ティックトタビー」という縞模様。えっ、これが縞模様? 一色の猫なんじゃないの? と思うかもしれませんが、じつはマッカレルタビーやクラシックタビーより縞が細かいため全体的には縞がはっきり表れず、ごましお状に見える模様なのです。
猫の縞模様は主にこの3種類。
野生猫にはマッカレルタビーしか存在しなかったのですが、突然変異で残りの2つが誕生しました。
そしてこの3つには遺伝の強さに違いがあります。
アグーティタビーが最も強く、クラシックタビーが最も弱いという関係です。
マッカレルタビーとクラシックタビーが交配した場合、マッカレルタビーが生まれる確率が高く、アグーティタビーとマッカレルタビーが交配した場合、アグ―ティタビーが生まれる確率が高くなります。
本来の猫の縞模様であるマッカレルタビーより、突然変異で生まれたアグーティタビーが遺伝的に強いのはちょっと不思議な気がしますが、元祖の遺伝子がいつでも一番強いわけではないのが事実。その証拠に、白猫の遺伝子Wはこれらすべての縞模様より強いため、アグーティタビーと白猫が交配したら白猫が生まれる確率が高いのです。
猫の縞模様、欧米では断然多い「クラシックタビー」
クラシックタビーは中世のヨーロッパ(おそらくイギリス)で突然変異によって生まれたといわれています。ただし、クラシックタビーは劣性遺伝のため、両親ともクラシックタビーの遺伝子をもっていなければクラシックタビーは生まれません。生まれる確率が少ないのです。それなのに、ヨーロッパやアメリカではクラシックタビーが他の縞模様より多く、特にイギリスでは80%の猫がクラシックタビーの遺伝子をもっているといわれています。普通のトラ縞のほうが少ないため、人気があるくらいだとか。
なぜこれほどまでに欧米ではクラシックタビーが増えたのか、理由はさだかではありません。生存に不利な突然変異であれば、現れたとしてもそのうち消えてしまうか、ごく少ない割合しか存在しないはずです。
ここからは憶測になりますが、例えばクラシックタビーの遺伝子は模様以外に、生存に有利になる特徴も発現させるのではないでしょうか。例えば人間に友好的な気質になったり、免疫力が強くなるとかであれば、劣性遺伝なのにここまで多いのも納得ですよね。
面白い説では、イギリスの産業革命時代には工場から出る煙で街中が黒っぽくなったため、太い縞のクラシックタビーや黒猫が保護色となって生き残りやすかったという説も……。専門用語では「工業暗化」と呼ばれる現象ですが、普通のトラ縞とクラシックタビーでそんなに大きな差があるのでしょうか?
アジアではこのクラシックタビーは(純血種の猫でない限り)あまり見られませんが、イギリスの植民地だった香港では50%弱と高い割合を占めているそう。おそらく、その昔船でイギリスから運ばれた猫が増えたのでしょう。
ちなみに、猫の元祖の縞はマッカレルタビー。クラシックタビーが「classic」(伝統的な)と名付けられたのは、クラシックタビーの猫がヨーロッパに多く、当時ヨーロッパにいた生物分類学者:リンネさんが、クラシックタビーの標本で「猫」を記載してしまったため。ややこしいネーミングになってしまったわけです。
猫の縞模様「クラシックタビー」は陽気で温和?
クラシックタビーの代表選手、アメリカンショートヘアの性格は、陽気で温和・活発、といわれます。
2018年に京都大学が発表したデータでは、アメリカンショートヘアは攻撃性が低くとても活発だったという結果が出ています。これはDNA研究によるもので、長年いわれていたアメリカンショートヘアの性格と一致します。
しかし、忘れてはならないのは、アメリカンショートヘアはクラシックタビーだけではないということ。真っ白や真っ黒の毛色もいますし、「アメショー=クラシックタビー」ではないのです。また、他の品種や雑種にもクラシックタビーは存在します。例えばスコティッシュフォールドのクラシックタビーもいますが、スコティッシュフォールドはアメショーのような活発さはなく、おっとりした気質です。つまり、クラシックタビーだからこの性格、とは一概にはいえないのです。
猫の縞模様「アグーティタビー」は活発で独立心旺盛?
アグーティタビーが特徴のアビシニアンの性格は、活発・よく鳴く・人にあまり頼らない、といわれています。アグーティタビーの猫すべてがこうした性格とは限りませんが、共通したものはあるのかもしれませんね。
アビシニアンの名前の由来は、ルーツになった猫がエチオピア(旧アビシニア)で発見されたことから。アビシニアンから生まれた長毛の猫を品種として固定したのがソマリです。名前の由来は、アビシニアの隣国、ソマリアから(ダジャレ?)。性格はアビシニアンと似通っているのでしょう。
2016年にアメリカの大学が行った調査によると、アグーティタビーの猫は他の猫に対する攻撃性が高めだったとのこと。ネズミでもアグーティの個体はストレス反応が強いことから、やや神経質で攻撃性が高まってしまうのかもしれません。
しかし同時に、アビシニアンは人との社交性は高く、騒音にもあまり恐怖を示さず、抱っこなど体を拘束されることも平気な猫が多いとか。神経質には思えませんが、どうなのでしょう?人は平気でも猫は嫌なのでしょうか?
ちなみにアグーティタビーの遺伝子は東南アジアに多く、バングラデシュではほとんどすべての猫がアグ―ティタビーの遺伝子をもっているそう。日本では純血種以外にはほとんど見られません。
縞模様猫図鑑
最後に、いろんな縞模様の猫をご紹介しましょう。
●白が入るクラシックタビー
体の一部に白が入るクラシックタビーもいます。ハチワレ&くつした柄です。
●レッドクラシックタビー
茶トラと同じ毛色。茶トラは専門用語でレッドです。
●グレー&シルバークラシックタビー
こんな毛色のクラシックタビーも。
●長毛のクラシックタビー
ややわかりづらいですが、横腹にうずまき模様があります。
●アグーティタビーにもいろんな毛色が
アビシニアンの子猫たち。それぞれ毛色が異なるのがわかります。アグーティタビーには他にはないニュアンスがありますね。
●シンガプーラもアグーティタビー
世界最小の猫として知られるシンガプーラも、アグーティタビーの柄が特徴です。
●斑点模様も縞模様の一種
ヒョウのような斑点模様は、縞模様が途切れてできたものです。
<他の猫柄のひみつはコチラ>