愛犬の「鼻水」は生理現象?それとも病的なもの?見きわめのポイントはココ![獣医師コラム]

愛犬が鼻水を垂らしていると、風邪?アレルギー?何か鼻の病気?…と大慌てする飼い主さんも少なくありません。でも、鼻水の大半は放置してもとくに心配のない生理現象。今回は、犬の「鼻水」を中心に、「鼻血」や「逆くしゃみ」など、鼻に関わるトラブルについて取り上げます。

 

鼻水のチェックポイントはココ!

基本的に透明な鼻水は生理的なもので、あまり心配はいりません。水のような鼻水は犬が自分で舐めとってしまうので、飼い主さんが気づかないことも多いと思います。もし愛犬の鼻水が気になる場合は、次の点をチェックしてください。

サラッとして透明なものか、ドロッとして色がついたものか
出ているのは片側からか両側からか
どんな状況のときに出るか(家の中か外か、季節性があるか、など)

それによって考えられる病気やトラブルを、以下にまとめてみました。

 

感染性の鼻炎によるもの

犬は、猫風邪がある猫ほど鼻水による来院はありませんが、比較的多いのは細菌感染による鼻炎です。ドロッとして色のついた膿性鼻汁、いわゆる“青っぱな”が両側の鼻から出ます。治療は抗生剤や消炎剤などの投与を行います。

 

鼻腔腫瘍が原因の「鼻血」

鼻水よりも鼻血が垂れてくることがあります。犬はめったに鼻血を出さない動物なのでこの場合は瘍が強く疑われます。鼻の中の腫瘍は外から見えないので早期発見が難しく、腫れてきて気づくより鼻血で見つかることが多いです。そのため、鼻血で来院されると、かなり進んだ検査まで行うことがあります。レントゲンではわからないことも多いため、鼻の中の細胞を採取して細胞診を行い、その上でCTやMRIなどの検査へ進むことも。

鼻腔腫瘍が厄介なのは、手術ができないこと。昔は鼻ごと切除するといったことも行われていました。最近では口の中からアプローチするなど、いろんな方法が試みられていますが、完全に取り切るのは難しいです。腫瘍のタイプによっては放射線が有効と言われていますが、何クールもの治療が必要なため麻酔のリスクや費用の問題も出てきます。飼い主さんにとってはかなりハードルの高い治療になります。

 

高齢犬なら歯が原因の鼻水も

ある程度、年をとった犬の場合、歯が原因の鼻水であることも多いです。歯周病で上顎の犬歯の奥にある大きな歯の根本が炎症すると、目の下あたりに穴が開いて膿が出てきますし、炎症しているのが犬歯の根本だと、鼻の中に膿が抜けるためドロッとした鼻水が出てきます。「上顎歯瘻(じょうがくしろう)」と言います。両側の歯が一気に腐ることはまずないので、青っぱなが垂れてくるのは片側です。歯周病が原因で来院するコは、お手入れの習慣ができていないので、病院で歯石を除去しても、半年ぐらいでまたトラブルを起こすことが多いですね。

歯の問題が起きやすいのは、圧倒的に鼻の出ている犬種(ダックス、トイプードル、ミニチュアピンシャーなど)です。これらの犬種は牙が大きく、しかも根本が見えている部分の1.5倍ぐらい深く刺さっているため、炎症部分も大きくなります。対して、短頭種(パグやフレンチブルドッグなど)は歯が小さく根本も小さいため、炎症を起こす部分が小さく、意外とトラブルが起きにくいのです。

 

放置しても大丈夫な鼻水とは

透明な鼻水が垂れているケースは、通常、生活に支障を来すことがなければ、治療対象になりません。空気中の何かの物質に反応しているのかもしれませんが、そもそも鼻水の役割を考えれば、鼻の中に吸い込んだ異物を排出するのは自然な生理現象といえます。もし気になるレベルであれば、鼻水がどんな状況のときに出るのか、家の外なのか中なのか、季節性があるのかどうかなど、チェックしてください。

くしゃみと鼻水を心配して来院される方もいます。くしゃみと一緒に鼻水が飛ぶのは当たり前のことですが、そもそも犬がくしゃみをすることを知らない飼い主さんもいます。先日も、子犬のくしゃみが止まらないと大慌てで来院されたケースがありました。くしゃみはだいたい何かの刺激で起きるのですが、この場合は消臭スプレーが原因でした。くしゃみも鼻水も頻度の問題で、ひどければ病的なものと考えられますが、日に1、2回程度なら心配はいりません。

 

「逆くしゃみ」という不思議な現象

目にした飼い主さんが心配されるものに、「逆くしゃみ」という、息を吸うときにガーガーと苦しそうな音をたてる現象があります。過呼吸に似ていますが、過呼吸ではなく、吸った空気が変な所に行ってしまっているだけで、危険はありません。治す方法はなく、止まるのを待つだけ。口と鼻を押さえて呼吸をリセットしてあげると止まることもありますが、必ず有効というわけではないようです。

犬種的には、パグやフレンチブルドッグ、チワワなどによく見られます。のどの軟口蓋の腫れが原因で起こることもあり、その場合はステロイド剤で腫れを抑えたり、手術で軟口蓋を切除することもあります。

逆くしゃみがどんなものなのか、飼い主さんに口頭で説明しても伝わりにくいので、Youtubeなどの動画サイトで事例を探して見せてあげると、「あ~、うちのもこれです」ということになります。犬種によってもイメージが違うので、「逆くしゃみ」と「犬種名」で検索するといいでしょう。

 

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箱崎加奈子

獣医師、トリマー、ドッグトレーナー、アニマルクリニックまりも 院長 麻布大学獣医学部卒。 気軽に立ち寄れるペットオーナーのためのコミュニティスペースを目指し、「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」を東京都世田谷区、杉並区に開業。病気はもちろん、予防を含めた日常の健康管理、ケア、トリミング、預かり、しつけなどを行う。2020年よりピリカメディカルグループの運営会社 株式会社notに参画。現在、ピリカメディカルグループ総院長を務める。 ▶アニマルクリニックまりも ▶女性獣医師ネットワーク

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