犬の外耳炎。繰り返しやすい犬の耳のトラブル、異常の見極めと自宅ケアのポイント[獣医師コラム]

耳がにおう、耳垢で汚れる、かゆがる。愛犬にそんな症状がみられたら、「外耳炎」が疑われます。5月頃から、涼しくなって湿度が下がる秋頃までは、耳のトラブルが増加する季節。外耳炎は体質によって繰り返しやすいので、異常のチェックポイントや、予防のための自宅ケアについても知っておきたいですね。
 

外耳炎かどうかは、どこで判断?

外耳炎は、ニオイ、汚れ、赤みなどで気づくことが多いです。耳の中をのぞいてみて、汚れがなくて、いつもと同じピンク色であれば、異常なし。また、もともと耳のニオイはゼロではないので、ニオイもいつもと同じなら大丈夫です。
耳垢は、一般にベタベタの方がトラブルが多いですが、耳疥癬のようにパイ皮状の乾いた耳垢が出るものも。耳垢の色は黄色、茶褐色、黒等、体質によって様々で、色だけでトラブルの有無は判断できません。これも、いつもの色だったら大丈夫ということになります。
かゆみも外耳炎の主な症状の一つ。耳をかいていたり、あるいは耳のまわりの毛がもつれていたり、毛が抜けていたりと、耳の周辺をかいた痕跡がないかもチェックして。頭を頻繁に振るようになると、かなり重症です。

 



外耳炎の多くは、常在菌の増殖が原因

外耳炎の原因は、細菌、マラセチア(真菌)、寄生虫(耳ダニ)、アレルギーなど様々。ほとんどの場合、耳の皮膚の常在菌が増えすぎて起こることが多いのですが、多頭飼育の環境下では耳ダニがまん延している可能性も。成犬は感染しても発症しにくいのですが、子犬は親犬から引き離されてきたときに発症することが多いです。

 

重篤なケースでは、手術で耳道を切除することも

治療は、耳洗浄をベースに、原因や症状に合わせて、抗生剤や抗真菌剤、駆虫薬、炎症を抑える薬などが用いられます。
悪化すると、外耳炎から中耳炎へと発展することもあります。重篤なケースでは、耳道(耳の穴)を切除する手術を行うことも。炎症を起こしている部分を切り取るのですが、ひどいと鼓膜や軟骨等も取り除くことに。こうした処置が必要になるのは、炎症がひどく、耳の穴が腫れてふさがってしまい、耳も聞こえず、かゆい・痛い・膿などの不快感しかない状態で、他の治療では治せなかった場合の最終手段です。アメリカンコッカースパニエル、シーズー、柴犬等に多くみられます。

 

とくに垂れ耳犬種は要注意!

基本的に、耳トラブルが多いのは垂れ耳犬種ですが、立ち耳でも柴犬はアレルギー絡みの外耳炎がよく見られます。また、黒い毛色の方が耳垢が出やすく、プードルも毛色の薄いコより、ブラックの方が耳垢が多い傾向があります。
また、年齢による耳垢の変化はあまりなく、体質によるものが最も大きいです。

 

自宅ケアは、イヤークリーナーで湿らせた綿棒やティッシュで

耳のお手入れの頻度は個体差による違いが大きく、毎日お掃除が必要なコもいれば、まったくしなくても大丈夫なコ、夏場だけ必要なコもいます。飼い主さんが、それぞれのつき合い方をよく把握しておきたいですね。外耳炎になりやすい体質のコは、ずっと付き合っていくことになるので、とくに重要です。
自宅でのケアは、見える範囲の汚れを取るだけでも効果があります。綿棒でもティッシュでも構いませんが、乾いたままだと傷をつけやすく、痛がることもあるので、イヤークリーナーや水で湿らせたものを使用するといいでしょう。また、犬の耳はL字型に曲がっているので、綿棒を押し込んでぐりぐりするのはNG。汚れを奥に押し込んでしまいます。綿棒を入れたら、中でかき回さずにスッと拭うのがコツです。
ティッシュを水で湿らせただけでは、ベタベタ汚れが取れない場合は、適切なイヤークリーナーを選んであげることも大切。ベタベタを取る成分入りのもの、抗菌剤入りのもの、油を溶かす成分が入っているものなど、市販のクリーナーにも様々な種類があります。同じ犬でも、ベタベタを取るときはこのクリーナー、耳垢が多いときは抗菌剤入りのものを…などと、飼い主さんが使い分けられるようになると理想的です。

 

一番良くないのは、“汚れの深追い”

耳掃除の方法や点耳薬の使い方を正しく知らず、失敗している飼い主さんもよく見られます。また耳を触らせてくれず、点耳薬を入れさせてくれない犬もいます。最初は、動物病院でケアのしかたを教えてもらい、徐々に慣らしていきましょう。自宅でのケアは、無理をしないことが鉄則。自信がなければ、見える範囲だけにとどめて。汚れの深追いが一番良くないので、少しやって取れなければ、明日にしましょう。お掃除のしすぎで、かえってトラブルを起こすケースは少なくありません。耳掃除以外の対策としては、垂れ耳のコは耳を上にあげてとめておき、通気を良くしたり、空調を除湿にして、室内環境をコントロールすることも有効です。
耳がいつもより汚れてきたり、状態が良くなくなってくると、体の皮膚にも症状が現れてくることがとても多いんです。愛犬の耳の状態が悪化したら、体の皮膚にも注意して、湿疹がないか、かゆがっていないか見てあげてください。

 

<関連リンク>

▶Petwell犬の病気事典「外耳炎」

 

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箱崎加奈子

獣医師、トリマー、ドッグトレーナー、アニマルクリニックまりも 院長 麻布大学獣医学部卒。 気軽に立ち寄れるペットオーナーのためのコミュニティスペースを目指し、「ペットスペース&アニマルクリニックまりも」を東京都世田谷区、杉並区に開業。病気はもちろん、予防を含めた日常の健康管理、ケア、トリミング、預かり、しつけなどを行う。2020年よりピリカメディカルグループの運営会社 株式会社notに参画。現在、ピリカメディカルグループ総院長を務める。 ▶アニマルクリニックまりも ▶女性獣医師ネットワーク

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