もともと「便秘」が少ない犬だからこそ油断は禁物! 裏に病気が隠れていることも[獣医師コラム]

下痢はよく見られるものの、便秘は猫に比べて少ないのが犬。それだけに便秘になったときは裏に病気が隠れている可能性が高く、より注意が必要です。今回は犬の「便秘」の原因と対策について取り上げます。

 

便秘の定義とは?

「何日出なければ便秘ですか?」と聞かれますが、便秘=“完全に出ない”ということではありません。犬で完全に出ていなければ、それは病気です。出ているけれどコロコロしたうんちしか出ないとか、出ている量が少ないとか、それも便秘。

人間も同じですが、便秘の人が「私は出ています」と言ってレントゲンを撮ってみると、腸にたくさん便が滞留しているケースがあります。定義としては、少ししか出ないとか、毎日定期的に出ないとかも含めて便秘です。

 

便秘の裏にこんな病気の可能性が・・・

便秘が水分の摂取不足や食事の変更などによるものであれば、それほど心配はいりませんが、病気が原因になっていることもあるので油断は禁物です。

●ヘルニア
ヘルニアには「鼠径(そけい)ヘルニア」「臍(さい)ヘルニア」「会陰(えいん)ヘルニア」などがあり、それぞれ股、おへそ、肛門のところに隙間ができて、そこに消化管が脱出してぷくっとした膨らみができます。それによって腸が閉塞されて、排便障害を起こすことに。ヘルニアの子は早めに治したほうがいいと思います。

●椎間板ヘルニアや馬尾症候群など
椎間板ヘルニアや馬尾症候群(脊髄の下端からしっぽに向けて伸びる馬尾神経の異常)などで体に痛みがあると、スクワット姿勢がとれなかったり、力むと痛かったりで、排便がスムーズに行かないことがあります。

私たちも膀胱炎になるとおしっこをするのに勇気がいりますが、それと同じですね。私の患者さんのワンちゃんも、急に変な場所でうんちをしたりおしっこをしたり、トイレ行動が大きく変わったので、調べてみたら馬尾症候群でした。

●腫瘍
お尻まわりや消化管に腫瘍ができて、うんちが細くなったり出づらくなることもあります。愛犬のサイズがこのくらいで、この食事をしていれば、これぐらいのサイズのうんちが出るというのは想像がつきますよね。それが本来の消化管の形ではない平べったい細いうんちが出るときは、やはりおかしい。どこかに狭窄があり、つぶされている可能性があります。

●前立腺肥大
男の子の場合、去勢をしないと、早ければ4歳ぐらいから少しずつ前立腺が大きくなります。肥大しても悪さをしないケースもありますが、肥大化が進むと排便・排尿障害や歩き方もおかしくなってきます。

●異物誤飲
犬は異物誤飲も多いです。異物が腸に詰まってしまうと、吐き気がしたりうんちも正常に出てきません。恐いのは、異物が詰まっていても隙間から粘液状のものは出てこれるので、それを下痢と勘違いしてしまうこと。

飼い主さんが異物誤飲に気づかないまま「うちの子、下痢で変な粘液便をします」と言ってきたときには手遅れのことも。友人のゴールデンの子犬も対応が遅れ、開腹時にはすでに消化管が壊死した状態で、結局亡くなってしまいました。

●脱水
高齢になると肝臓が悪くなる子が増えてきます。肝疾患になれば腎疾患を伴うことも多く、腎臓が悪くなれば脱水を起こして、うんちが出づらくなります。また内分泌系の疾患で血中の電解質のバランスが崩れた場合も脱水を起こしやすく、便秘の原因に。

 

飼い主さんができる予防と対策

●予防の原則
便秘への対策として、まず普段のうんちの量や太さを、飼い主さんが把握しておくこと。そうすれば、何か細いぞとか、ちょっと違うぞと異常に早く気づけます。こうした毎日の便チェックとともに、水をしっかり飲ませて脱水をさせないこと。さらに一定のシニア期に入ったら、半年に一度は健康診断を受けて全身をチェックすることも重要です。

●食事のチェック
うんちは食べるものによっても変わります。私は手作り食を取り入れていますが、手作り食の日とドッグフードの日では、うんちのかさが全然違います。グレインフリー(穀物不使用)や生食だと、うんちの量は減ります。ドッグフードの変更でも、うんちの量、におい、色などが変わってくるので、食事による影響もチェックしたほうがいいでしょう。

●水分補給
病気が関わっていない便秘であれば、水分を多めに摂らせる配慮を。犬に無理やり水を飲ませることはできないので、好物の肉汁やリンゴ、キュウリ、トマト、レタスなど水分の多い果物や野菜をあげたりして水分を補います。牛乳を与えてわざと下痢をさせる人もいますが、もし病気が潜んでいる場合、症状が隠れて発見が遅れかねないので、あまりおすすめできません。

●ハーブを使う
病気がないという前提で、ハーブを使うことも。ダンディライオン(西洋タンポポ)やローズヒップはうんちを緩くする作用があります。ハーブティーで与えても、微粉末にしてごはんに混ぜてもかまいません。オオバコ科のハーブを顆粒にしたものが市販されているので、それをごはんに混ぜてもいいでしょう。オオバコ科は粘液質が強く、うんちをぬるぬるにします。使う量によって便秘にも下痢にも使えます。

ペパーミントも便秘にも下痢にも使え、消化管ハーブと呼ばれています。メントールの刺激が強いので、ハーブティーにして少量ずつ様子を見ながら調節してください。ごはんにかけてひたひたにしたり、お水代わりに飲ませてもいいですね。

●オイルを混ぜる
ごはんにティースプーン1杯ぐらいのオイルを混ぜる方法もあります。オリーブオイルやヘンプオイル(麻実油)など、健康にいいオイルを選ぶこと。

●腸内環境を整える
ヨーグルトなどの乳酸菌やオリゴ糖を摂って腸内環境を整え、便秘の改善に。整腸剤のビオフェルミンは犬にも使えます。

 

素人判断は危険、「2日」出なかったら動物病院へ

インターネットなどで便秘対策を調べて、愛犬のおなかをマッサージしたり、繊維質のものを与えたり工夫をされる飼い主さんもおられるかもしれません。しかし、犬の場合は便秘の裏に病気が隠れている可能性が高いので、飼い主さんが自己判断で下手に手を出すと、症状が隠れて診断が遅れることにつながります。

一つのめやすとして、まるまる「2日」うんちが出なかったら、動物病院へ。また何度もトイレに行くのになかなか出なかったり、トイレの滞在時間が長かったり、スクワット姿勢のまま歩いていたり…こんな姿が頻繁に見られたら、これも要注意です。

石井 香絵

獣医師、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表、AVSAB(アメリカ獣医行動学会)会員 麻布大学獣医学部を卒業し動物病院で一般診療を行った後、動物行動学、行動治療を学ぶために渡米。ニューヨーク州にあるコーネル大学獣医学部の行動治療専門のクリニックに2年間所属し帰国。現在はワンちゃん、ネコちゃんの問題行動の治療を専門とし臨床に携わる傍ら、セミナー・講演活動など幅広く活躍。2013年からは、アニマル・クリスタルヒーリングのファシリテーターの養成を始める。愛…

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