人慣れしていない保護猫を迎えたら?信頼関係を築く5つのポイント|行動学の専門獣医師が解説

猫ブームで、保護猫を迎える飼い主さんも増えてきました。しかし、子猫と違って、すでに大人になった保護猫を迎える場合は、難しさも伴います。今回は、成猫の保護猫を迎えるときの接し方、信頼関係の築き方について取り上げます。

「ケージ」は上手に距離を縮める道具

人慣れしていない成猫を迎える場合は、まずケージを用意します。猫のために一部屋を用意する飼い主さんもおられますが、部屋を与えてもすぐに隠れてしまって、猫との距離を縮められません。保護猫を迎えたときに一番怖いのは、逃げること。人間は早く慣れてほしいと猫を部屋の中で自由にさせますが、猫は怖いから逃げ出したい一心で、少しの隙をついて外へ脱走します。家も人も信頼できて逃げる必要がないと猫が確信するまで、フリーにするのはかえって危険です。

ケージというと“拘束”のイメージが強いかもしれませんが、距離を上手に縮める道具と考えてください。人に慣れていない子を家の中で野放しにしても、すぐに隠れて、いるかいないかわからないような生活を続けるだけ。ある程度観念させる意味でも、ケージの中にいる状態でコンタクトを始めたほうがいいと思います。猫は高い所を好むので、ケージは背の低いものではなく、可能なら2段、理想的には3段のものを。ある程度長期戦になるので、中にトイレや爪研ぎなどの生活用品と隠れられる場所を設けてあげましょう。

 

最初は「お世話する」だけで構わないこと

最初の1週間ぐらいは、本当にお世話だけしてください。こちらから無理に距離を縮めようとすると、最悪な事態にしかなりません。アイコンタクトもなし、動きも小さくして、「ごはん、あげるよ」とか「トイレ、そうじさせてね」とか、優しく声をかけながら最低限のコンタクトでお世話するのがベストです。

猫によっては、何年たっても触らせてくれない子もいます。私の知人の猫も、何年も一緒に暮らしているけど、寄り添うことはできても抱っこは絶対無理。その子の社会化のレベルや人への興味、トラウマの有無などを見ながら、猫の側から人に寄ってくるのを待ちます。

様子をうかがうキジトラ猫

私がいま相談を受けているのも、成猫の野良猫を保護し、一部屋を与えて脱走された経験の持ち主。飼い主さんは最初、どうしても一生懸命コンタクトをとろうとします。でも猫のほうは逃げてしまって全然とれない。私は、部屋に入ったら何もせず、本でも読んでいてくださいと言っています。ただそばにいるだけで、人の存在に慣れさせていく。そのうち人への興味が増してきたら、必ず寄ってきます。そうしたらおやつを投げ与えてみたり、おもちゃで誘ってみましょう。

 

猫とコミュニケーションをとるコツ

徐々にコンタクトできるようになったら、頭やあごのあたりを触ってみます。それもごく短めで、ベタベタ触らない。一番いいのは、猫のボディランゲージをきちんと読んで、怖がっていないか、いらだっていないか、つねに確認しながら接すること。

例えばしっぽを振っていればイライラのサイン、しきりに舌なめずりをしていれば緊張のサイン、他にも瞳孔の大きさや体の硬直度合いなどを見ながら、距離を縮めていきます。近づくペースは猫任せ、絶対に人のペースで無理やり触ろうとしたり抱こうとしてはいけません。

様子をうかがっているキジトラ猫

気長な取り組みが必要ですが、必ずしもすごく時間がかかるとは限りません。意外とおやつでころっと心を許してくれたり、おもちゃで遊ぶ楽しさを覚えるケースも。若ければ若いほど、順応性があって慣れやすいです。

猫とのコミュケーションで心がけることは…
●鳴き声を返す
動物に共通して言えることですが、例えば猫がニャーと言ったら、同じようにニャーと返してあげる。同調性が出て、仲間意識が高まります。

鳴くスコティッシュフォールド

●視線を外す
猫が来てまだ間がない頃に、一生懸命お世話していてたまたま目が合ってしまった。そんなときは、まばたきを、パチパチではなくゆっくりしながら顔をそらすと、「あなたの敵ではありません」というサインに。アイコンタクトは互いに信頼があればいいものですが、信頼関係にない相手から目を見られることは威圧になります。もし目が合ってしまったら、そんなふうに回避してください。

●目線の高さを低く
人間は、猫からするとすごく大きな動物なので、目線の高さにも注意を。例えば1段だけのケージだと、上から人がのぞくだけで相当な威圧になります。接するときは、「目線はできるだけ低く」を心がけて。

 

先住猫がいる場合の注意点

先住猫がいる場合は、とくにケージは必須です。猫どうしの相性もあるし、病気の問題もある。環境が変わると発病しやすいので、感染を防ぐためにも必要です。いきなり一緒にすれば、たぶん仲違いします。先住猫が受け入れても、迎えた子は新しい環境だとパニックになって受け入れが難しいので、最初はできれば先住猫と会わせず一部屋与えてケージを置き、夜になったらケージに入れるようにしてください。だんだん新しい環境と人に慣れてきたら、ケージを空けた状態にして、保護猫が自分の意思で自由に出入りできるようにしていきます。

人慣れしていない成猫を迎えた場合、先に猫どうしを会わせたほうがいいのか、ある程度人慣れしてから猫に会わせたほうがいいのかは、ケースバイケース。保護した猫が猫好きで、かつ先住猫が優しくて上手にコミュニケーションがとれる子なら、猫が先でも構いません。

 

よりスムーズに迎えるために

その他、保護猫をよりスムーズに迎えるためにできることとして…
●においで安心させる
猫は嗅覚が発達しているので、においに敏感です。もし保護団体から迎えるのなら、事前に保護主さんや家のにおいがついたものを渡して猫に慣れさせておいたり、逆にその子のにおいのついたものを受け取って家の中にその子のにおいをつけておいたりすると、“初めて感”が薄れて落ち着くかもしれません。

また、猫は香りの強い柔軟剤や香水、芳香剤などを嫌がることが多いので、動物を迎える優しさとして、香りの強いものは控えたほうがいいでしょう。

●詳しい情報を知っておく
可能なら、保護団体の人から、その子に関する詳細な情報をもらっておくと、対処しやすくなります。例えば男性に虐待されていた猫であれば、何週間かはご主人とコンタクトさせないようにするなど、迎える準備ができます。

●保護猫を迎える覚悟をもつ
そして、最も重要なのが、本当に保護猫を迎える覚悟があるかということ。「かわいそうな子を一匹でも助けられたら」といった安易な気持ちは持たないほうがいいです。成猫の保護猫はいろんな過去を背負っており、迎えるリスクは高いです。それまでに人の愛情をいっぱい受けて育った成猫であれば譲渡されても問題ありませんが、その部分が欠落している場合は大変です。保護猫を迎える責任の重さを十分に知っておいてほしいと思います。

とはいっても、犬にも猫にも人が飼いならしてきた歴史があり、野生動物の本能はあっても、時間をかければ、信頼もしてくれるし心も開いてくれます。時間をかけてゆっくり距離を縮めることが大事だと思います。

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石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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